第57話 亜人の少女、面倒事に巻き込まれる
ホテルに戻ったミオンは、準備をして一人で町へ繰り出した。
久しぶりの休日だ。しかも三日しか町にいないし、しっかり休まないと。
そんな思いで屋根の上を飛び移り、上空から町を一望する。
陽の光で煌びやかに輝く水路や海。
白い外壁の建物群。
改めて見ると、綺麗な街並みだ。
「すっごぉ……!」
アプーの街も王都も凄かったけど、綺麗さで言えばアクレアナが一番だ。
しかも上空から町を見ることなんてほとんどないから、凄く新鮮だ。
「とりあえず、ご飯たーべよっと」
大通りの人が少ない場所に飛び降り、ウィエルから貰った財布を片手に屋台を物色する。
ずっと海とホテルの往復だったから、この辺は初めて来る。
人間以外にも同じ兎人族や犬人族、猫人族、ドワーフ族もいて、かなり賑わっていた。
「観光都市なだけあって、本当にすごい人混み……確かに、ウィエル様を一人にしたら永遠に帰って来れなそうだね」
ボソッと失礼なことを口走るミオン。
遠くからくしゃみが聞こえたのは気のせいだろう。きっと。
だが、あの方向音痴を間近で見たら誰もがそう思うに決まってる。
ミオンは屋台を一通り巡り、ふかし芋と野菜スティック、丸ごとリンゴを購入。
港町だから海鮮系が多い。次に多いのは肉系だ。
兎人族のミオンが食べられないものばかりだが、ちゃんと兎人族用の屋台も並んでいたから、食べ物に困ることはない。
建物の屋根に跳び上がり、野菜スティックをかじりながら全体を見渡す。
(王都の市場も凄かったけど、ここもすごい。私、今まで世界のことなんて何も知らなかったんだ)
今までは、村で一番の戦士である父がこの世で一番強いと思っていた。
でも違った。
この世には全てを壊す悪意があることを知った。
しかし、悪意を蹂躙する理外があることも知った。
これからまだまだ、色んなことを知るだろう。知らないことが多すぎる。
ボーッと大通りを眺めることしばし。
兎人族の聴覚が、不自然な音を拾った。
大人の怒声と、何かを殴る音。
間違いなく面倒事だった。
「ッ、どこ……!?」
だがミオンの中に、面倒事を見捨てるという選択肢はなかった。
目を閉じて聴覚に集中する──と、いつもの数倍以上の情報が耳から飛び込んで来た。
人の声や走る音、衣擦れ、音の反射により、音だけで周囲の人の形や居場所が認識出来た。
「これは……あ」
気付いた。今自分は、無意識のうちに魔力を耳に集中していることに。
つまり身体強化魔法を耳に掛けているから、いつもの数倍も聴覚が良くなっているのだ。
が、それはここら一帯の情報が一気に脳に入ってくるということであり──
「がっ……!? あ、頭ッ、痛い……!」
情報が入りすぎたことで、頭痛が起こることは必然だった。
今の一瞬だけで魔力コントロールが乱れ、滝のような汗を流してうずくまった。
でも居場所はわかった。ここでうずくまっている暇はない。
直ぐに立ち上がり、ミオンは屋根を伝って音の方へ向かった。
「……いたッ」
裏路地から鈍い音と声が聞こえる。
そこに飛び込むと、大柄な男がローブをまとっている人を棍棒で殴っている所だった。
性別はわからない。だけどこのままじゃ、殺されかねない。
ミオンは意識的に魔力を脚に集めないようにし、大男の背中から飛び蹴りをかました。
「ふごべっ!?」
男は吹き飛び、数回回転して壁に激突。大きな穴を空けた。
死んでいないだろう。多分。
「こっち!」
ミオンはローブから見えている手を取り、大通りを駆け出す。
あまりスピードを出さずに走ることしばし。
ある程度離れた場所で、手を離した。
「ここまで来ればもう安心ですね。大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。ありがとう」
さっきまで殴られていたのにも関わらず、痛みも疲れも感じさせない声が返ってきた。
それに手を引いた時に感じたひんやりとした体温に、青い肌。僅かな鱗。
間違いなく亜人の類いだ。
それなら、あの耐久力も納得が行く。
「えっと……何か面倒事ですか? もしそうなら、私の師匠たちに相談したら解決するかもしれませんが」
「まあ、お優しいのね。そうですね、少し困っています」
美しい声と共に、フードを取る。
女性だ。だが青い肌に鱗。そして特徴的な赤い眼をしている。
「魚人族の方でしたか」
「まあ、それに近いものよ」
「そうですか。それで困り事というのは?」
「勇者抹殺について、です」
「……え?」
直後、女の眼が妖しく光り──ミオンの意識は、闇に落ちた。
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