第109話 勇者の父一行、再出発する
◆
「かんぱーーーーい!!」
「「「「いえーーーーーーい!!!!」」」」
事件から1週間が経った。
ギャングたちに破壊された街や地形は、すべて元通りに修復された。
逃げ出した残党たちも、ウィエルの先導のもと全員捕え、今は牢獄に繋がっている。
国民たちは、心配の種であったギャングたちがもういないことに、歓喜していた。
心の隅にあった、平和を脅かす恐怖。
それがなくなったとネプチューンから報され、この1週間はお祭りのように騒いでいた。
そんなお祭り騒ぎを、城の上から見下ろすクロア、ウィエル、ミオン。
傍にはネプチューンがおり、警護としてドーナがいる。
ネプチューンは少し寂しそうに、クロアの頭をつついていた。
「クロア、もう行ってしまうのか? 寂しいぞ。あと10年くらいいいであろう?」
「はは。人間と魚人族の生きる時間を一緒にしないでください」
「……人間のつもりなのか?」
「この上なく人間でしょう、俺なんて」
どの口が……。
全員心で思いつつ、言葉にしないのは優しさであった。
余りの気まずさに耐えきれなかったドーナが、死滅しかけた空気を切り裂くように口を開いた。
「で、ですが、俺も寂しいです。まだ師匠から、たくさん学びたいことがあったのに……」
「嬉しいが、俺が教えられることなんてほとんどない。『強くなる』という一点に置いて、凝縮した全てを詰め込んだからな。……あとをどうするかは、お前に掛かっている」
ドーナの胸を軽く小突く。
自分のものとは比較にならないほど、巨大で力強い拳。
産まれたばかりの赤ん坊に触れるように、少し緊張感を持ちながら、ドーナの知る中でこの世で最も硬質な物質に触れる。
圧倒的な硬さ。強さ。そして暖かさ。
この拳に追いつくためには、いったい何十年掛かるのだろうか。
もしかしたら、一生を費やしても追い付けないかもしれない。
けれど、一度焦がれてしまったら……男として、立ち止まるわけにはいかない。
「……俺、もっと強くなります。師匠に追い付けるように」
「それは心強い。頼むぞ、未来を担う若人よ」
クロアはドーナの頭を撫でると、ウィエルの肩に手を置いた。
「ウィエル、ミオンちゃん。行こうか」
「はい。ネプチューン様、お世話になりました」
「ありがとうございました! 楽しかったです!」
2人がネプチューンに挨拶すると、ネプチューンも快活な笑顔で2人の頭を撫でる。
「うむ、また来るのだぞ。余は無限の時を生きる。いつでも、元の若さのまま大歓迎だ。もちろんクロアの子を孕む準備はいつでもできて──」
「それでは失礼しますねさようならー」
ネプチューンが言い終える前に、ウィエルが転移魔法を使い一瞬で目の前から姿を消す。
後に残されたのは、若干の寂しさを感じるネプチューンとドーナだけだった。
「やはりウィエルはお堅いのぅ。生物である以上、強き者の血を求めるのは自然の摂理だというのに」
「だとしたら、師匠とウィエル様の間に産まれた子は、どれほど強いのでしょうね」
「……確か息子がいるとか言っていたな」
「師匠に殺されますよ?」
「じょ、冗談だ。冗談」
引き笑いをするネプチューンだが、ドーナに白い目を向けられて顔を逸らした。
冗談半分。だけど半分は本気みたいだ。
ドーナは小さく息を吐くと、海上へ向けて目を向ける。
そこにいるであろう人生の恩師に向かい、深く頭を下げたのだった。
◆
「上手く転移魔法で脱出できましたね。やれやれ……」
「久々の外の空気はうまいな」
天高く昇る太陽の陽射しと、遠くに見える空を飛ぶ魔物。
今の一瞬で、クロアたちは海底1000メートルから海上へ転移したのだ。
たった数秒。それだけで、苦労したあの距離を移動した。
それだけに、ミオンの胸中は複雑だった。
「……なんだか、納得いきません」
「何がですか?」
「転移魔法があるなら、私が泳ぐ意味ありましたか?」
「これも修行です。おかげで魔力コントロールは身についたでしょう?」
「そうですけど……」
理屈はわかる。けど納得できないのも、理解していただきたい。
「2人とも。仲良くするのはいいが、そろそろ向かうぞ」
「はい。ほら、ミオンちゃん」
「はーい」
3人は再び、目的の大陸に向かって歩き出す。
目指すは東の大陸にある、レオド国。
鍛治と精錬が盛んな、小さな国である──。
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