第55話 勇者の父、狙われる
三人をホテルの屋上から放り投げたクロアは、悠々と二人の所に戻ってきた。
「あら、早かったですね」
「ああ。海に投げ捨てただけだからな」
「だから早かったのですね」
納得したように頷くウィエルだが、ミオンはドン引きしていた。
地上六十五階の屋上から海まで、相当な高さになる。
しかもクロアのことだ。ただ突き落とすだけじゃなく、少し上に向けて投げたに決まっている。
ということは、約三百メートルの高さから生身で落とされたということで……。
(まあクロア様ですし)
が、ミオンは考えるのをやめた。
クロアは掛け湯をし、風呂に入る。
といっても、クロアの身長が高すぎて半身浴のようになっているが。
そんなクロアは、腕を組んで思案した。
「それにしても、おかしいな」
「あなたも思いました?」
「そりゃあな」
クロアとウィエルが何かを話している。
ミオンは何も疑問に思っていなかったが、二人は思うところがあるようだ。
「あの、何がおかしいんですか?」
「このホテル、陛下も泊まりに来る程の超高級ホテルだ。あんな輩、普通は通さない」
「あ、確かに」
言われてやっと気付いた。
今は落ち着いている混浴風呂を見渡すと、どこか気品溢れる人たちが揃っている。
それなりの地位と金がある人だけがいるようだ。
あの三人はどう考えても、このホテルに相応しくない。
「じゃあなんでここに……?」
「わからんが、何かあるのかもな」
「聞けばよかったじゃないですか。クロア様なら拷問とか得意そうですし」
「心外だ。ミオンちゃん、俺のことなんだと思ってるの」
ミオンの言葉に顔が引き攣るクロア。
だがウィエルが、シャンパンを飲み干して無垢な笑みを見せる。
「ミオンちゃん。旦那は拷問する前に力加減をミスって殺しちゃうから、どちらかというと苦手なのですよ」
「あー、なるほどー。確かに心外でしたね。ごめんなさい」
「そういう意味じゃないんだが」
ここにクロアの味方は誰もいなかった。
「単純に、どんな小細工を弄しても、俺らをどうにかすることは出来ない。だから投げ捨てた。それだけだ」
「そうですねぇ。来る者拒まず、ですね」
「そういうことだ」
静かに頷くクロアとにこやかに笑うウィエルを見て、ミオンは同情した。
この二人に手を出そうと考えている、まだ見ぬ敵に対して──。
◆???◆
「へぇ、あれがバルバ様の言っていた勇者の父ね」
港町アクレアナから離れた洞窟にて、岩の上に一人の魔族が座っていた。
青い肌の女だ。鱗が局部を隠しているが、艶かしい雰囲気は隠せていない。
ドクロに立てられたロウソクが燃え、風もないのに揺らいでいる。
揺らいだ炎により、赤い瞳が妖しく光った。
魔眼皇バルバの側近──アネラである。
アネラの手には水晶が握られていて、クロアの姿をリピートして再生していた。
「バルバ様は勇者だけに気を配れと仰っていたけど、ドドレアルの奴をぶっ殺したのはこの男……なら、どう考えてもこの男を始末する方が先よねぇ」
舌なめずりをし、アネラはクロアを見つめる。
その頬はどこか赤らんでいるように見えた。
「それにしても、いい男。強い雄って凄く魅力的……それこそ、食べちゃいたいくらいに」
歯を見せて笑うアネラ。
しかし歯というより、牙と言った方が的確なほど、鋭くとがっている。
「おっと、いけないいけない。悪い癖が出ちゃったわ」
誰も見ていないのに上品に手で口を隠し、ほほほほと笑う。
アネラは気持ちを切り替え、再度水晶の中のクロアを見た。
「魔王様が勇者をぶっ殺しても、この男がいる限り世界征服は成し遂げられない。なら、この男を始末することがバルバ様のため……そして魔王様の為になるわよね」
アネラは水晶を岩の窪みに入れ、ロウソクの火に眼を向ける。
それだけでロウソクの火は消え、洞窟は暗闇に包まれた。
だが赤い眼は、そんな暗闇の中でもわかるほど輝いている。
「まずは準備をしなきゃね。ふふ、ふふふふ……」
アネラは笑いながら、ゆっくりと洞窟を歩いていった。
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