第18話 勇者の父母、正式に弟子を取る
◆
翌日の朝。ガルド邸は大勢の人で賑わっていた。
大広間を開放し、捕まっていた人たちを労うためパーティーを開いていたのだ。
あっちからもこっちからも、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
ミオンとウィエルもその輪に混ざり、楽しいひと時を過ごしていた。
打って変わって、ガルドの執務室。
クロアとガルドは、執務室でこれからのことを話していた。
「今回のことは、まだ公にはしない。国王様の審判が下るまで、俺が受け持つこととなった」
「賢明かと」
この事が世間に知れたら、たまたま昨夜のオークションに参加しなかった上流階級の人間が証拠の隠滅を図るかもしれない。
そうなってしまえば、そいつらを捕まえることは出来ないだろう。
今はとにかく黙っているのが得策だ。
ガルドはグラスの酒を一気に飲み干し、少し意気消沈した顔になった。
「アプーは俺の統治する街なのに、こんな悪事を見逃していた……その上、クロアにまで迷惑を掛けるなんてな。悪いことをした」
「お気になさらず。道すがら、助けを求められて手を差し伸べただけですから」
クロアの言葉に、ガルドは眉をぴくりと上げた。
「道すがら……例の、アルカの坊主をぶん殴りに行くという噂は本当だったんだな」
「はい。愚息は勇者としての力を身に付け、分不相応の権力を得た。力の使い方がわかっていない愚か者です」
「うむ。力は慢心を生み、慢心は傲慢になる。一度お灸をすえてやった方がいいかもしれんな」
空になったクロアのグラスに酒を並々と注ぎながら、「しかし」と続ける。
「なぜクロア自ら? 国王陛下に進言すれば、対応してくれるだろう。お前ならそれが出来るではないか」
「ははは。ガルド卿、異なことをおっしゃいますな」
クロアは酒を見つめ……いや、酒の先にある何かを見つめるように、遠い目をした。
それが何かはわからないが、慈愛と呆れを秘めた目にガルドはつい目を奪われた。
「愛する息子が、人の道を踏み外した。それを正すのも、話すのも、拳を振るうのも。全て親の務めではないですか」
「……なるほど、違いない。流石は勇者殿の父上だ」
「よしてください」
再度乾杯して酒を飲むと、クロアが「ああ、そうだ」と口を開いた。
「ガルド卿、お願いがあるのですが」
「願い? クロアがそんなことを言うとは珍しい。クロアから頼みごとをされるのは、存外気分がいいな。どれ、申してみよ」
「では……」
…………。
たっぷり休養を取った翌日。
クロアとウィエルは、アプーの街を後にすることになった。
「それでは俺たちは行きます」
「ガルド様、お世話になりました」
「いやいや、またいつでも来てくれ。二人ならアポなしでも大歓迎だからな。がはははは!」
豪快に笑うガルド。その背後には、昨日助けた人たちが別れを惜しむように並んでいた。
こうしてみると、かなりの大人数だ。人族や兎人族以外にも、猫人族、犬人族、エルフ族、ドワーフ族など、種族も多くわかれている。
その中から、ミオンが一歩前に出た。
「く、クロア様、ウィエル様。あの、その……」
「……ウィエル。頼んだ」
「いいのですか?」
「ああ」
困ったように笑い、ウィエルが前に出る。
ミオンの手を取ると、そっと笑いかけた。
「ミオンちゃん。あなたはどうしますか? 一族の再興に尽力するもよし。私たちの旅についてきて、魔法を覚えるのもよし。決めるのはあなたです」
「そ、それは……」
ミオンの目が泳ぐ。
村の惨状を見てしまった。弔いで村を焼き払ったのを見てしまった。
心の中では、村の再興の手伝いをしたくてたまらない。
でも心のもっと奥底では、二人について行って強くなりたいと考えている。
このままでは、また村が襲われた時に同じことが繰り返される。そう考えてしまうのだ。
再興か、進むか。
それに、言葉には表せられない別の感情。
ミオンの心は揺れていた……だが。
「ミオン、行きなさい」
「っ……パパ?」
アランが前に出て、ミオンの頭を撫でた。
「ミオンの優しさは、俺が誰よりも知ってるよ。手伝いたいという気持ちと、守りたいという気持ちで葛藤しているのもわかる。でもそれなら、別の考えを持ってほしい」
「別の考え……?」
「ああ。村の外の世界を知りたいという、好奇心だ」
アランの言葉に、ミオンは目を見開いた。
言葉に表せられなかった言葉。それは、好奇心だ。その言葉が一番合っている気がする。
ミオンは生まれてからずっと村にいた。村の周辺しか行動してこなかった。
でも今回のことで村の外の世界を知り……同時に、もっと見たいと考えるようになったのだ。
「村のことは、パパたちに任せろ。それにガルド様が、村の再興の支援をして下さるそうだ」
「ガルド様が……?」
ガルドに目を向けると、グッと親指を立てた。
昨日、クロアがガルドに頼んだ願いというのはこれだ。
再興には金と労力が掛かるもの。それを全面的にバックアップしてくれるという。
これほど心強いことはない。
「だからこっちは大丈夫だ。お二人の旅について行き、より成長してほしい」
「パパ……うん、うんっ……! ありがとう、パパ……!」
アランはミオンの目から流れ落ちる涙を拭き、クロアに頭を下げた。
「クロアさん。どうか娘を、よろしくお願いします」
「ええ。責任をもってお預かりします」
勿論、大切な娘さんを預かる以上、危険に晒すつもりはない。
危険に晒されないように、出来る限り鍛えていくつもりだ。
クロアは内心、気合を入れなおした。
ミオンは、ウィエルと共にクロアの元に向かう。
真っ直ぐ覚悟のある目に、クロアとウィエルは満足そうに頷いた。
「クロア様、ウィエル様。改めて、よろしくお願いします!」
「こっちこそよろしく」
「ミオンちゃん。これからはビシバシ鍛えますからね」
「ひぇっ」
若干後悔したのは、言うまでもない。
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