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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第五章 海の国

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第112話 亜人の少女、見る

   ◆



「ぬあぁ……つ、疲れた……」



 客室に通され、ミオンはだらしなく床に大の字になった。

 数週間の海上歩行に加えて、半日の登山。その上幽霊の出る宿と聞いたら、肉体的にも精神的にも疲れるのは当たり前だった。


 いぐさの香りを堪能していると、ウィエルが窓を開けて外の空気を入れた。



「ミオンちゃん、そんなに幽霊さんが怖いのですか?」

「こ、怖いというか……はい、怖いです」



 言い訳しても無意味と思い、素直に認めた。

 そう、ミオンは幽霊が苦手なのだ。

 父アランの怪談が怖かったというのもあり、ミオンと同じ年代の子供たちは、大抵幽霊が苦手である。

 全てアランのせいだ。今度会ったら文句のひとつでも言いたいところ。とりあえず今は念力で恨み節を送ることにする。


 アランがいるであろう方向に向かって念力を送っていると、座布団に座ったクロアが苦笑いを浮かべた。



「ミオンちゃん、安心しろ。幽霊は基本、生者に介入してくることはない。それにさっきミオンちゃんも見た通り、生者の目に映ることはないんだ」

「そういえば……」

「幽霊が食べているのは、料理や飲み物に僅かに含まれている生気。だからあの大広間も、料理が手付かずだったんだ」



 クロアの説明に合点がいった。

 害がないなら安心……なのだろうか。まだ不安だが。

 ミオンの不安が伝わったのか、ウィエルがミオンの頭を撫でた。



「よしよし。幽霊さんは見えないから怖いですよね」

「はい……」

「そこにいるかいないかもわからないのに、音だけするのって怖いですよね」

「はい……」

「じゃあ見えたら怖くないですよね」

「はい……」



 …………。



「はい?」

「《混沌の霊視(カオス・ビジョン)》」



 ミオンが抵抗する間もなく、ウィエルがミオンに魔法をかける。

 ゼロコンマ数秒の間、ミオンの景色が僅かにぶれたが、すぐに元に戻った。



「なっ、何をしたんですか……!?」

「《混沌の霊視(カオス・ビジョン)》。この世ならざるものが見えるようになる魔法です。ほら、窓の外をご覧なさい」

「外……?」



 ウィエルに連れられ、窓の外を見る。

 ──下半身のないものが浮いていた。



「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」



 まるで首を絞められたような声が、ミオンの喉から漏れ出る。


 いる。そこに。足のない半透明のもの。物体。煙。もや。かすみ。──幽霊。


 いろんな考えが泡のように脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消える。

 ミオンは少しでも孤独感と恐怖心を紛らわせるべく、ウィエルの腕に抱きつく。

 が、まったく震えが止まらない。まるで自分の体じゃないみたいに、言うここを聞かなかった。



「なっ、ななななっ、なっ、なっ……!?」

「はい。あれが幽霊さんですよ」

「かっ、かっ、かっ……!!」

「下半身がないのは、単にあれは人魂が実体化しているだけなので。上半身は人の形。下半身は人魂だと思ってくれれば大丈夫です」



 知りたい情報を、ウィエルがちゃんと説明してくれた。

 理屈はわかったし、理解もできた。

 けど、それでも怖いものは怖い。これなら見えない方がよかった。



「見えない方よかった。と思っていませんか?」

「おおおおおおおおおもおもおもおもおもっ……!」

「でも、見えた方が幸せかもしれませんよ?」



 ウィエルの言葉の意味がまったく理解できなかった。

 幽霊なんて、見えない方がいいに決まってる。いったい何を言っているのか。



「二人とも。話すのもいいが、そろそろ風呂に入ろう」



 先に風呂に入る準備を済ませていたクロアが、二人へ話しかけた。

 確かに汗や潮風で、体がベトベトだ。

 幽霊の宿だろうと、今のミオンの不快指数に勝るものなし。

 ミオンはいそいそと準備をして、クロアとウィエルと共に大浴場へ向かった。






「ぬあぁ〜……とけりゅ……」

「久々の温泉、気持ちいいですね〜……」



 衣服を脱ぎ捨てた二人は、目の前に山と川、滝が見える広々とした露天風呂に使っていた。

 十人の大人が手足を伸ばしても、まだまだ余裕があるくらい広い。

 温度もちょうどいい。一生入っていられる。

 大絶景を前にした露天風呂に、二人の疲れた心はとろけていた。



「まあ……あれが見えなければ、ですが……」



 ミオンの視線の先には、ふよふよと浮いている子供の幽霊が五人(?)ほどいる。

 けど、みんな楽しげに話している。半透明具合と下半身にさえ目をつむれば、普通の子供のようだ。



「幽霊は怖いものじゃありませんよ。私たちと同じように、そこにいるだけです」

「本当に、害はないんですか? 憑かれるとか、呪われるとか……」

「ふふ。それは創作物の見すぎですね。幽霊はそんなことしませんよ。というか、できません」

「そ、そうなんですね……ちょっと安心しました」



 全面的に安心したわけじゃないが、害がないのがわかればそこまで怖がる必要はない。

 ……まあ、怖いものは怖いのだが。

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