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【Web版】どうも、勇者の父です。~この度は愚息がご迷惑を掛けて、申し訳ありません。〜  作者: 赤金武蔵
第五章 海の国

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第107話 勇者の父、叩きつける

   ◆クロア◆



「────!」

「ジュニア! テメェ人間程度に力負けしてんじゃねーぞ!」



 クラーケン・ジュニアは、クロアの怪力から逃げ出そうと必死にもがく。

 もがけばもがくほど神域の水流は激しさを増し、謁見の間の柱や玉座すら粉々に砕く。


 こんな激流、海の神であるネプチューンには、そよ風のようなもの。

 しかし人間にとっては、岩すら砕く激流は死を意味する。


 ──普通なら。



「往生際の悪いゲソが……ふんッ」



 筋肉を隆起させ、引く力を強める。

 それだけでクラーケン・ジュニアの巨体はクロアに引き寄せられた。

 刹那。思考や感情を持たないクラーケン・ジュニアの体に、戦慄が走る。

 たった少しの力比べで察した。


 この超雄(おとこ)には、勝てないと──。



「────!!」

「むっ……?」



 突如クロアの視界が漆黒に染まった。

 夜より深く、闇より濃い【黒】。

 突然のことに、思わずクロアの体が硬直した。

 それだけじゃない。この【黒】は、クロアの体に絡みついてくる。

 それに、僅かだが体に麻痺が走った。



「クロア! それ……奴の墨……猛毒……! 呼吸だけじゃな……皮膚……神経を狂わ……!」



【黒】の中から、ネプチューンの詰まった声が聞こえてくる。

 直後、ネプチューンの水流操作によって、イカ墨が取り払われる。

 視界が【黒】からクリアになるが、まだクロアの体には少しの麻痺が残っていた。



(力が入らないことはないが、体が鈍いな)



 少しだけ、クラーケン・ジュニアに引き戻される。

 クロアに毒系のものは効かない。が、そんなクロアでさえ麻痺を感じるということは、普通の人間や亜人が吸収したら即死するだろう。



「ジュニア、今だ! 奴の体を引き裂け!」

「────!」



 直後、ジュニアが触手を伸ばしてクロアの手足や首を締め上げる。



「クロア!」



 ネプチューンがトライデントを構え……止まった。

 クロアの眼力が言っている。「邪魔をすれば殺す」と。

 あまりの眼力に、ネプチューンの肌が粟だった。


 クラーケン・ジュニアが四肢をもごうと力を入れているが、クロアは平然とした顔で全身のチェックをしていた。



(体は麻痺し、力加減も動きも鈍い。いつもより0・5秒遅れてる感じだ。──なら、問題ない)



 クロアは全身の神経へと意識を集中し……カチッ──。

 全ての神経のギアが、一段階上がった。



「むんッ!!」

「────!?」



 クロアが自分自身を中心に回転。

 力負けしたクラーケン・ジュニアは、クロアの周りを円を描くようにして振り回される。

 陸ではやっている、ハンマー投げと呼ばれる競技が一番近いだろうか。

 生物とは思えない爆発的な力によって、加速していく。

 円は水流となり、水流は渦潮となり、渦潮は大激流となる。

 海の神ネプチューンですら、思わず距離を取るほどの大激流だ。


 ジュニアは脚を離して、逃げようともがき苦しむ。

 だがクロアの掴んでいる両触腕のせいで逃げられない。

 更に加速。加速。加速。

 神域の結界が歪み、今にも弾け飛びそうなほどのエネルギーが凝縮されている。


 そして……勢いのまま、クラーケン・ジュニアを地面に向けて叩きつけた。


 ゴオオオオオオオオオォォォォォォォッッッ──!!!!


 大量の爆発物が同時に爆発したような轟音が響き渡り、同時に神域がエネルギーに耐え切れず弾け飛んだ。

 地面にめり込んでいるジュニアだが、力を逃がしきれなかったのか頭部や胴体が粉々に砕け散っていた。



「ふむ。毒のせいで力の制御ができなかったか。……やりすぎた」



 本当は切り刻んで刺身やイカそうめんにする予定だったのだが、粉々になってしまっている。ゲソ焼き程度ならできそうだ。

 まだ体にへばりついている脚を引き剥がしていると、ネプチューンがクロアのもとに走り寄って来た。



「クロア! お、お主大丈夫か!? クラーケンの毒は、余でもかなりきつい代物なのだが……!?」

「心配ありません。ちょっと体の反応が鈍い程度なので」

「……そうは見えんが?」

「体の反応が0・5秒遅れているので、0・5秒早く動くよう調整しているだけですよ」

「……?? さすがクロアだな!」



 ネプチューンは考えることをやめた。

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[一言]  ……ほんとうに、出鱈目やん。
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