第46話 亜人の少女、盗み聞く
「ぬはーっ! このお酒おいしーですねー!」
ワインボトル片手にテンションが上がっているミオン。
最初こそちゃんとグラスに注いでいたが、今ではラッパ飲みだ。完全に酔っ払いの所業である。
そんなミオンを見て、クロアは苦笑いを浮かべた。
「なるほど。ミオンちゃんは酒乱だったか」
「いい飲みっぷりですねぇ」
王城に部屋を用意してもらっていた時は、ミオンも酒は自粛していた。
自分でもこうなるとわかっていたら、王族のいる王城では酒は飲まないだろう。
床に転がっている酒瓶も、ウィエルとミオンを合わせて二十を超えた。
今はクロアとウィエルしかいないから気兼ねないとはいえ、酒を飲まないクロアから見ても明らかに飲みすぎだった。
「二人とも、そろそろやめた方がいいんじゃないか? 一応明日もあるんだから」
「なーに言ってるんでしゅかクロアしゃまー! 夜はまだまだこれからでーしゅ!」
最早呂律すら回っていなかった。
ウィエルに目を移すも、ただ楽しそうに笑って酒を飲んでいるだけ。
そっとため息をつき、クロアも二十皿目になる肉の塊を平らげた。
「ふう。久々にこんなに食ったぁ」
「クロアしゃまもすごーく食べましたねー。食べしゅぎでーしゅ」
「ミオンちゃんにだけは言われたくない」
「あはははは! まだまだ飲めまーす! ……あれぇ? クロアしゃまが三人いますよぉ~? 分身のしゅちゅですか~?」
完全な酔っ払いだ。
どれだけ飲んだというんだろう。クロアからしたら、酒の匂いだけで酔いそうだ。
「あはは! あひゃひゃ! ……しゅかぁ」
「あ、寝た」
酒瓶片手に机に突っ伏した。幸せそうな寝顔だ。
そんなミオンを、ウィエルが魔法で浮かばせて近くの寝室に放り込んだ。
「酔っていても、魔法の腕は落ちないな」
「ぬへへ。褒められましたぁ」
「あ、ダメだこいつも酔ってる。っとと……!」
酔っぱらったウィエルがクロアに寄りかかる。
腕に抱き着かれ、更に下から舐め回すような目を向けられる。
この目。この手付き。この体温。いつ向けられても慣れない。
クロアの顔は、酔ってもいないのに赤くなる。
「相変わらずこういうことに弱いですねぇ」
「うるさい」
「そうやってシンプルな言葉しか出てこないのも、とっても可愛いです」
「男とはいつでもシンプルな生き物だ」
「じゃあシンプルに、私の誘いに乗ってください」
ウィエルを見下ろすと、主張している双丘が目についた。
「誘いって、お前な……」
「ふふ。私だってまだまだ女盛りですからね。それに、こうやって旅をしていたら気分も盛り上がります」
確かにその気持ちはわかる。
クロアも久々に旅をしてきたから、世界中を回っていた当時の頃を思い出して気分が高まっている。
それにこんなにも多くの肉を摂取したのも久々で、諸々のエネルギーは最高潮に達していた。
「いいのか?」
「勿論。全てをぶつけてください」
◆
「しゅかぁ……しゅぴぃ……ふがっ。……んにゅ?」
ミオンの目が覚めると、いつの間にか寝室のベッドで横になっていた。
部屋は真っ暗。リビングの灯りも消えている。完全に寝落ちしてしまったようだ。
まだ酒が回っているのか、思考が定まらずまぶたが重い。
喉が焼けるように痛い。水も飲まずに酒を飲んだからだ。とにかく体が水を欲している。
暗いリビングで水を飲み干すと、クロアとウィエルの姿がないことに気付いた。
「あれ、お二人は……?」
リビングには大量の皿が置かれているだけで、物音一つしない。
が、酔っていても鋭敏な聴覚がぴくりと動いた。
リビングから一番遠い部屋。別の寝室から、くぐもったウィエルの声と水の弾けるような音が聞こえる。
この音は村にいた時も何度も聞いたことがある。
そして、何が行われているのかも知っている。
「こ、これはっ……! ~~~~ッ!?」
急いでさっきいた部屋に戻り、布団を頭から被る。
しかしどれだけ耳を抑えても、ずっと音が聞こえてくる。
一度聞こえてしまっては、気にするなという方がどうかしている。
ミオンも十六歳。そういう欲求は当然ある上に、兎人族の性もある。
ミオンはスイッチが入らないように、耳を抑えてただベッドの上で悶えているだけだった。
◆
翌日。クロアとウィエルはどこか清々しい表情で朝食を食べていた。と言いつつ、完全に徹夜明けなのだが。
ミオンは起きていない。どうやら、まだ寝ているらしい。
「困った子ですね。やはり昨日は飲みすぎでしたか」
「ウィエルの方が飲んでいたけどな。酔いはいいのか?」
「はい。一晩も経てば酔いも醒めます」
「一体どんな体の構造をしているのやら。同じ人体とは思えないな」
「あら、一晩中確かめたではないですか」
ウィエルの流し目に、クロアは目を逸らしてコーヒーをすする。
そんなクロアが面白く、また愛おしく感じ、ウィエルはクロアに寄りかかった。
「ところで、今日はどうするのです?」
「少し昔馴染みに会いに行くつもりだ。ウィエルはミオンの修行を見てやってくれ」
「ええ、わかりました」
あれだけ飲み、あれだけ食べても既にいつもの二人。
胃と肝臓も化け物級である。
二人がゆっくり朝食を楽しんでいると、ようやくミオンが起きてきた。
「あ、ミオンちゃん。おはよう……って、大丈夫か?」
「お、おはようございます。すみません、寝不足でして……」
髪はぼさぼさ。目の下にはクマ。頬も赤く、どこか異様な雰囲気が漂っている。
明らかに体調不良のように見えた。
「ふむ。慣れない海に、昨日の酒で体調を崩したのかもな……仕方ない。今日の修行は中止して、休むことに専念しなさい。ウィエル、ミオンちゃんのことは頼んだぞ」
「はい、あなた」
クロアは食事を終えると、立ち上がって部屋を出て行った。
それを見送り、ウィエルはミオンを座らせて水を差しだす。
「あ、ありがとうございます。んく、んく……」
「いえいえ。ところでずっと聞いていたようですが、ミオンちゃんはむっつりさんなのですか?」
「ぶーーーー!」
盛大に噴き出した。
それもそうだ。まさか初っ端からぶっこんで来るとは思わないだろう。
「き、気付いていたんですか……?」
「はい。旦那も気付いていましたよ」
「き、気付いていたんでしたらちょっとは戸惑ってくださいよ!」
「別に恥ずかしいことをしている訳ではありませんから」
二人は夫婦で、そういうことも当然するだろう。
だが一晩中あの音を聞かされていたミオンからしたら、勘弁してほしいことこの上なかった。
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