第106話 亜人の少女、人の外へ
【表紙公開】
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ぜひご覧ください!
◆ウィエル◆
「──ふふ。ミオンちゃん、ちゃんとお姉ちゃんしてますね」
屋根の上に立ち、妖しく光っているウィエルの目が、2人の姿を映している。
魔力を持つ者に対してのみ有効な魔法、《不可視の視覚》。
他者と魔力を同調することで、視覚をジャックする魔法だ。
ネプチューンなどの、ある一定の実力者に使うと気付かれてしまうが、ミオンはまだ気付けるほどの実力はないらしい。
視覚を利用して遠隔で監視をしていただが、杞憂みたいだ。
(あの相手、相当の実力者ですが……まあ、2人なら大丈夫でしょう)
《不可視の視覚》をやめ、周りを見渡しす。
市街地での戦闘はほぼ鎮静化している。
至る所で捕まっているギャングたちと、勝利の雄叫びを上げている王国軍。市民たちはウィエルの魔法でぐっすりだ。
目が覚めたら、悪い夢として認識するだろう。
穴もほぼ塞いでいるし、援軍が攻めてくる気配もない。
そっと息を吐いて、今度は城へと目を向けた。
(この気配、まさかクラーケン……? でもあれは、旦那様が仕留めたはず……ということは、あれと同類ですか)
気配の大きさからして、子供だろうか。
正直、同類だろうと子供だろうと、関係ない。
そこに、クロアの気配がする。
そこに、クロアがいる。
なら心配する必要はない。全て、クロアに任せればいい。
「私は、壊れた街の修復に専念しますか」
ウィエルは風の魔法を身にまとい、音もなく屋根の上から飛び降りた。
◆ミオン・ドーナ◆
「ハッ──!」
「フッ……!」
ドーナの剣撃がナイフ使いを襲う。
しかしナイフ使いも、それに負けじと応酬。
激しい剣撃の衝突に、火花と衝撃波が発生した。
息を合わせたミオンが、地面すれすれを滑るようにして肉薄して蹴りを放つ。
並の相手では一瞬で粉砕されるほどの威力だが、ナイフ使いは身を捻って空中へ回避。
腰に付けていた投げナイフを2人へ向かい投擲した。
ミオンは、魔法で強化した動体視力と身体能力で、易々と避ける。
ドーナも負けじと、向かってくるナイフを剣で弾いた。
明らかに、ナイフ使いは多対一の戦闘に慣れている。
死線も超えてきているのか、風格も、覇気も、圧も桁違いだ。
「オルァ!!」
「ッ!」
いくつかのナイフを避けたところで、ギャングの1人がハンマーを振るう。
さすがに身体強化をしていても、これは受けられない。
ミオンは上空に向かってジャンプすると、天井を利用し直下へ跳躍。
一瞬でギャングの首を蹴り抜き、命を狩り取った。
しかし油断はできない。
ナイフ使いが、絶命した仲間の武器を手にミオンへ攻撃を仕掛ける。
すんでのところで回避するも、頬が僅かに切り裂かれて血が流れた。
「女性の顔を傷付けるなんて、教育がなっていませんね」
「これから死に逝く貴様らに、美の意識など不要だろう」
「あなた、モテないでしょう」
「妻帯者だ」
「そいつは失礼を……!」
超高速で接近し、腹部へ蹴りを放つ。
武器をクロスして防御するが、ミオンの蹴りの威力に負けて剣の方が砕け散った。
「むっ……!?」
「ドーナさん!」
「はい!」
ナイフ使いが一瞬の動揺を見せた瞬間、ドーナがすぐさま肉薄。
上段から剣を振り下ろす。
が、寸前でナイフでそれを受け止め、切り結んだ。
その隙をついたミオンが、すぐさまナイフ使いの背後に回り瞬時に縦に3回転。
身体強化。遠心力。そして勢いをそのままに……。
「クロア様直伝──山崩脚!!」
「ッ!?」
かかと落としを、ナイフ使いの肩へと食らわせた。
全てがひしゃげるような音と共に右肩が砕け散り、鮮血が舞う。
威力は死なず、かかとが地面へと突き刺さる。
ゴッッッッズゴシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
地面がめくり上がり、洞窟の全てにヒビが入る。
あまりの衝撃と地震に、ナイフ使いはよろめき大きな隙が生まれた。
もちろん、その隙を逃すドーナではない──。
「おおおおおおおおおおッ!!」
気合い一閃。
渾身の力を込めたドーナの剣は、ナイフ使いの肩口から横っ腹にかけて袈裟懸けに切り抜いた。
「ゴフッ……」
おびただしい量の血を流し、ナイフ使いは一言も言葉を発さず倒れ伏す。
瞳孔が開いており、呼吸もない。
完全に、絶命したようだ。
「ま……まさか……!?」
「そんなっ、あいつが負けるなんて……!」
目の前のことが信じられないのか、ギャングたちは慌てふためく。
最高戦力が死んだ組織は脆いものだ。
あとは残党を潰すのみ。
ミオンがそう考えていると、地響きがより激しくなり、洞窟内に亀裂が走る。
どうやらミオンの技によって、洞窟の耐久値が下がったらしい。
このままでは生き埋めになってしまう。
「ッ。ドーナさん、離脱しますよ!」
「は、はいっ!」
ドーナは急いで家宝のナイフを回収すると、ミオンと共に洞窟の外へと駆け出す。
数分後。
クロアの地獄の鬼ごっこがここで役に立ち、超スピードで地上へ出たと同時に、洞窟が崩落して辺りの土壌が僅かに陥没した。
「はぁっ、はぁっ……し、死ぬかと思いました……」
「姉弟子、さすがにやりすぎですよ」
「し、仕方ないでしょう。私だってこうなるとは思わなかったんですから……!」
洞窟によって地盤が緩んでいたとはいえ、たった一撃でこうなるだなんて誰も思わないだろう。
着実に、人外への道を歩んでいるミオンであった。
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