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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第三章 師弟相見える

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第60話 亜人の少女、気絶する

   ◆港町アクレアナ・ホテル前◆



「……まずい……非常にまずい」



 ミオンがアネラをぶちのめしてから、ほぼ丸一日が経った。

 経ってしまった。

 つまり今は、約束の三日──夕方。

 日付的には約束の三日後ではあるが、今日中に出発するとクロアは言っていた。

 もう日も暮れて夕方……今から出発するなんて考えられない。

 つまり、約束の時間に間に合わなかったということだ。



「どうしよう、どうしよう、どうしよう……!」



 ホテルの前でうろちょろしている不審者(ミオン)

 このままここにいても時間とともに事態は悪化する一方だ。でも上に上がりたくない。何故なら修行の密度が五倍になるから。

 しかしここは高級ホテル。いつまでここにいても、ホテルのスタッフから衛兵に通報されかねない。



「くぅっ。焦りすぎて向かう方向間違えたのが敗因か……!」



 ミオンは別に方向音痴という訳では無い。小さい頃から森で遊んでたから、方向感覚はいい方だ。

 これも全部、『修行の密度五倍』という魔法の言葉のせいだ。

 混乱に混乱を重ねたせいで、感覚が麻痺してしまった。



「うぅ、どうしましょう……」



 とりあえず噴水の近くにあるベンチに座り、深々とため息をつく。

 こうしていても意味はないということはわかっている。

 わかってるけど、こうでもしないとやってられない。何故なら行ったら最後、地獄が待っているから。

 まあ、地獄を先送りにしても意味はないのだが。

 ──と、閃いた。



「あ、そうか。行かなきゃいいんだ」



 行ったら地獄が待っている。

 なら行かなければ、地獄はない。



「……逃げようかな」



 それしか生き延びる術はない。

 いや、クロアとウィエルのことだから、殺されるなんてことはないと思うが。

 それでも、死んだ方がマシという修行が待っているに違いない。

 送り出してくれた仲間たちには申し訳ないけど、命あっての物種だ。



「よしっ、逃げる……逃げるぞ、私……!」

「誰からだ?」

「それは勿論鬼畜将軍からです」

「ふむ。鬼畜将軍からは逃げられる保障は?」

「はは。そうなんですよねぇ」



 そもそもクロアとウィエルから逃げられるとは思えない。

 逃げたとしてもあの二人のことだ。絶対捕まえに来る。そうなったら密度五倍じゃすまないだろう。



「試す前から諦めるのは良くない。人生は一度きりだ。やってみたらどうだ?」

「そ、そうですよね! 私、やってみ……………ん?」



 気付いた。

 今自分は、誰と話してるんだ?

 硬直する体。でも頭は何故かフル稼働している。

 この感覚には覚えがある。

 あの時だ。ドラゴンに食われかけた時に感じた、死を直前にした感覚。

 いや、今回のはそれよりも酷い。

 口の中が乾燥し、冷や汗が滝のように流れる。

 ミオンは絶望を受け入れるように、ゆっくりと声がした方を振り向くと。






「おかえり、ミオンちゃん」

「待っていましたよ」






 絶望(クロア)(ウィエル)がいた。

 この時、人間が取れる方法はただ一つ。



「──ぁ」



 思考を遮断した、気絶だった。






「やり過ぎたか」

「これからは精神的な訓練を取り入れないとダメですねぇ」



 気絶したミオンを前に、クロアとウィエルはいつも通りの会話を続けた。



「まだ三日目だから、間に合ってるんだがな……これから出発すれば問題はないし」

「でも気絶しちゃいましたよ」

「気絶したまま運んでもいいが、それじゃあ修行にならないからな。今日は休んでいくか」



 クロアがミオンをお姫様抱っこで持ち上げてホテルに向かう。

 ウィエルは少し羨ましそうに口を尖らせたが、直ぐに並んでついて行った。



「出発は明日の朝ですか?」

「そうしよう。ミオンちゃんも疲れてるだろうし、無理やり起こすこともない」

「修行の密度の話は?」

「約束の三日には間に合ったが、出発には間に合わなかったってことで、三倍で許してやろう」

「……ふーん」



 クロアの言葉に、ウィエルはジトーっとした目を向けた。



「なんだ?」

「ミオンちゃんにはお優しいと思って」

「そうか? 相応の対応だと思うが」

「ぷい」



 ついにはそっぽを向いてしまった。

 けどクロアはわかってる。こうやってそっぽを向いてるのは、構って欲しい証拠だ。



「何して欲しい?」

「! お姫様抱っこ!」

「はいはい。戻ったらな」

「えへへっ」



 満足したのか、ウィエルは嬉しそうにクロアに寄り添う。

 クロアも優しい微笑みを浮かべ、ホテルへと戻って行った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 救いは無かった
[一言] ミオんちゃんが気絶してる側で蜂蜜に浸けた砂糖をマーライオンの様に吐きそうなくらい甘ったるい空間に居るとか不憫すぎる
[一言] 3倍でも死んじゃうんじゃないかな?w
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