第107話 勇者の父、叩きつける
◆クロア◆
「────!」
「ジュニア! テメェ人間程度に力負けしてんじゃねーぞ!」
クラーケン・ジュニアは、クロアの怪力から逃げ出そうと必死にもがく。
もがけばもがくほど神域の水流は激しさを増し、謁見の間の柱や玉座すら粉々に砕く。
こんな激流、海の神であるネプチューンには、そよ風のようなもの。
しかし人間にとっては、岩すら砕く激流は死を意味する。
──普通なら。
「往生際の悪いゲソが……ふんッ」
筋肉を隆起させ、引く力を強める。
それだけでクラーケン・ジュニアの巨体はクロアに引き寄せられた。
刹那。思考や感情を持たないクラーケン・ジュニアの体に、戦慄が走る。
たった少しの力比べで察した。
この超雄には、勝てないと──。
「────!!」
「むっ……?」
突如クロアの視界が漆黒に染まった。
夜より深く、闇より濃い【黒】。
突然のことに、思わずクロアの体が硬直した。
それだけじゃない。この【黒】は、クロアの体に絡みついてくる。
それに、僅かだが体に麻痺が走った。
「クロア! それ……奴の墨……猛毒……! 呼吸だけじゃな……皮膚……神経を狂わ……!」
【黒】の中から、ネプチューンの詰まった声が聞こえてくる。
直後、ネプチューンの水流操作によって、イカ墨が取り払われる。
視界が【黒】からクリアになるが、まだクロアの体には少しの麻痺が残っていた。
(力が入らないことはないが、体が鈍いな)
少しだけ、クラーケン・ジュニアに引き戻される。
クロアに毒系のものは効かない。が、そんなクロアでさえ麻痺を感じるということは、普通の人間や亜人が吸収したら即死するだろう。
「ジュニア、今だ! 奴の体を引き裂け!」
「────!」
直後、ジュニアが触手を伸ばしてクロアの手足や首を締め上げる。
「クロア!」
ネプチューンがトライデントを構え……止まった。
クロアの眼力が言っている。「邪魔をすれば殺す」と。
あまりの眼力に、ネプチューンの肌が粟だった。
クラーケン・ジュニアが四肢をもごうと力を入れているが、クロアは平然とした顔で全身のチェックをしていた。
(体は麻痺し、力加減も動きも鈍い。いつもより0・5秒遅れてる感じだ。──なら、問題ない)
クロアは全身の神経へと意識を集中し……カチッ──。
全ての神経のギアが、一段階上がった。
「むんッ!!」
「────!?」
クロアが自分自身を中心に回転。
力負けしたクラーケン・ジュニアは、クロアの周りを円を描くようにして振り回される。
陸ではやっている、ハンマー投げと呼ばれる競技が一番近いだろうか。
生物とは思えない爆発的な力によって、加速していく。
円は水流となり、水流は渦潮となり、渦潮は大激流となる。
海の神ネプチューンですら、思わず距離を取るほどの大激流だ。
ジュニアは脚を離して、逃げようともがき苦しむ。
だがクロアの掴んでいる両触腕のせいで逃げられない。
更に加速。加速。加速。
神域の結界が歪み、今にも弾け飛びそうなほどのエネルギーが凝縮されている。
そして……勢いのまま、クラーケン・ジュニアを地面に向けて叩きつけた。
ゴオオオオオオオオオォォォォォォォッッッ──!!!!
大量の爆発物が同時に爆発したような轟音が響き渡り、同時に神域がエネルギーに耐え切れず弾け飛んだ。
地面にめり込んでいるジュニアだが、力を逃がしきれなかったのか頭部や胴体が粉々に砕け散っていた。
「ふむ。毒のせいで力の制御ができなかったか。……やりすぎた」
本当は切り刻んで刺身やイカそうめんにする予定だったのだが、粉々になってしまっている。ゲソ焼き程度ならできそうだ。
まだ体にへばりついている脚を引き剥がしていると、ネプチューンがクロアのもとに走り寄って来た。
「クロア! お、お主大丈夫か!? クラーケンの毒は、余でもかなりきつい代物なのだが……!?」
「心配ありません。ちょっと体の反応が鈍い程度なので」
「……そうは見えんが?」
「体の反応が0・5秒遅れているので、0・5秒早く動くよう調整しているだけですよ」
「……?? さすがクロアだな!」
ネプチューンは考えることをやめた。
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