第114話 勇者の父、考える
◆
泣き止んだミオンは、それからはすごかった。
幽霊のみんなと、飲めや食えやの大騒ぎ。
失われた時間を取り戻そうと。そして、この時を少しでも楽しもうと、全力で幽霊たちと戯れていた。
そんな様子を、クロアとウィエルは少し離れたところに座り、料理を食べつつ見守る。
「連れて来て正解でしたね、ミオンちゃん。すごく嬉しそう」
「……そうだな……」
ウィエルの言葉に、どこか陰りのある声色で答えるクロア。
いつもと違うクロアに、ウィエルは首を傾げてクロアを見つめた。
「あなた、どうかしました?」
「……俺は、未だにこれでよかったのかわからない」
「わからない、ですか……?」
「うむ……」
肉の塊にかぶり付き、数回の咀嚼で飲み込む。
もっとよく噛んで食べなさいとか、いろいろと言いたいことはあるが、これがやけ食いであることはすぐにわかった。
「どうしてですか? あんなに嬉しそうじゃないですか」
「それが問題なんだ」
いまいち、クロアの言っていることがわからない。
もう会えないと思っていた仲間に会えて嬉しいのは、当たり前じゃないだろうか。
しかしクロアの考えは違うみたいで、言葉を選ぶように口を開いた。
「死んでしまった大切な人に会える。それは甘美な言葉だ。本来、生者が死者に会えることはないからな。もしウィエルが死んでしまい、ここで再会できたら……俺は、今のミオンちゃんと同じくらい感情を爆発させるだろう。逆に俺が死んだとき、ウィエルも同じ気持ちになるはずだ」
「……そうですね。あなたが死ぬなんて、考えたことありませんが」
「それは俺も同じだ。ウィエルが死ぬなんて、未来永劫ありえないと思ってる。……が、常人は違う。必ずどこかで、死が訪れる。これは絶対だ」
必ず。絶対。クロアが強く強調した言葉に、ウィエルは首を傾げたが……そこでようやく、クロアが何を言いたいのかがわかった。
「あなたは、ミオンちゃんが過去に囚われることを危惧しているのですね」
「その通り。……もしかしたらミオンちゃんは、このままここで暮らしたいと思うかもしれないぞ」
「…………」
クロアの言葉に、ウィエルは反論できなかった。
ない、とは言いきれない。十分に考えられることだ。
大切な人とずっと一緒にいたいという気持ちは、誰にでもある。ずっと一緒に、人生を歩みたい。ずっと一緒に、笑顔でいたい。
クロアにもウィエルにも共通する、原始的な感情だ。
しかし二人は、それを振りほどくだけの精神力と人生経験がある。
だがミオンはまだ幼い。冷静に物事を判断する眼力もなければ、経験も浅い。
クロアの言う通り、もしミオンが誘惑に負けてここに残ると言い出したら……。
「どどどどど、どうしましょう……!?」
「ミオンちゃんの精神力に賭けるしかないな」
「せ、精神力って……!」
まさかの根性論だった。もっと具体案を期待したのだが。
しかし、クロアの言葉の通り、今の二人にはそれしかできないのも事実だ。
仮に無理やり引っ張っていったとしても、未練が邪魔をして今後の旅に支障をきたしかねない。
全てのことに集中できず、下手をすれば死ぬ可能性もある。
そんなことにならないよう、ミオンの精神力でなんとか乗り切ってほしいところだが……。
「乗り越えられると思いますか?」
「さあ」
「さあって……本気で考えてください」
「本気で考えても、俺たちにはどうすることもできないからな。今はミオンちゃんを信じるしかない」
「……そう、ですね。そうかもしれません」
ここでいくら気を揉んでも、最終的に決めるのはミオンだ。
それより、今は再会を喜ばせてあげよう。
ウィエルは喜んでいるミオンを肴に、酒を飲むのだった。
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