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あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
番外編 

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後日譚8 二人の結婚2

 中天に差し掛かった日差しが、教会のステンドグラスを通して鮮やかな色を絨毯の上に落としていた。その上を私はエルと共に祭壇へ向かって歩いていく。


 私達が歩く通路の脇には、多くの人達が固唾を飲んで見守っている。皆、私とレスターの結婚式の為に集まってくれた人達だ。


 教会の神聖な静けさの中で、私は一人鼓動が高まるのを感じていた。一歩一歩進むごとに、喜びと愛しさが込み上げてくる。


 レスターとは一度は離れ離れになり、辛く悲しい経験もした。もう失ってしまったと思っていた二人の愛。


 けれど運命に導かれるように再会して、今再び未来を一緒に歩んでいくことができる。その奇跡のようなめぐりあわせに、私は泣きたくなるほどの喜びと愛しさを感じた。


 視線の先には、祭壇の前で待つ人の姿。薄い灰色の衣装に身を包んだ凛々しいその人は、檀上で晴れ晴れとした笑顔で私を見つめていた。


 その姿を見ただけで胸が締め付けられ、瞼の裏が自然と熱くなる。逸る気持ちを抑えて一歩一歩その道のりを歩むと、冬空色の美しい瞳と視線が合った。



「デイジー……凄く綺麗だ……」



 祭壇の前にたどり着いた私に、レスターが優しく微笑んで手を差し伸べる。


 エルの手から離れてその手を取ると、優しく引き寄せられて口づけを落とされた。



「ようやくこの日が来たね……デイジー……」


「えぇ……本当に……」



 微笑みあって二人、今日という日の喜びを分かち合う。そして一緒に祭壇へと向き直った。


 厳かな雰囲気の中、並び立つ私達に向けて司祭が言葉を紡いでいく。



「今日この善き日に永遠を誓い合う二人──前へ」



 司祭の言葉に私とレスターは一歩前へと進み出て、その場に跪いた。



「神の御前にてその名を告げよ」



 頭上から降り注ぐ司祭の声に、私とレスターはそれぞれ名を告げる。



「レスター・エスクロス」


「デイジー・フリークス」



 厳かな教会の天井に玲瓏と私たちの声が響き渡る。それを受けて司祭が続けた。



「レスター・エスクロス、汝はデイジーを妻とし、永遠に愛することを神に誓うか?」


「──はい、誓います」



 レスターが真剣な眼差しで誓いの言葉を告げる。司祭はそれに頷きを返すと、今度は私へ向けて同じことを聞いた。



「デイジー・フリークス──汝はレスターを夫とし、永遠に愛することを神に誓うか?」


「はい──誓います」



 私は頭を垂れたまま、震えそうになる声で何とか誓いの言葉を紡いだ。


 すると今度は司祭は会場内にいる人々へ視線を向けて問いかける。



「次にここに集まった者達へ問う。この二人の婚姻に意を唱える者──今この場にて申し立てよ」



 厳かな雰囲気の中、司祭の言葉に応える者はいない。司祭は列席者をぐるりと見まわした後、静かにその口を開いた。



「…………沈黙は祝福である。レスター・エスクロス、そしてデイジー・フリークス──両名の婚姻は、ここにいる証人全員に認められた」



 司祭はそう宣言した後、再び跪く私達へと視線を向ける。そして神の御印を宙に指で刻んだ後、私達二人の頭上に向けて手を降ろした。



「神の代理人としてここに宣言する──今ここに一組の夫婦が新たに誕生した。二人の愛は永遠に紡がれ、神の御許へと導かれるまで続くだろう」



 司祭のその言葉に、会場内が一瞬にして歓喜の声で沸いた。割れんばかりの盛大な拍手と喜びの声が、私とレスターの二人に向けられる。


 その大きな歓声に驚いていると、跪いたままの私達に司祭が声を掛ける。



「……さぁ、この喜ばしい日を祝福してくれる者達へ、二人の愛を示してあげなさい」



 司祭に促され、レスターが私の手を握り共に立ち上がった。そして手を繋いだまま向かい合った。



「デイジー……」


「……レスター……」



 すぐ間近で冬空色の瞳が私を見つめている。その眼差しには深い愛と未来への希望が宿っていた。


 レスターの手が伸びてきて、私の顔に掛かるヴェールに触れる。ゆっくりとそれを持ち上げると、彼は蕩けるような笑みを浮かべた。



「……綺麗だ……デイジー」


「レスター……」



 甘く囁かれる言葉に、歓喜と共に疼くような熱が込み上げてくる。恥ずかしさに俯きそうになる所を、彼の大きな手がそれを制した。



「……デイジー……」



 近づいてくる愛しい人の顔に、私は目を閉じてその時を待った。そして──



「愛してる──」



 告げられた愛の言葉と共に唇を塞がれる。頬に掛かっていた手はいつしか背中に回されていて、きつく抱きしめられた。


 触れる場所、繋いだ場所の全てから、彼の深い愛と熱が伝わってくる。私はその甘い時に酔いしれながら、彼と紡いでいく未来に思いを馳せた。愛する人と共に歩んでいく未来を──


 長い口づけの後、レスターがゆっくりとその腕を解いた。そして再びこつんと額同士を触れさせ、悪戯っぽい笑みを向ける。



「……これでもう誰も私達を引き離せないね?こんなに大勢の前で君が私のものだと宣言したのだから」


「ふふっ……そうね。きっと神様にも出来ないわね?」


「あぁ!そうさ!」



 レスターは嬉しそうにそう言うと、サッと私の体を横抱きにして持ち上げる。



「えっ!?レスター?」


「では早速、私の花嫁をもっと見せびらかしに行こう!」


「もうっ!」



 私の抗議の声も何のその。レスターは満面の笑みを浮かべながら、私を横抱きにして祭壇を後にし、客人達が見守る通路を歩いて行く。私達が横を通ると客人達は一斉に歓声やら口笛やらを上げ、大変な騒ぎになった。


 私は恥ずかしさに顔が真っ赤になっていただろう。必死に顔を俯けて隠れようとしても周囲からは丸見えなのだから。



「恥ずかしい……もう外を歩けないわ……」


「私の下からいなくならないなら、それもいいかもね?」


「うぅ……レスターって案外意地悪なのね?」


「そんなことないよ。私は愛に一途な侯爵で通っているんだ。今日からは溺愛侯爵なんて名前がつくかもな」


「溺愛される方はこんなにも恥ずかしいのに……!」


「はははは!」



 楽しそうな笑い声とたくさんの愛を受け取って、私達の結婚式は最高に幸せな一日になったのだった。


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