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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第二章 勇者と父

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第32話 勇者の父、脅す

「ヒハッ! ヒハハハハッ! この魔剣が出たからにはもう終わりだ! 天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の力を凝縮した六つの魔剣! 触れたら最後、即死だァ!!」

「それ毒の時も聞いた」

「うるッッッせェ!!」



 ドドレアルが魔剣をクロスして構える。

 すると、筋肉が膨れ上がり周囲の景色が歪んだ。



「修羅道──《憤怒の相》!」



 次の瞬間、【修】の文字が刻まれた魔剣がどす黒く光り、ドドレアルの体にまとわりつく。



「くくくッ……修羅道は怒りと憎しみが圧縮された剣。我の怒りと憎しみが増すほど、我の身体能力は強化される」

「へぇ」

「そして、畜生道──《魔獣顕現》!」



 次は【畜】の文字が刻まれている魔剣が光り、ドドレアルの周囲から禍々しい生物が無数に姿を現す。

 鳥型、獣型、虫型。見た事のある形はしているが、魔物とも魔獣とも違う。全てこの世には存在しない生物だ。

 心の底から嫌悪感が混み上がってくる。



「キヘヘヘヘ! 異界より呼び寄せた畜生共だ! こいつらの好物は人間の生きた肉! 特に女の肉には群がるぜェ!」



 ドドレアルの目がウィエルやミオン、勇者一行に向けられる。

 ウィエルも珍しく嫌悪感を抱いたのか、顔をしかめて後ずさりした。



「うぃ、ウィエル様にも苦手なものってあるんですね。意外です」

「苦手ではありません。視界に入れたくないだけです」

「それを苦手と言うのでは」

「という訳で弟子ちゃん。ここの手柄はあなたに譲ります」

「ちょっ、ずる! 私肉弾戦しか出来ないんですから、ウィエル様の魔法でちょちょいとやっちゃって下さいよ!」



 クロアの背後で、二人が何故か譲り合っている。

 前向きに考えれば余裕があるということだが、ちょっとは緊張感を持って欲しいところ。



「ウィエル、害獣は頼んだぞ」

「ええ……わかりましたよぅ」



 またも珍しいしょんぼりウィエルが、人差し指に小さな魔法陣を展開する。



「そんな小さな魔法で何をするつもりだ? え? よもや魔法の原則を知らぬわけではあるまい」



 ドドレアルの言う通りだ。

 原則として、魔法の威力は魔法陣の大きさに比例する。

 原理としては、魔法陣が大きければそれだけ多くの式や文字、幾何学模様を組み込めるから。つまり小さい魔法陣には、それなりの物しか組み込めない。


 普通なら。



「確かに、原則はそうですね。……あくまで、原則ですが」



 ウィエルが人差し指を害獣へと向ける。

 小さい……本当に小さい魔法陣だ。しかしよく見ると、その中には無数の何かが刻まれている。



「魔法の深淵を知りなさい。《ライトニング・レイ》」



 刹那、ウィエルの指から放たれた紫電の光線が、数秒に満たないうちに数百もの害獣を撃ち抜いた。

 紫電によって丸焦げになる害獣。

 やがて炭になり、風に吹かれて砕け散った。



「……は? え……え?」

「如何に異界の生物と言えど、光より速くは動けないでしょう。あーやだやだ。私の魔法が不快害獣で汚されました」



 うぇっ、と舌を出して不快感を露わにしたウィエル。

 クロアが一人で相手をしてもよかったが、それだと時間がかかりすぎる。適材適所というやつだ。


 これもアルカたちへの手本見せなのだが、果たして気づいているだろうか。



「こ、の……俺の可愛い畜生共をォ……! 許さんぞ貴様ァ!」



 怒りによって、修羅道の効果が更に上がった。

 ドドレアルから感じられる圧が凄まじい。修羅道の効果だろうか。戦闘力も倍増しているように見える。

 クロアも流石に危険を感じたのか、ドドレアルへと歩いていった。



「おい、これ以上殺気を流すな。自然に悪影響を及ぼす」

「知ったことかァ! 止めたければ、貴様の力で止めること──」






「そうさせてもらう」






「だ──ァ?」



 ドドレアルの目が見開かれる。

 今まで対峙していたクロアが、どこにもいない。

 瞬きをしていた訳ではない。ないのだが、文字通り姿を消した。

 気配は感じる。声も聞こえる。だが姿だけが見えない。



「後ろだ」

「ッ!?」

「フッ──!!」



 気合い一閃。

 魔族の肉眼でも捉えきれないスピードで背後を取っていたクロアが、手刀でドドレアルの六本の腕を斬り飛ばした。

 目を見張る勇者一行。だがアルカには馴染みがある。

 あれは、クロアが木こりとして巨木を切り倒す時に使っている手刀だ。

 青い鮮血と共に、六本の腕と魔剣が宙を舞う。



「ヒッ……!?」

「喚くな、鬱陶しい」

「へぶっ!?」



 ドドレアルの頭を掴み、地面へと叩き付ける。

 その衝撃で、大地に巨大な亀裂が走った。



「あ……ぁがっ……!?」

「掠ったら即死の魔剣も、掠らなかったら意味ないな」



 その通りである。

 だがそんなこと出来るのは、クロア以外いないだろう。

 クロアはドドレアルの頭を押さえつけたまま、アルカに目を向けた。



「アルカ、見ていたか?」

「……ぇ。あ、はいっ」

「魔王軍四天王はどれも強敵だ。しかも、必ず配下を引き連れている。お前はそれらを全て倒し、魔王を討伐するんだ。今の俺とお前の強さのレベルをしっかりと認識し、鍛錬を積め」

「わ、わかりました……!」



 直立不動で頭を必死に振る。

 クロアの言う通りだ。今は最強の父と母がいるが、この旅に両親は付いてこない。両親同伴の勇者とか、恥ずかしいにも程がある。

 なら、強くなる他ない。強くなって、他の四天王を倒す。そして魔王を倒し、魔王軍を壊滅させる。

 明確な指標ができ、アルカは力強く頷いた。


 男の顔になったアルカを見て、クロアはドドレアルの瞳を覗いた。

 いや、瞳じゃない。瞳の先にいる何かを見ている。



「おい、聞いているか? 聞いているだろう? ……俺の息子が、近々お前を殺しに行く。精々怯えて眠れ──魔王(、、)



 メキュッ──!!


 クロアの握力によりドドレアルの頭部は爆散。

 魔王軍四天王、魔剣帝ドドレアルは、理不尽な超暴力の前に為す術なく息絶えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出番なかった4本の魔剣さん…
[一言] もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな
[一言] どんだけ強くとも真価発揮する前に死んだら無意味だってそれいち
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