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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第五章 海の国

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第109話 勇者の父一行、再出発する

   ◆



「かんぱーーーーい!!」

「「「「いえーーーーーーい!!!!」」」」



 事件から1週間が経った。

 ギャングたちに破壊された街や地形は、すべて元通りに修復された。

 逃げ出した残党たちも、ウィエルの先導のもと全員捕え、今は牢獄に繋がっている。


 国民たちは、心配の種であったギャングたちがもういないことに、歓喜していた。

 心の隅にあった、平和を脅かす恐怖。

 それがなくなったとネプチューンから報され、この1週間はお祭りのように騒いでいた。


 そんなお祭り騒ぎを、城の上から見下ろすクロア、ウィエル、ミオン。

 傍にはネプチューンがおり、警護としてドーナがいる。

 ネプチューンは少し寂しそうに、クロアの頭をつついていた。



「クロア、もう行ってしまうのか? 寂しいぞ。あと10年くらいいいであろう?」

「はは。人間と魚人族の生きる時間を一緒にしないでください」

「……人間のつもりなのか?」

「この上なく人間でしょう、俺なんて」



 どの口が……。

 全員心で思いつつ、言葉にしないのは優しさであった。

 余りの気まずさに耐えきれなかったドーナが、死滅しかけた空気を切り裂くように口を開いた。



「で、ですが、俺も寂しいです。まだ師匠から、たくさん学びたいことがあったのに……」

「嬉しいが、俺が教えられることなんてほとんどない。『強くなる』という一点に置いて、凝縮した全てを詰め込んだからな。……あとをどうするかは、お前に掛かっている」



 ドーナの胸を軽く小突く。

 自分のものとは比較にならないほど、巨大で力強い拳。

 産まれたばかりの赤ん坊に触れるように、少し緊張感を持ちながら、ドーナの知る中でこの世で最も硬質な物質()に触れる。

 圧倒的な硬さ。強さ。そして暖かさ。

 この拳に追いつくためには、いったい何十年掛かるのだろうか。


 もしかしたら、一生を費やしても追い付けないかもしれない。


 けれど、一度焦がれてしまったら……男として、立ち止まるわけにはいかない。



「……俺、もっと強くなります。師匠に追い付けるように」

「それは心強い。頼むぞ、未来を担う若人よ」



 クロアはドーナの頭を撫でると、ウィエルの肩に手を置いた。



「ウィエル、ミオンちゃん。行こうか」

「はい。ネプチューン様、お世話になりました」

「ありがとうございました! 楽しかったです!」



 2人がネプチューンに挨拶すると、ネプチューンも快活な笑顔で2人の頭を撫でる。



「うむ、また来るのだぞ。余は無限の時を生きる。いつでも、元の若さのまま大歓迎だ。もちろんクロアの子を孕む準備はいつでもできて──」

「それでは失礼しますねさようならー」



 ネプチューンが言い終える前に、ウィエルが転移魔法を使い一瞬で目の前から姿を消す。

 後に残されたのは、若干の寂しさを感じるネプチューンとドーナだけだった。



「やはりウィエルはお堅いのぅ。生物である以上、強き者の血を求めるのは自然の摂理だというのに」

「だとしたら、師匠とウィエル様の間に産まれた子は、どれほど強いのでしょうね」

「……確か息子がいるとか言っていたな」

「師匠に殺されますよ?」

「じょ、冗談だ。冗談」



 引き笑いをするネプチューンだが、ドーナに白い目を向けられて顔を逸らした。

 冗談半分。だけど半分は本気みたいだ。

 ドーナは小さく息を吐くと、海上へ向けて目を向ける。


 そこにいるであろう人生の恩師に向かい、深く頭を下げたのだった。



   ◆



「上手く転移魔法で脱出できましたね。やれやれ……」

「久々の外の空気はうまいな」



 天高く昇る太陽の陽射しと、遠くに見える空を飛ぶ魔物。

 今の一瞬で、クロアたちは海底1000メートルから海上へ転移したのだ。

 たった数秒。それだけで、苦労したあの距離を移動した。

 それだけに、ミオンの胸中は複雑だった。



「……なんだか、納得いきません」

「何がですか?」

「転移魔法があるなら、私が泳ぐ意味ありましたか?」

「これも修行です。おかげで魔力コントロールは身についたでしょう?」

「そうですけど……」



 理屈はわかる。けど納得できないのも、理解していただきたい。



「2人とも。仲良くするのはいいが、そろそろ向かうぞ」

「はい。ほら、ミオンちゃん」

「はーい」



 3人は再び、目的の大陸に向かって歩き出す。

 目指すは東の大陸にある、レオド国。

 鍛治と精錬が盛んな、小さな国である──。

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