第117話 幽霊、裁き
◆
「七七日、というものを知っているか?」
クロアの先導で、廊下を進む。
少し振り返ってクロアが問うと、ミオンは不安そうに首を横に振った。
昨日まで一緒にいた仲間がいきなり消えたんだ。過去のトラウマが蘇っているのかもしれない。
ウィエルは、ミオンの気持ちを落ち着かせるように頭を撫でた。
「霊というものは、七日ごとにある方からの裁きを受ける。その裁きをもって、来世の行き先が決まるとされている。そして今日が、裁きの最後の日だ」
「さ、裁きって……ま、まさか、地獄に落とされる可能性も……!?」
「いや、それはないだろう。あの方は、その霊がどのようにして死に、ここへやって来たかを見通している。悪いようにはならないさ」
だが、あの方は良くも悪くも公平で、正義だ。
いくら死に際が理不尽であれ、生前の行いが悪かったらどうなるか……。
そこまで考えたが、クロアは口にはしなかった。余計に、不安にしかねないから。
しばらく廊下を進むと、今までにない雰囲気の場所へやって来た。
さっきまでは新築の和風屋敷といった感じだが、ここは廃れている。廃墟と言っても信じられるくらい、あちこちがボロボロだ。
と、目の前に一際汚れている襖が現れた。
襖には天秤と、分厚い本が描かれている。
「この先で、ミオンちゃんの仲間は裁きを受けているだろう」
「こ、ここで……」
生唾を飲み込んだミオンが、襖に手を掛ける。
不安と恐怖が勝っているのか、まだ開こうとしない。
が、直ぐに意を決したのか、勢いよく襖を開いた──。
「……ぁ……」
目の前に広がる光景に、ミオンは目を見開く。
襖の先は屋外で、空は現実ではありえない赤黒に染まっている。
無限に続く白い草原には、さっきまでクロアの目に見えなかった霊魂がしっかりと目視できた。
無数の霊魂が列をなし、ある人物の前に並んでいる。
その男は、巨大な男だった。
椅子に座っているのに、クロアより全然でかい。ネプチューンよりも、でかい。
その上……顔が、怖い。
まさに鬼の形相。いや、鬼すら裸足で逃げ出すレベル。
その男の隣に立っているのは、ティティだった。
さっきまでの和服姿ではない。
白い神々しいドレスを着ていて、頭には光る輪っかが浮かんでいる。なんとも神聖な雰囲気を漂わせていた。
そして手には、金色に輝く天秤。
しかし、なぜか狼耳がない。普通の人間のように見える。
クロアたちに気付いたティティが、聖母のような笑顔を向けてきた。
「あ、皆様。いらしたのですね」
「ティティさん。見学させていただいても?」
「構いませんよ。……ミオン様にとっては、最後の時になりますから」
ティティがミオンに微笑む。
その人ならぬ空気に、ミオンは精神的に圧倒された。
ミオンはクロアの後ろに隠れ、不安そうにティティを覗き見た。
「あ、あの……何がなにやら……?」
ミオンの疑問に答えたのは、ウィエルだった。
「あのお方が霊魂に裁きを与えます。良き霊は、来世ではまた人間に転生し、悪い霊は転生しても獣か虫。もしくは転生すらできず、地獄に落とされます」
ウィエルの説明に、ミオンは納得したような顔をした。
けど、まだわからないことがあるようで、クロアを見上げる。
「クロア様。あのお方って……」
「閻魔だ」
「…………ぇ」
クロアの言葉に耳を疑ったように目をぱちくりさせた。
そのリアクションもわかる。クロアも最初に見た時は驚いたものだ。
地獄の王にして、魂を裁く者。
それが、閻魔大王である。
ティティはほくそ笑むと、ミオンを手招きした。
「ミオン様、こちらへどうぞ」
「は……はい」
ミオンがティティに連れられて、閻魔の隣に立つ。
どうやらティティも、クロアと思惑は同じらしい。
「ミオンちゃん、大丈夫でしょうか? 裁きはある意味で、残酷な結末になるかも……」
「いや、それはないだろう。ミオンちゃんは嘘がつけない子だ。今までのあの子の様子を見てたら、仲間が悪いやつなんてことはない。地獄に落ちるなんてことはないだろう。……と、思う」
「自信なさげですね」
「閻魔とティティさんの裁きは、平等に正義だからな」
閻魔の持つ閻魔帳には、死者の生前の行いが事細かに記されている。
明らかに【悪】と断定できる者は、閻魔が容赦なく地獄へたたき落とす。
が、そうではないグレーな存在もいる。
その時に役に立つのが、ティティの持つ天秤だ。
「ティティ様……いえ。正義の女神、ユースティティア様の天秤。あれは容赦なく悪の重さを断罪しますからね……」
「……大丈夫だろう、うむ」
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