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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第五章 海の国

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第95話 弟子二人、海上へ

   ◆ミオン・ドーナ◆



 クロアに送り出され、二人は軍団長と共に門の前へ来ていた。

 ミオンは久々の実戦に緊張しているみたいだが、ドーナは思いの外落ち着いているように見える。

 しかし見えるのは外見だけで、目の奥には復讐の炎が見え隠れしていた。



「ドーナさん、大丈夫ですか?」

「押忍。落ち着いてるっす」

「……そうですか」



 ミオンからしたら、その落ち着きが却って怖い。

 普通、復讐の対象を前にしたら、落ち着いてなんていられないだろう。

 ドーナに不安感を覚えていると、軍団長が二人を振り返った。



「ドーナ、ミオン殿。我らは国の周囲を警戒するが……二人はどうする? クロア殿は二人に任せると言っていたが」

「ハッ、軍団長。自分たちは海のギャングのアジトに向かいます」

(そうなりますよねぇ)



 ドーナの言葉に、ミオンは内心嘆息した。

 ネプチューンの水域探知では、海のギャングのアジトの場所は掴めなかった。

 ということは、アジトは陸のどこかにあるということ。そこまでは、魚人族ではいくら探しても見つからない。

 が、アジトの場所はついさっきウィエルが魔法で見つけ、事前に教えてもらった。

 だから行こうと思えば、今すぐいける。本当は行きたくないのだけど。

 そんなミオンの本音を知らず、ドーナはやる気満々だ。

 軍団長もそんなドーナを見て、ゆっくり頷いた。



「そうか……なら、軍からも十数人の部隊を編成する。いくら二人が強くとも、もしものときがあるからな。一時間ほど待て」

「ハッ、ありがとうございます。ですが心配無用です。……俺たちだけで、やります」



 殺意と敵意がこもった言葉に、軍団長は思わず二の句が言えず押し黙ってしまった。

 ドーナは軍団長に頭を下げると、水門から国の外へ飛び出す。

 ミオンも急いで追いかけようとするが、軍団長が「待ってくれ」と止めた。



「ミオン殿、今のドーナは仇を前に視野が狭まっている。後で編成した部隊を送るが、それまでドーナを頼む」

「……はい、任せてください。まだ期間は短いですけど、大切な弟弟子ですので」



 というか、ここでドーナを見捨てたらクロアに何を言われるかわかったもんじゃない。

 そもそも見捨てるなんて選択肢はないけど。

 ミオンも軍団長に頭を下げ、急いでドーナを追って水門へ飛び込んだ。

 ウィエルの魔法で、水中での呼吸と水圧は防げている。

 だから身体能力に身を任せて海の中を泳ぐが……。



「はっや……!?」



 ドーナはすでに、はるか遠くを泳いでいる。

 ギリギリ視界の範囲に見えるが、スピードが尋常ではない。

 兎人族のミオンは、身体能力には自信がある。

 泳ぎも得意だし、なんなら脚に力を集中すればそれなりに速く泳げるつもりだ。

 そしてこの一ヶ月。クロアとの地獄の修行で、さらに脚力に磨きはかかった。

 が、それでも生粋の魚人族に泳ぎでは追いつけず、離されないようついて行くのが精一杯だった。



(陸ではクロア様たちに速さで負けて、海では弟弟子に速さで負ける……自信なくしますよ、本当に)



 しかし、ここで不貞腐れている余裕はない。

 ただ一心不乱に、ドーナを追って水中を泳ぐしかなかった。






 潜るにはかなりの時間を有したが、海上へ向かうにはそれほど時間は掛からなかった。

 辺りがうっすらと明るくなっていき、徐々に、徐々に陽光が射す。

 そして──海上へ出た。



「……あぁ、気持ちいいですね……」



 約一ヶ月ぶりの外。

 新鮮な空気を肺いっぱいに取り込み、総毛立った。

 太陽の陽射しが暖かい。

 はるか上空を飛ぶ鳥の鳴き声が懐かしい。

 少し感動したが、今は感傷に浸っているときではない。

 辺りを見ると、ドーナは一方向へ向かい泳いでいた。

 だがしかし、ここまでくればミオンもスピードでは負けない。

 水上歩行魔法で海面へ立つと、ドーナを追って水上を駆けた。

 走ること数分。ようやくドーナに追いつくと、ドーナは目を見張ってミオンを見上げる。



「えっ、姉弟子。なんで海の上走ってるんすか!?」

「いろいろありまして。クロア様とウィエル様に扱かれました」

「あの二人に扱かれると海の上を走れるようになるとか、いったいどんな修行を……」

「……思い出したくありません」



 ミオンの心には、ある種のトラウマが刻まれていた。



「それより、急ぎますよっ」

「お、押忍ッ」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  久々の更新、ありがとうございます。  姉弟弟子二人の活躍が『水滸伝』の武十回となりそうですね、師匠夫婦の出番はまだまだデスよね。
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