表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第五章 海の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/113

第110話 勇者の父一行、秘湯で休む

「──ふぅ。着いたな」

「や……やっと……」




 数週間ぶりの陸地。それまでずっと海の上で、休まる時間がなかった。

 久々の陸に、ミオンは思わずうつ伏せで寝転がった。

 大地を感じる。草木の香りもする。鼻先に小さな虫が留まる。

 やはり自分がいる場所は海ではなく、陸だ。海にテンションが上がったのは最初だけ。もう数年は海を見たくない。


 母なる大地を全身で感じていると、ウィエルが目の前にしゃがんでミオンの頬をつついた。



「でもミオンちゃん。この先山を五つくらい超えますよ?」

「いちゅちゅ……」



 普段のミオンからしたら、なんでもない距離だ。

 だがしかし、疲れ切っているミオンからしたら、地獄のような距離だと言っても過言ではない。


 立って歩かなければ距離は縮まらない。

 それはわかっているのに、体から根が張ったように地面から動けなくなっていた。



「仕方ありませんね。今回復を……」

「いや、ウィエル。少し待て」

「あなた?」



 ウィエルが魔法による回復をしようとしたところで、クロアが止めに入った。

 今、体力の限界を感じているミオンからしたら、早く回復してほしいところなのだが。


 クロアは組んでいた腕をほどき、少し先に見える山の頂きを指さした。






「あの山の中に、秘湯がある」

「行きますッッッ!!」






 病は気からとでも言うのだろうか。

 秘湯と聞いたミオンの体は、限界を超えて力がみなぎったのだった。



「あぁ、そういえば温泉なんてありましたね」

「うむ。普段は人が誰も立ち寄らない宿だが、飯もサービスも一級品だ。俺が保証する」

「温泉……ご飯……お宿……!」



 この数週間、海の上で生活していたミオンにとって、全てが魅力的に聞こえる。

 が、直ぐに思い直して警戒の色をあらわにした。



「クロア様。まさか甘い言葉で釣って、実はまた修行漬けの日々じゃ……?」

「いや。本当に、ただ純粋に、今回は労うつもりだが」



 クロアの声色からは、嘘を感じられない。

 けど、嘘ではないが実は裏があるんじゃ……そんな邪推が止まらない。

 ここで喜びすぎたら、あとの落胆が大きすぎて心が折れてしまう。

 ミオンは心を落ち着かせようと呼吸を整えていると、ウィエルが苦笑いを浮かべた。



「ミオンちゃん、今回ばかりは本当に大丈夫ですよ」

「わかりましたっ」



 ウィエルの言葉に、ようやく納得したミオン。

 クロアは胸中、少し悲しかった。



「あなた、今後はもう少しだけ、ミオンちゃんに優しくしましょうね」

「そうする」



   ◆



 気力の回復したミオンを連れ、山の中を歩くこと半日。

 徐々に近付いてくる硫黄の臭いに、ミオンは浮き足立っていた。

 そして、ある巨木を横目に抜けた先──急に、それが現れた。



「……でっか……」



 ミオンが口を開けて呆ける。

 それもそうだ。まるで高級旅館のような佇まいで、古びた様子は一切感じられない。

 こんな山奥にこんなものがあるなんて、考えられないくらいには管理が行き届いている。



「クロア様から秘湯とか、普段は誰も立ち寄らないとか聞いていたので、もっと古いお宿なのかと思ってました……」

「まあ、繁盛しているからな。この宿は」

「……誰も立ち寄らないのに、繁盛してるんですか?」

「宿の方から、気配を感じるだろう」



 クロアの言葉に、気配探知に集中する。



「……確かに感じますけど……なんか違和感を感じる気配ですね。ぼやけているというか、不安定な気配というか」

「さすがミオンちゃん。気配探知は一級品ですね」



 ウィエルからの手放しの賞賛に、少しだけむず痒い表情になった。

 クロアを先頭に、宿へと近づく。

 すると、扉が開いて奥から一人の若い女性が出てきた。

 柔和な笑みを浮かべている女性の頭には、大きな耳がついている。どうやら、狼人族のようだ。



「いらっしゃいませ、クロア様。奥方様」

「お久しぶりです。覚えていてくださったんですね」

「それはもう。ここに辿り着ける、数少ない人間のお客様ですから」



 コロコロと鈴を鳴らしたように笑う、狼人族の女性。

 が、それよりも聞き捨てならない言葉に、ミオンは目を瞬かせた。



「……人間のお客様……? 辿り着ける……?」

「おや。そちらのお客様は、ここをご存知ではないので?」

「は、はい。私はお二人に連れてこられたので……」

「左様でしたか。でしたら、少しだけご紹介致します」



 狼人族の女性は、にこやかな笑みを崩さずに頭を下げた。



「ここは、現世で亡くなられた人間の魂が、あの世へ行く前の最後の癒しの場。宿・幽世(かくりよ)でございます」

「……えーっと……?」



 訳がわからずクロアを見上げる。

 クロアはなんでもない顔で、腕を組んで口を開いた。






「端的に言えば、幽霊の宿だ」

続きが気になる方、【評価】と【ブクマ】と【いいね】をどうかお願いします!


下部の星マークで評価出来ますので!


☆☆☆☆☆→★★★★★


こうして頂くと泣いて喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  亡くなった人達の魂が現世の境で入るであろう、最期の癒し……ミオンちゃんの家族や村のみんなと再会出来るといいですね。
[気になる点] 狼人族? あれ?ミオンって兎じゃなかった? 兎と狼…ミオン!逃げて〜!
[一言] 千と千尋の神隠しの油屋みたいなものか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ