第95話 弟子二人、海上へ
◆ミオン・ドーナ◆
クロアに送り出され、二人は軍団長と共に門の前へ来ていた。
ミオンは久々の実戦に緊張しているみたいだが、ドーナは思いの外落ち着いているように見える。
しかし見えるのは外見だけで、目の奥には復讐の炎が見え隠れしていた。
「ドーナさん、大丈夫ですか?」
「押忍。落ち着いてるっす」
「……そうですか」
ミオンからしたら、その落ち着きが却って怖い。
普通、復讐の対象を前にしたら、落ち着いてなんていられないだろう。
ドーナに不安感を覚えていると、軍団長が二人を振り返った。
「ドーナ、ミオン殿。我らは国の周囲を警戒するが……二人はどうする? クロア殿は二人に任せると言っていたが」
「ハッ、軍団長。自分たちは海のギャングのアジトに向かいます」
(そうなりますよねぇ)
ドーナの言葉に、ミオンは内心嘆息した。
ネプチューンの水域探知では、海のギャングのアジトの場所は掴めなかった。
ということは、アジトは陸のどこかにあるということ。そこまでは、魚人族ではいくら探しても見つからない。
が、アジトの場所はついさっきウィエルが魔法で見つけ、事前に教えてもらった。
だから行こうと思えば、今すぐいける。本当は行きたくないのだけど。
そんなミオンの本音を知らず、ドーナはやる気満々だ。
軍団長もそんなドーナを見て、ゆっくり頷いた。
「そうか……なら、軍からも十数人の部隊を編成する。いくら二人が強くとも、もしものときがあるからな。一時間ほど待て」
「ハッ、ありがとうございます。ですが心配無用です。……俺たちだけで、やります」
殺意と敵意がこもった言葉に、軍団長は思わず二の句が言えず押し黙ってしまった。
ドーナは軍団長に頭を下げると、水門から国の外へ飛び出す。
ミオンも急いで追いかけようとするが、軍団長が「待ってくれ」と止めた。
「ミオン殿、今のドーナは仇を前に視野が狭まっている。後で編成した部隊を送るが、それまでドーナを頼む」
「……はい、任せてください。まだ期間は短いですけど、大切な弟弟子ですので」
というか、ここでドーナを見捨てたらクロアに何を言われるかわかったもんじゃない。
そもそも見捨てるなんて選択肢はないけど。
ミオンも軍団長に頭を下げ、急いでドーナを追って水門へ飛び込んだ。
ウィエルの魔法で、水中での呼吸と水圧は防げている。
だから身体能力に身を任せて海の中を泳ぐが……。
「はっや……!?」
ドーナはすでに、はるか遠くを泳いでいる。
ギリギリ視界の範囲に見えるが、スピードが尋常ではない。
兎人族のミオンは、身体能力には自信がある。
泳ぎも得意だし、なんなら脚に力を集中すればそれなりに速く泳げるつもりだ。
そしてこの一ヶ月。クロアとの地獄の修行で、さらに脚力に磨きはかかった。
が、それでも生粋の魚人族に泳ぎでは追いつけず、離されないようついて行くのが精一杯だった。
(陸ではクロア様たちに速さで負けて、海では弟弟子に速さで負ける……自信なくしますよ、本当に)
しかし、ここで不貞腐れている余裕はない。
ただ一心不乱に、ドーナを追って水中を泳ぐしかなかった。
潜るにはかなりの時間を有したが、海上へ向かうにはそれほど時間は掛からなかった。
辺りがうっすらと明るくなっていき、徐々に、徐々に陽光が射す。
そして──海上へ出た。
「……あぁ、気持ちいいですね……」
約一ヶ月ぶりの外。
新鮮な空気を肺いっぱいに取り込み、総毛立った。
太陽の陽射しが暖かい。
はるか上空を飛ぶ鳥の鳴き声が懐かしい。
少し感動したが、今は感傷に浸っているときではない。
辺りを見ると、ドーナは一方向へ向かい泳いでいた。
だがしかし、ここまでくればミオンもスピードでは負けない。
水上歩行魔法で海面へ立つと、ドーナを追って水上を駆けた。
走ること数分。ようやくドーナに追いつくと、ドーナは目を見張ってミオンを見上げる。
「えっ、姉弟子。なんで海の上走ってるんすか!?」
「いろいろありまして。クロア様とウィエル様に扱かれました」
「あの二人に扱かれると海の上を走れるようになるとか、いったいどんな修行を……」
「……思い出したくありません」
ミオンの心には、ある種のトラウマが刻まれていた。
「それより、急ぎますよっ」
「お、押忍ッ」
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