第86話 弟子二人、絡まれる
ミオン、そしてドーナの訓練が始まり、二週間が過ぎた。
体力増強訓練も無事に終え、今二人はクロア指導の元、戦闘訓練を行っている。
ミオンは身体強化魔法あり。
ドーナは剣あり。
それに対しクロアは素手の状態で、二対一で相手をしていた。
「シッ!」
体力増強訓練の賜物か、ミオンの動きが以前とは見違えるほど良くなっている。
更に身体強化魔法のおかげで、常人ではまともに視認できないほど速い。
「フッ!」
ドーナも負けていなかった。
速さでこそミオンには劣っているが、直感と反射神経が並外れている。
ミオンの射線上に入らないよう立ち回るのが上手かった。
ミオンの超高速のかかと落とし。
ドーナのスピードに重さを乗せた薙払い。
普通の人間なら即死は免れない。
同時に放たれた一撃だが──クロアの両手の人差し指によって、止められた。
辺りに広がる轟音。
だがクロアは微動だにしない。しかも無表情のままだ。
そのまま押し戻すと、二人は軽々と吹き飛んだ。
「まだ軽いな。踏み込みが甘いし、体重を乗せきれていない」
「くっ……!」
「チィッ……!」
この訓練を始めて、既に十日以上過ぎている。
合格基準は、二人合わせて本気の五割のクロアに一撃を入れること。
だが、二人は一撃を入れるどころか一歩も動かせていない。
正直、ここまで実力差があるとは思わなかった。
空中で体勢を建て直し、構える。
「姉弟子、どうしましょう。こんなの無理っすよ」
「クロア様は決して無理な押し付けはしません。この一ヶ月で出来ると確信しているから、クロア様はこんな難題を提示したんです」
「だからって……」
感触としては日に日によくなっている。
今の一撃も、戦闘訓練を始めてから一番いいものだった。
それなのに微動だにしない現実を突き付けられると、本当に出来るのか疑問だ。
「とにかく今は攻撃することに専念しましょう。二人の連撃なら、いずれチャンスが生まれるはずです」
「押忍ッ」
二人は同時に駆け出し、再度クロアへ攻撃を仕掛けるのだった。
◆
「いっつつ……また今日も駄目でしたね」
「そうですね。ままならないものです」
クロアとの戦闘訓練を終え、ミオンとドーナは二人で国王軍の訓練場に向かっていた。
戦闘訓練後は、決まって今日の反省会と二人で訓練をしている。
そうでもしないと、いつまでもクロアに一撃を入れるなんて出来ないから。
それにこの時間は国王軍の訓練も終わっているから、丁度良かった。
「どうしたら師匠に一撃を入れられると思います?」
「うーん……真正面からの正攻法は、正直厳しいかと。せっかく人数では勝っているので、利点を活かしましょう」
「例えば?」
「一人は絶対に正面からで、一人は絶対に背後からとか」
「でもそれ、一人の負担がデカすぎるっすよ」
あーでもないこーでもないと話し合いながら、組手をする。
かなり速い組手だが、今の二人にとっては軽い準備運動……じゃれ合いみたいなものだ。
それからちゃんとした組手に入る。ミオンは身体強化あり、ドーナは剣ありで。
勿論本気は出さず、当てずに寸止めをする。
暫く反省会を兼ねた組手を行っていると、不意にミオンの耳が反応した。
「ストップ」
「姉弟子?」
「……誰かこっちに近付いて来ますね。三人。聞いたことのない声です」
「え?」
ミオンが訓練場の入口を見ている。
その後を追って見ると、そこには。
「ん? ……は? ドーナ?」
「あれ、なんであいついるんだ?」
「逃げ出したんじゃなかったのかよ」
ドーナに暴力を振るっていた三人が、そこにいた。
三人の言葉に、ミオンがそっとドーナを見る。
明らかに動揺していた。それに、どこか恐怖も混じっている。
「おいおいドーナ。どーこ行ってたんだよ、心配したぜェ?」
「またサンドバッグになりに戻ってきたかァ?」
「ギャハハハハ!」
醜悪な笑みと汚い感情が心地悪い。
ドーナの事情は聞いている。今のドーナなら、こんな奴らの相手ではない。
だけど自分たちには時間がなかった。
「なんですか、あなたたちは。今私たちは忙しいんですが」
「は? 誰だこいつ」
「あれじゃねーか。人間の客っていう」
「あー、そんなこと言われたな。初めて見たぜ、可愛い子ちゃん」
一人が下卑た笑顔を浮かべながらミオンに手を伸ばす。
ミオンはため息をついて乱雑に腕を握ると、身体強化魔法を使って軽く握った。
「あぎゃああああああ!? いいいいッッッ!?」
「私に触れないでください。汚らわしい」
「ひぎいいぃぃいいいいぃぃぃ!?!?」
ほんの少し力を入れただけなのに、この痛がりよう。拍子抜けだった。
流石に可哀想だったので手を離してやると、いきなり離されたから尻もちを着く。
余りの情けない姿に、ミオンはため息をついた。
「ドーナさん、行きますよ。今日は終わりです」
「は、はい、姉弟子」
とりあえず、ドーナはミオンの後をついていく。
少し前まで恐怖しか感じなかった三人。
だが今は、これっぽっちも怖いと感じなかった。
「……俺、強くなってるんすかね?」
「あの修行で強くならない人はいませんよ。それに……」
「それに?」
「この世にクロア様より怖い存在はいません」
「激しく同意」
続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!
下部の星マークで評価出来ますので!
☆☆☆☆☆→★★★★★
こうして頂くと泣いて喜びます!




