第81話 勇者、正座する
◆アルカ・サキュア・ガーノス◆
「アルカ様、正座」
「うす」
もう何度目の正座だろう。岩場の上も慣れたものだ。
腕を組んで目尻を釣り上げているサキュアの前に正座すると、サキュアは深々とため息をついた。
因みにガーノスは、そんな二人を見てニコニコと笑みを浮かべている。
「私、何度も言ってますよね? 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。いくら勇者の力は未知数でも、制御しなきゃ周囲に迷惑がかかるって」
「うす」
「ではこの惨事は何事ですか?」
サキュアが周囲を見渡すと、地面は捲れ上がり、岩石は砕かれ、更地と化していた。
勿論近くに村や街がないことは確認済み。
人に迷惑が掛からないよう、誰も近付かない秘境であることも確認している。
それでもこの被害はため息をつかずにはいられない。
「勇者の力については、私も文献でしか知りません。なのでアドバイスも出来ないのは心苦しいですが……でもこのままでは、アルカ様は人里で力を振るうことは出来ませんよ」
「わかってるけどさ……なんか変なんだよな。制御しようとすればするほど、力が暴れるというか」
だがアルカもふざけてる訳では無い。
ちゃんと勇者の力と向き合い、ちゃんと制御しようと力の出力を抑えている。
それなのに、抑えれば抑えるほど反発するかのように暴走する。
今まで制御をサボっていたからなんだろうけど、余りにも暴走するものだから違和感が半端ではない。
サキュアは頬に手を当て、首を傾げた。
「ふむ……私は魔法のコントロールならわかるのですが……ガーノスさん、何かわかりますか?」
「申し訳ありません。私には特殊な力がない故、力の制御には疎く」
「ですよねぇ……」
ガーノスの腕っ節は知っている。父ナックスの強さを持ってしても、ガーノスに勝つことは出来なかった。
ただそれは、単なる戦闘力だ。魔法を使ったところは見たことがない。
魔法を使える自分でさえよくわからないのだから、ガーノスがわからないのも仕方なかった。
と、その時。ガーノスが「そういえば」と口を開いた。
「いましたな、一人。魔法ではない異能を使う者が。サキュアさんも会ったことがありますよ」
「え、いましたっけ?」
記憶力はいい方だ。でも、そんな人と会ったことがない。
まさか、娼館の客に? だとしても、客として来る以上異能なんて見る機会はない。
一体誰なのだろうか。
「まあ無理もありません。あの時、あなたもまだ幼い子供でしたから。当時、クロア様と一緒にいた方です」
「父さんと?」
昔、クロアとウィエルは世界を旅していたらしい。
その時出会ったのがナックス、ガーノス、サキュアだ。
確かその時、弟子が一人いたと聞く。
確か名前は……。
「「レミィ? ……あ」」
サキュアと被った。
どうやらサキュアも思い出したらしい。
「その通り。彼女なら異能の制御の仕方も知っているでしょう」
「その方は今どこに?」
「さあ、そこまでは……ウィエル様ならご存知では?」
「そうですね……聞いてみましょう」
サキュアが手の平に魔法陣を展開すると、半透明の球体が浮かび上がる。
待つことしばし、向こう側にウィエルの姿が浮かび上がった。
『あら、サキュアさん。お久しぶりですね。そこにはアルカとガーノスさんもいるのですか?』
「お久しぶりです、ウィエル様。はい、二人とも傍に」
球体が二人の姿を移すと、ガーノスは微笑みながら会釈し、アルカは気恥しそうに頬をかいた。
『お二人も元気そうですね。それで、一体どうし──』
『むお? おおっ、ハイエルフ! 余も長い間生きているが、本物は初めて見たぞ!』
いきなり、ウィエルを押し退けて巨大な顔が移った。
知らない女性の上に、物凄い美人。流石のサキュアも驚いた。
『ちょ、ネプチューン様。今大切なお話をしているのですから、割り込まないでください』
『えぇ、余も話したいー』
『ダメです』
『けち』
映像の向こう側で、ウィエルとネプチューンがイチャコラしている。
だが三人は、そんなことよりネプチューンの名前にぎょっとしていた。
「ね、ネプチューン、って……!? あの伝説の海神、ネプチューンですか!?」
「え、嘘。本物か? いや母さんが嘘つくはずないし……」
「いやはや、驚きましたな」
本来の目的を忘れ、ネプチューンを前のめりで見ようとする三人。
ネプチューンも気分がいいのか、ふふんと胸を張った。
『如何にも、余だぞ!』
『はいはい。あとでいっぱい褒めてあげますから、どいててください』
『むぎゅっ』
ネプチューンの顔面を押し退けるウィエル。
普通なら不敬罪なのだが、許されるのがウィエルというところだろう。
『改めて、一体どうしたのですか?』
「……あっ、そうでした。実は──」
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