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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第三章 師弟相見える

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第46話 亜人の少女、盗み聞く

「ぬはーっ! このお酒おいしーですねー!」



 ワインボトル片手にテンションが上がっているミオン。

 最初こそちゃんとグラスに注いでいたが、今ではラッパ飲みだ。完全に酔っ払いの所業である。

 そんなミオンを見て、クロアは苦笑いを浮かべた。



「なるほど。ミオンちゃんは酒乱だったか」

「いい飲みっぷりですねぇ」



 王城に部屋を用意してもらっていた時は、ミオンも酒は自粛していた。

 自分でもこうなるとわかっていたら、王族のいる王城では酒は飲まないだろう。

 床に転がっている酒瓶も、ウィエルとミオンを合わせて二十を超えた。

 今はクロアとウィエルしかいないから気兼ねないとはいえ、酒を飲まないクロアから見ても明らかに飲みすぎだった。



「二人とも、そろそろやめた方がいいんじゃないか? 一応明日もあるんだから」

「なーに言ってるんでしゅかクロアしゃまー! 夜はまだまだこれからでーしゅ!」



 最早呂律すら回っていなかった。

 ウィエルに目を移すも、ただ楽しそうに笑って酒を飲んでいるだけ。

 そっとため息をつき、クロアも二十皿目になる肉の塊を平らげた。



「ふう。久々にこんなに食ったぁ」

「クロアしゃまもすごーく食べましたねー。食べしゅぎでーしゅ」

「ミオンちゃんにだけは言われたくない」

「あはははは! まだまだ飲めまーす! ……あれぇ? クロアしゃまが三人いますよぉ~? 分身のしゅちゅですか~?」



 完全な酔っ払いだ。

 どれだけ飲んだというんだろう。クロアからしたら、酒の匂いだけで酔いそうだ。



「あはは! あひゃひゃ! ……しゅかぁ」

「あ、寝た」



 酒瓶片手に机に突っ伏した。幸せそうな寝顔だ。

 そんなミオンを、ウィエルが魔法で浮かばせて近くの寝室に放り込んだ。



「酔っていても、魔法の腕は落ちないな」

「ぬへへ。褒められましたぁ」

「あ、ダメだこいつも酔ってる。っとと……!」



 酔っぱらったウィエルがクロアに寄りかかる。

 腕に抱き着かれ、更に下から舐め回すような目を向けられる。

 この目。この手付き。この体温。いつ向けられても慣れない。

 クロアの顔は、酔ってもいないのに赤くなる。



「相変わらずこういうことに弱いですねぇ」

「うるさい」

「そうやってシンプルな言葉しか出てこないのも、とっても可愛いです」

「男とはいつでもシンプルな生き物だ」

「じゃあシンプルに、私の誘いに乗ってください」



 ウィエルを見下ろすと、主張している双丘が目についた。



「誘いって、お前な……」

「ふふ。私だってまだまだ女盛りですからね。それに、こうやって旅をしていたら気分も盛り上がります」



 確かにその気持ちはわかる。

 クロアも久々に旅をしてきたから、世界中を回っていた当時の頃を思い出して気分が高まっている。

 それにこんなにも多くの肉を摂取したのも久々で、諸々のエネルギーは最高潮に達していた。



「いいのか?」

「勿論。全てをぶつけてください」



   ◆



「しゅかぁ……しゅぴぃ……ふがっ。……んにゅ?」



 ミオンの目が覚めると、いつの間にか寝室のベッドで横になっていた。

 部屋は真っ暗。リビングの灯りも消えている。完全に寝落ちしてしまったようだ。

 まだ酒が回っているのか、思考が定まらずまぶたが重い。

 喉が焼けるように痛い。水も飲まずに酒を飲んだからだ。とにかく体が水を欲している。

 暗いリビングで水を飲み干すと、クロアとウィエルの姿がないことに気付いた。



「あれ、お二人は……?」



 リビングには大量の皿が置かれているだけで、物音一つしない。

 が、酔っていても鋭敏な聴覚がぴくりと動いた。

 リビングから一番遠い部屋。別の寝室から、くぐもったウィエルの声と水の弾けるような音が聞こえる。

 この音は村にいた時も何度も聞いたことがある。

 そして、何が行われているのかも知っている。



「こ、これはっ……! ~~~~ッ!?」



 急いでさっきいた部屋に戻り、布団を頭から被る。

 しかしどれだけ耳を抑えても、ずっと音が聞こえてくる。

 一度聞こえてしまっては、気にするなという方がどうかしている。

 ミオンも十六歳。そういう欲求は当然ある上に、兎人族の(さが)もある。

 ミオンはスイッチが入らないように、耳を抑えてただベッドの上で悶えているだけだった。



   ◆



 翌日。クロアとウィエルはどこか清々しい表情で朝食を食べていた。と言いつつ、完全に徹夜明けなのだが。

 ミオンは起きていない。どうやら、まだ寝ているらしい。



「困った子ですね。やはり昨日は飲みすぎでしたか」

「ウィエルの方が飲んでいたけどな。酔いはいいのか?」

「はい。一晩も経てば酔いも醒めます」

「一体どんな体の構造をしているのやら。同じ人体とは思えないな」

「あら、一晩中確かめたではないですか」



 ウィエルの流し目に、クロアは目を逸らしてコーヒーをすする。

 そんなクロアが面白く、また愛おしく感じ、ウィエルはクロアに寄りかかった。



「ところで、今日はどうするのです?」

「少し昔馴染みに会いに行くつもりだ。ウィエルはミオンの修行を見てやってくれ」

「ええ、わかりました」



 あれだけ飲み、あれだけ食べても既にいつもの二人。

 胃と肝臓も化け物級である。

 二人がゆっくり朝食を楽しんでいると、ようやくミオンが起きてきた。



「あ、ミオンちゃん。おはよう……って、大丈夫か?」

「お、おはようございます。すみません、寝不足でして……」



 髪はぼさぼさ。目の下にはクマ。頬も赤く、どこか異様な雰囲気が漂っている。

 明らかに体調不良のように見えた。



「ふむ。慣れない海に、昨日の酒で体調を崩したのかもな……仕方ない。今日の修行は中止して、休むことに専念しなさい。ウィエル、ミオンちゃんのことは頼んだぞ」

「はい、あなた」



 クロアは食事を終えると、立ち上がって部屋を出て行った。

 それを見送り、ウィエルはミオンを座らせて水を差しだす。



「あ、ありがとうございます。んく、んく……」

「いえいえ。ところでずっと聞いていたようですが、ミオンちゃんはむっつりさんなのですか?」

「ぶーーーー!」



 盛大に噴き出した。

 それもそうだ。まさか初っ端からぶっこんで来るとは思わないだろう。



「き、気付いていたんですか……?」

「はい。旦那も気付いていましたよ」

「き、気付いていたんでしたらちょっとは戸惑ってくださいよ!」

「別に恥ずかしいことをしている訳ではありませんから」



 二人は夫婦で、そういうことも当然するだろう。

 だが一晩中あの音を聞かされていたミオンからしたら、勘弁してほしいことこの上なかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が面白いうえに文章も読みやすい。 [一言] 王道の面白さですね。 一位も納得です。 頑張ってください。
2021/12/31 10:06 退会済み
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