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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第五章 海の国

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第114話 勇者の父、考える

   ◆



 泣き止んだミオンは、それからはすごかった。

 幽霊のみんなと、飲めや食えやの大騒ぎ。

 失われた時間を取り戻そうと。そして、この時を少しでも楽しもうと、全力で幽霊たちと戯れていた。

 そんな様子を、クロアとウィエルは少し離れたところに座り、料理を食べつつ見守る。



「連れて来て正解でしたね、ミオンちゃん。すごく嬉しそう」

「……そうだな……」



 ウィエルの言葉に、どこか陰りのある声色で答えるクロア。

 いつもと違うクロアに、ウィエルは首を傾げてクロアを見つめた。



「あなた、どうかしました?」

「……俺は、未だにこれでよかったのかわからない」

「わからない、ですか……?」

「うむ……」



 肉の塊にかぶり付き、数回の咀嚼で飲み込む。

 もっとよく噛んで食べなさいとか、いろいろと言いたいことはあるが、これがやけ食いであることはすぐにわかった。



「どうしてですか? あんなに嬉しそうじゃないですか」

「それが問題なんだ」



 いまいち、クロアの言っていることがわからない。

 もう会えないと思っていた仲間に会えて嬉しいのは、当たり前じゃないだろうか。

 しかしクロアの考えは違うみたいで、言葉を選ぶように口を開いた。



「死んでしまった大切な人に会える。それは甘美な言葉だ。本来、生者が死者に会えることはないからな。もしウィエルが死んでしまい、ここで再会できたら……俺は、今のミオンちゃんと同じくらい感情を爆発させるだろう。逆に俺が死んだとき、ウィエルも同じ気持ちになるはずだ」

「……そうですね。あなたが死ぬなんて、考えたことありませんが」

「それは俺も同じだ。ウィエルが死ぬなんて、未来永劫ありえないと思ってる。……が、常人は違う。必ずどこかで、死が訪れる。これは絶対だ」



 必ず。絶対。クロアが強く強調した言葉に、ウィエルは首を傾げたが……そこでようやく、クロアが何を言いたいのかがわかった。



「あなたは、ミオンちゃんが過去に囚われることを危惧しているのですね」

「その通り。……もしかしたらミオンちゃんは、このままここで暮らしたいと思うかもしれないぞ」

「…………」



 クロアの言葉に、ウィエルは反論できなかった。

 ない、とは言いきれない。十分に考えられることだ。

 大切な人とずっと一緒にいたいという気持ちは、誰にでもある。ずっと一緒に、人生を歩みたい。ずっと一緒に、笑顔でいたい。

 クロアにもウィエルにも共通する、原始的な感情だ。

 しかし二人は、それを振りほどくだけの精神力と人生経験がある。

 だがミオンはまだ幼い。冷静に物事を判断する眼力もなければ、経験も浅い。


 クロアの言う通り、もしミオンが誘惑に負けてここに残ると言い出したら……。



「どどどどど、どうしましょう……!?」

「ミオンちゃんの精神力に賭けるしかないな」

「せ、精神力って……!」



 まさかの根性論だった。もっと具体案を期待したのだが。

 しかし、クロアの言葉の通り、今の二人にはそれしかできないのも事実だ。

 仮に無理やり引っ張っていったとしても、未練が邪魔をして今後の旅に支障をきたしかねない。

 全てのことに集中できず、下手をすれば死ぬ可能性もある。


 そんなことにならないよう、ミオンの精神力でなんとか乗り切ってほしいところだが……。



「乗り越えられると思いますか?」

「さあ」

「さあって……本気で考えてください」

「本気で考えても、俺たちにはどうすることもできないからな。今はミオンちゃんを信じるしかない」

「……そう、ですね。そうかもしれません」



 ここでいくら気を揉んでも、最終的に決めるのはミオンだ。

 それより、今は再会を喜ばせてあげよう。

 ウィエルは喜んでいるミオンを肴に、酒を飲むのだった。

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