第43話 勇者の母、ぐるぐるする
更に歩くこと数時間。
三人が小高い山の山頂に着くと、木々が開けて眼下に広大な青のキャンパスが広がった。
海に面する美しい街には、人々が行き交い賑わっている。
それにここにいても、風に乗って魚の匂いが鼻を掠めた。
嗅覚の鋭い兎人族のミオンは当たり前だが、クロアとウィエルもその匂いを感じる。
「見えたぞ、あれが港町アクレアナだ」
「綺麗な街ですねぇ……!」
「別名水の都とも言われていて、街に用水路が引かれている。そこを小さい船で行き来することも出来るんだ」
「えっ、乗りたいです! 乗りたい!」
「また後でな。まずは宿に行こう」
「はい!」
ウキウキルンルン。まるで旅行に来た子供のようだ。
思えば、アルカには同じことをしてやれなかった。全てが終わったら、家族水入らずで旅行に行くのもいいかもしれない。
なんとなく、そんな気分にさせられた。
山を降り、三人はアクレアナの検閲を通って門の中に入っていった。
そこに広がる広大な用水路に綺麗な建物。まるで水の上に街が浮いているようだ。
「すごぉ……」
「アクレアナは南北で分かれていて、南地区は観光地。北地区は港になっているんだ。大通りを挟んでるから、結構明確に雰囲気が変わるぞ」
「じゃあこっちは南地区なんですか?」
「ああ。とりあえず宿に向かおう。陛下が予約してくれたみたいだから」
と、ウィエルがどこからか二枚の紙を取り出した。
一枚は宿までの地図。そしてもう一枚は、アーシュタル直筆の紹介状だ。
「えっと……こっちですね。私に付いてきてください」
「待った」
ウィエルが進もうとしているのを止めると、キョトンとした顔で振り向いた。
「なんですか?」
「そう言えばウィエルって、方向音痴だったような気がするけど」
「やですね。何年前の話をしてるんですか。もう私も立派な大人です。任せてください」
「……ならいいけど」
意気揚々と前を歩くウィエル。
その後ろを、クロアとミオンがついて行く。
「ウィエル様って方向音痴なんですか?」
「ああ。今住んでいる村に移動する前は王都にいたんだが、四軒隣の店に買い物に行くと半日は帰ってこなかった」
「重症ですね」
「ああ、俺も諦めた」
村に移住してからは、そんなことはなくなった。
村は王都ほどゴチャゴチャしていないし、見晴らしもいいから迷うことはない。
だがニルヴェルトやアクレアナのようにゴチャゴチャした街に出ると……。
「えっと……こっちですね。……いや、こっち? あれ、ん? えーっと……?」
この通り、完全にわからなくなる。
地図をこねくり回し、首を傾げ、体を傾かせる。
完全におもしろムーブをかましているウィエルに、ミオンは顔を背けて笑いを堪えていた。
「うぃ、ウィエル様可愛すぎます……!」
「だろ? でも流石に時間が掛かりすぎるから、ずっとも見てられないが」
クロアはウィエルの脇から手を入れ、軽々と持ち上げる。
まるで子供を抱っこする親のようだ。
「あなた、なんです?」
「ウィエル。俺が案内するから、地図を貸してくれ」
「ちょ、ちょっと待ってください。まだチャンスはあります……!」
「ノーチャンスだ。ほら」
「うぅ……私も成長してると思ったんですが……」
しょんぼりしたウィエルは、渋々地図をクロアに渡す。
ウィエルを下ろして地図を受け取ると、現在地と地図を照らし合わせて歩いていく。
完全に正反対だったのか、まず門に戻ってから歩くことしばし。
ようやく、今回泊まる宿へと辿り着いた。
「ここだな。ホテル・グランドアクレアナ」
「おぉっ……! まるでお城みたいな旅館ですね……!」
ホテルが初めてなのか、ミオンの顔はキラキラ輝いている。
が、そんな横でむすーっとしているウィエルが一人。
「次こそ……次こそは……!」
「ウィエル」
気落ちしているウィエルの肩に手を乗せ、優しい笑みを浮かべるクロア。
そんなクロアを見上げて、ウィエルは安心したような顔をすると。
「向き不向きがあるからいい加減諦めろ」
「ばかぁ!!」
一気に奈落に突き落とされたのだった。
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