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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第五章 海の国

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第113話 亜人の少女、慟哭する

 体の芯から温まった三人は、風呂を上がって客室へと戻る。

 どこかの島国特有の服である浴衣は、火照った体にちょうどいい涼しさを与えてくた。

 ほっと息を吐いて、夕暮れの外を見る。

 部屋に戻る道中、かなりの数の幽霊とすれ違ったが、これだけ見るともう慣れてきた。

 ウィエルの言う通り、見れた方が幸せなのかもしれない。



「こうして見ると、いろんな方がいらっしゃるんですね。人間はもちろん、亜人もすごく多い……」

「死には誰にでも、平等に訪れるものだからな」

「でも世界中の魂がここに集まると、それこそ大変なことになるのでは? 経営的にも、仕事的にもばたばたしそうですが」



 ミオンの疑問はもっともだ。

 そんな疑問に答えたのは、ウィエルだった。



「ちょうどいい機会です。広域探知の魔法を使ってみてください」

「は、はい」



 広域探知魔法は、海の上でウィエルから教わった魔法だ。

 襲って来そうな海獣の探知を絶えず行うことで身につけた。それはもう、死に物狂いで。

 その結果、ミオンの魔力コントロールの才能と相まって、かなり広域の探知が可能となった。


 ミオンは集中すると、両手の平に魔法陣を展開。

 祈るように両手を魔法陣ごと合わせると、広域探知魔法が発動した。



(──ぇ……?)



 広がる。広がる。まだまだ、広がる。

 広がるごとに、頭の中に屋敷の地図が作られていく。

 が……ミオンの探知能力の限界である2キロに到達しても、まだまだ全容を把握できなかった。



「……広すぎませんか、これ……?」

「その通り。私の探知魔法でも、全てを認識することはできませんから」

「うそん」



 ウィエルの魔法の腕は、世界最高だと思っている。

 そんなウィエルの探知魔法でも探れないだなんて、どれだけ広いんだろうか。



「で、でもここまで広かったら、普通に生者のお客さんも見つけられそうですが……」

「ここは生と死の間にある領域なので、生者は簡単に来れないんですよ」



 じゃあなんで二人は簡単に来れたのか。

 そんな野暮な質問はしなかった。

 答えは簡単。クロアとウィエルだから、だ。



「働いている方々も、生者ではありません。かといって、死者でもありません。そういうものとして認識していれば大丈夫です」

「……なるほど!」



 ミオンは考えることを止めた。


 露天風呂から客室へ戻ると、ティティが三人に恭しく頭を下げた。



「皆様、宴の準備ができております。どうぞ、大広間へ」

「ありがとうございます、女将さん」



 クロアとウィエルは、慣れたようにティティについて行く。

 だがミオンは腑に落ちなかった。

 なぜ、来たばかりの自分たちのために、宴を催すのか……。

 聞きたかったが、それよりもお腹の虫が何か食わせろと喚いて仕方ない。

 今は大人しくついて行くことにした。


 ティティの案内で歩くこと数分。

 一際大きな襖の前で立ち止まると、待機していた女中が厳かに開けた。



「う……わぁっ……!」



 ミオンの目に飛び込む、豪華絢爛な料理の数々。

 鼻腔をくすぐる食欲を誘う匂いは、食という本能を刺激するかのようだ。



「これは見事だな」

「いつもこんなに良くしていただいて、申し訳ありません、ティティ様」

「いえ。生者のお客様は本当に珍しいですから。いらした方は全力でおもてなしをする。それが当宿のモットーなので」



 ティティの言葉に、さっきの疑問が解消した。

 だから宴が催されるのか、と。


 でもそんなことはどうでもよかった。早く食べたくて食べたくて仕方ない。

 ミオンが料理に飛びつこうとすると、ティティが「お待ちを」とミオンを静止した。



「本日は宴です。なので、死者のお客様をお招き致したく」

「し……死者、ですか……」



 思わず顔をしかめてしまったミオン。

 だが察してほしい、この気持ちを。慣れたとはいえ、幽霊と一緒に料理を囲むのは気まずすぎる。



「まあまあ、いいじゃないですか、ミオンちゃん」

「うむ。食事は賑やかな方がいいだろう」

「あちらの方々も、是非にとのことで」

「う……わ、わかりましたよぅ……」



 三対一。ここでいくら駄々をこねてもミオンの意見は通らないだろう。

 なら、いっそのこと受け入れる方がいい。

 幸い、世界最強の夫婦が傍にいるのだ。死ぬことはないだろう。……たぶん。


 ティティが微笑み、自分たちが入ってきた方とは反対側の襖に手を掛け……開いた。



「ッ…………あれ?」



 身構えたが、そこには誰もいない。ただ暗い廊下が続いているだけ。

 ──いや、違う。いる。


 襖の影から見える、兎耳。


 そして……ひょこ。






『……ミオン……?』






 幼馴染み(、、、、)の女の子が、顔を覗かせた。



「………………ぁ……」



 そうだ。そうだ。そうだ。

 どうして、こんなことに気付かなかったんだろう。

 ここは死者の魂が集まる宿。

 なら、いてもおかしくない。


 ……あの時、殺されてしまったみんなが。



『わーっ! ミオンだー!』

『本当に来てたんだ!』

『アランとこの嬢ちゃんか』

『少し見ないうちに精悍な顔つきになったじゃないかい』

『ミオンねーちゃっ、あしょぼー!』



 襖の奥からやってきた半透明のみんなが、わらわらとミオンの周りに集まる。

 馴染みのある顔ばかりだ。みんな半透明だが、みんな元気そうな笑顔を見せている。


 その中で、まだ呂律が回ってないほど幼い女の子が、ミオンの腕に抱き着いた。

 ミオンに懐いていて、たくさん遊んで、たくさん笑った……妹のような、女の子だ。


 温もりは、感じない。けどひんやりとした冷たさは感じる。

 物理的な感覚は一切感じないが……そこにいる。そこにいるのを、感じる。


 次の瞬間、ミオンは女の子を力いっぱい抱き締めた。


 そこに感触はない。でも力いっぱい抱き締めることはできるという、不思議な感触。

 いろんな感情が溢れ出てくる。いろんな想いを伝えたくなる。

 けど、真っ先に口をついたのは──。



「み、んな……ご、ごべ……ごべんなざあああぃっ!! わ、わ、わだっ、わだじがおぞぐで、おぞがっだがらっ! わ、わだじのぜい、でっ、ああああああああああああ!! うわああああああああああああああああああんっ!!!!」



 慟哭と、謝罪だった。

 今まで我慢してきたものが、全て溢れてくる。

 これを一言で表すなら、後悔だろう。

 ミオンの胸につっかえていた後悔が、涙になって流れ出る。



『ミオン、謝らないで』

『俺たちなら大丈夫だから』

『ミオンのせいじゃないわよっ』

『精一杯頑張ってたの、知ってるからよ』

『ミオンねーちゃ、よしよし』



 みんながミオンを必死になって宥める。

 しかしミオンは泣き止まず、料理から湯気が消えるまで、泣き続けたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなん泣いちゃうやろ…
[良い点]  今は亡き村のみんなとの、最後の宴ですか。  やっぱりこういう弔いの後に生まれた言葉にしづらい感情を吐き出せる場面は、入れてもらえると非常に嬉しく思います。
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