表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
8章 仕掛けられた罠

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/172

51 危急の知らせ

 レスターとの夕食を終えた私たちの下に現れたのは、エルについていた御者だった。彼の話によると、エルは警邏けいらに捕まっているのだという。



「どういうことなんですか?!」



 私は届いた知らせが信じられなくて、その御者に詰め寄った。



「いえ……私も詳しい事情は何も……馬車で待つように言われていたのですが、気が付けば警邏隊が駆けつけて……私も聴取されそうだったのですが、こちらにお知らせせねばと隙を見て抜け出してきたのです」


「そんな……!」


「デイジー、落ち着いて。……捕まったというのは、王都の警邏隊にという意味か?」



 動揺する私の代わりに、レスターが御者に問いかける。私は祈るような想いで彼らのやり取りを見守った。



「はい……フリークス様は現在、街道沿いの屯所にいらっしゃいます」


「……それって、まさか南西部の……フラネル子爵家の近くにある……?」



 私は嫌な予感がして、恐る恐る聞いてみた。



「えぇ、そうです」


「あぁっ……何てこと!!」


「デイジー!」



 気が遠くなって足元から崩れそうになるのを、レスターが支えてくれた。やはり恐れていたことが現実になってしまったのだ。


 体の震えが収まらない。もう少しで望むものを手に入れられると思ったのに、もしかしたらエルを失ってしまうかもしれないのだ。



「とにかくこのままではらちが明かない。王宮へもこの話を繋いでくれ。私が一筆書くから、必ず陛下の下に届けるように。私は屯所の方へすぐ向かう」


「私も行くわ!!」


「デイジー!君はここに残っているんだ。何があったのかわからないし、君の身にも危険が及ぶかもしれない!」


「いいえ……!私が行かなければ……!」



 レスターが止めるけれど、ひとり離宮で待っているわけにもいかない。エルの無事を確かめるまでは、私ができることをしなければならないのだから──



「……わかった。だが危なくなったら、君は無理をしないで、私の言うことを聞いてくれ。いいね?」


「えぇ……!」



 そうして私とレスターは、王都の端にある屯所へと向かった。



********



 王都の端にある警邏隊の屯所では、夜も更けているというのに、人だかりができていた。その奥に見える石造りの堅牢な建物には、険しい目つきをした兵士が警備にあたっている。


 私とレスターは馬車を少し離れた所へつけると、急いでその場へと向かった。私たち以外に、柊宮の護衛の騎士も一緒だ。その騎士が、人だかりの中にいる人物に気が付き、レスターに声を掛ける。



「侯爵、あちらにフリークス殿につけておりました護衛の者がおります!」


「何?それは本当か?!彼なら事情を知っているかもしれん。先に話を聞こう!」


「はっ」



 騎士は一礼すると、すぐに目的の人物の下へと駆けて行った。エルに付いていたという護衛は、屯所の前で警邏の兵士と言い合っているようである。


 こちらが向かわせた騎士に気が付くと、彼は人混みを抜けてこちらへやって来た。



「デイジー様、エスクロス卿……誠に申し訳ございません。私が付いていながら……」



 エルの護衛騎士は悔し気に眉を顰めると、頭を下げて謝罪した。



「一体何があったのですか?」



 私は、はやる気持ちを抑えきれず、彼に事情を聞く。すると苦々しい表情で、その騎士は事の次第を語り出した。



「王宮からフリークス殿はすぐに柊宮へと戻るはずだったのですが……馬車へ向かおうとした所で、フラネル子爵が声を掛けてきたのです」


「フラネル子爵が?」


「っ──!」



 騎士の言葉に、レスターの表情が険しくなる。


 私もあの男の名前が出て、怒りと悲しみでどうにかなりそうだ。ずっと恐れていたことが、現実になろうとしている。


 言葉を失う私の代わりに、レスターが先を問いただす。



「それでどうしたんだ?」


「はい──それが子爵が話があるというので、自分の屋敷へと一緒に来て欲しいというものでした。始めはフリークス殿も断っていたのですが、子爵が何かを耳打ちしたようで……」


「それで、彼は一緒について行ったというのだな?」



 騎士の言葉にレスターが、苦虫を噛み潰したような顔になる。



「えぇ、流石に何かあってはいけないと、私も反対したのですが……子爵がどうしてもと譲らず……しかも同じ馬車でと言って、私たち護衛は締め出されたのです」


「何だって?!」


「フリークス殿は、子爵の馬車で一緒にこちらの屋敷へと向かわれました。私は騎馬でついて行き、フリークス氏の乗っていた馬車も、共にその後を追ったのですが……」



 ここで騎士は言葉を切った。拳を強く握り絞め、悔し気に俯いている。



「子爵家の土地に入ったら急に馬車が止まって……中から怪我をした子爵が出て来たんです」


「!!」


「子爵はフリークス殿がやったと……そう言って騒いだので、すぐに屯所の警邏がやってきて、フリークス殿は連れていかれました」


「そんな……まさか……」


「デイジー!」



 気が遠くなってふらついた私を、レスターが支えてくれた。まさか突然こんな状況になるなんて、予想もしていなかった。



「とにかく、フリークス氏へ面会できるよう求めよう。デイジー、君は彼と一緒に馬車で待っていてくれ」


「でも……!」


「下手をしたら、君にまで累が及ぶかもしれない。その危険は冒せないんだ。……いいね?」


「っ──……」



 レスターの懸念はよくわかる。平民が貴族を傷つけるという罪を犯した場合、問答無用で罰せられる可能性が高いからだ。エルはこの国では何の地位も無い、ただの異国の商人だ。このままでは──



「レスター……エルをお願い……」


「あぁ……大丈夫。何とかする──」



 そう言って屯所へと向かうレスターの後ろ姿を、私は悲痛な想いで見守った──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i386115i386123 i424965i466781i473111
― 新着の感想 ―
[一言] フラネルウウウウ!!!! お前お前お前ーーー!!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ