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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第五章 海の国

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第115話 勇者の父、送り出す

「……至福……」

「よ、よかったですね、ミオンちゃん」

「はい。幽霊なんて怖いことばかりだと思っていましたけど、こんなに幸せな気持ちになるなんて……」



 客室に戻り、今までにないくらいとろけている顔を見せるミオン。

 喜ばしいことだが、クロアから事情を聞いた後だと素直に祝えない。むしろ、《混沌の霊視(カオス・ビジョン)》を使ったことを少し後悔しているほどだ。


 ウィエルは困り顔でクロアを見るが、クロアはお茶をすすって肩を竦めた。

 今回の件に関してはノータッチといった感じだ。

 そういうことなら、ウィエルもあまり突っ込んだことは言わないようにしよう。


 しかし、これ以上幽霊たちのことについて言ってしまうと、ミオンの未練はもっと大きくなってしまうかもしれない。

 話を逸らすべく、ウィエルは「そうだっ」とわざとらしく手を叩いた。



「ここのお宿なんですけど、遊園地のような施設もあるんですよっ。生前そういうことに恵まれなかった方たちを労うために。どうですか? 行ってみませんか?」

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。明日、みんなと行く予定なので」

「そ……そうですか」



 早い。行動が早い。もう明日の予定までつけているなんて。

 それを聞いていたクロアが、ミオンを手招きで呼んだ。

 首を傾げ、ミオンはクロアの前に正座する。



「ああ、かしこまらなくていいぞ」

「は、はい」



 返事をしながらも、ミオンは脚を崩さない。クロアは腕を組み、少し目を閉じた。

 ウィエルから見たら、子をしかる親のような構図だ。昔のアルカを見るみたいで、少し顔がにやけてしまう。



「ミオンちゃん。みんなと会えて嬉しいか?」

「は、はいっ! すっごく、嬉しいです……!」

「そうか。……なら、ここにいる間は楽しんで来なさい。一週間後に、ここを出発する」

「い、一週間……」



 ミオンは目を泳がし、指を折って何かを考えた。

 たっぷり考えること数分。

 ミオンは立ち上がると、襖を開けて外に出た。



「み、みんなともっとお話ししてきます! 一週間じゃあ、とてもじゃないけど時間が……!」

「うむ。ここにいる間は、修行はなしだ。自由にしなさい」

「ありがとうございます!」



 低空を飛ぶ鳥のように、ミオンは超高速で廊下を駆けていく。

 危ないから廊下は走るなと言いたいところだが、時すでに遅くミオンの姿はかけらもなかった。

 小さくため息を吐いたウィエルは、ムッとした顔でクロアの膝の上に対面で座り、頬を両手で挟んだ。



「いいんですか? 一週間もここにいたら、もしかしたらミオンちゃん、ここにずっといたがるんじゃ」

「しょーははらはひは」

「何言ってんのかわかりません。ちゃんとしゃべってください」

「ひゃーへをははへ」



 クロアはウィエルの手をそっと握り、両頬から離した。

 旦那様の顔に触れる機会なんてそうそうないから、もっと楽しみたかったのだが。

 そんな胸中を隠すように、ウィエルはクロアの胸にぐりぐりと頭を擦り付ける。



「酔っているのか?」

「あの程度じゃ酔いません」

「樽が三つくらい空いていた気がするが」

「誤魔化さないでください」

「俺が悪いのか、これは」



 クロアは少し笑ってウィエルの頭を撫でる。

 少しだけ怒っていたウィエルだが、クロアに撫でられたことで少しだけ心が躍った。我ながら単純だと思う。

 けど、最近ミオンのことを撫でて自分のことは撫でてくれなかったから、ちょっとだけ嫉妬していたのも事実だ。

 ウィエルの頭を撫でながら、クロアは「大丈夫」と口を開く。



「ミオンちゃんだが、絶対に大丈夫だ。ここに囚われることはないだろう」

「どうしてそう言えるんですか?」

「うまいことは言えないが……まあ、直感だと思ってくれていい」

「なんですか、それは……」



 でも、クロアの直感は当たるのは事実だ。

 野性的な直感というのだろうか。とにかくクロアは、こういったことに関しての直感が並外れている。

 クロアが大丈夫だというのなら、信じるしかない。



「あなたがそう言うなら、私も信じて待ちます」

「その方がいい。修行のない久々の休息だ。俺たちも、ゆっくり羽を伸ばそう」

「ですね。ミオンちゃんも、恐らくしばらくは皆さんと一緒にいるでしょうし」



 と……そこで気付いた。

 ミオンがいない。ということは、夫婦水入らずということ。

 お酒の勢いもあるが――あえて抑えていたウィエルの欲求が、一瞬にしてリミッターを振り切った。



「あなた」

「ん? ……そうだな。俺たちも自由にさせてもらおう」



 クロアの大きな手が、ゆっくりとウィエルの浴衣に伸ばされ……そして……。

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[一言] この続きをノクターンで掲載してください。
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