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あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
7章 愛を取り戻す時

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47 月明りの恋人たち

 私たちは運命のように出会って、そして運命に翻弄された。


 けれど永遠に失ったと思われた私たちの愛は


 今この腕の中にある──



「レスター……」


「デイジー……またこうして共にいられるなんて……本当に信じられないよ」



 私が彼の名を呼べば、温かな声がそれに応えてくれる。


 広い胸に抱かれながら見上げれば、優しい冬空色の瞳が私を見守っている。


 胸の奥がくすぐったくて、甘い気持ちで心が満たされて──


 けれど一つの疑問が、私の恋心に棘のように刺さったままだ。



「あの……貴方は……奥様がいらっしゃるのではないの……?」



 聞きたくても聞けなかったその事実。それを突きつけられるのを私はずっと恐れていた。


 レスターが私への愛を告げてくれて、天にも昇る気持ちになるけれど……それを望まない人がいるのなら、私はこの愛を貫くことはできないのだから……。


 恐る恐るレスターの様子を窺えば、冬空色の瞳が、驚きに見開かれていた。私の言葉が意外とでも言うように、ポカンと口を開けている。



「あぁ……ハハハハ……なんだ、そんなことを気にしていたのか。……そうか、君は知らなかったんだね……そうか、そうだよな……」


「え?どういうことなの?」



 レスターが思わずと言ったように笑いだした。私は彼が何故笑っているのかわからなくて困惑した。


 私が思わず服を掴んだのに気が付いたのだろう。レスターは再び私を見下ろすと、眉を下げて謝った。



「すまない、デイジー……君にちゃんと説明しなければいけなかったね。私のことはあまりにも公然の事実だから、すっかり失念していたよ」


「公然の事実?」


「私が結婚していなくて、従妹の息子を養子にしたということだ」


「!!」



 思いもよらなかった事実に、私は驚きに目を瞠った。あまりの動揺に、「どうして?」とか「従妹って?」とか聞きたいことはたくさんあるのに、言葉が出てこない。


 そんな私を見て、レスターは小さく笑った。



「……従妹のミネルヴァは私の4つ下で、あの日──私達の婚約式にも来ていたよ」


「……そうなの?」


「あぁ、あの日は大勢の来客があって覚えてないかもしれないが……そう言えば肖像画が屋敷の廊下に飾ってあっただろう?両親の横に飾られていた女性だよ」


「あの方が……」



 エスクロス家を継ぐ者達が描かれた肖像画。その中に確かにジェームズによく似た女性のものがあった。けれどレスターの横に飾られていたから、私はてっきり彼女はレスターの妻だと思ってしまったのだ。



「私はずっと国外へ出ていたんだ──君を探すために」


「え──?」



 レスターは寂し気に遠くを見つめた。


 年月を重ねて、以前より低く掠れた声が夜風に攫われる。


 けれどその言葉は、私の耳にはっきりと届いた。



「……長い間、君を探していた。君が異国の商人の妻になったと知ってからずっと……」



 レスターの手に力がこもる。


 その手から伝わる熱が、酷く切なくて、苦しくて……


 私は思わず彼に縋った。


 彼に対する申し訳なさと、彼がずっと私を求めてくれていた嬉しさと──


 自分の中の感情が複雑に織り交ざっていく。



「けれど……父が病に倒れて、十年前に国に戻ったんだ。それまでは、過去に失ったものを取り戻そうとばかりして、家族を顧みることがなかったから……」


「そんな……私のせいで……ごめんなさい」


「いや……君のせいではないよ。愚かな私が君を信じずに手放してしまったことから始まったのだから──」


「レスター……」



 自分だけが、過去に囚われて辛い想いをしているのだと思っていた。彼が冷たく私を見据える姿だけを、ずっと悲しみとともに記憶の中に閉じ込めていた。


 けれどそんな薄情な私を、彼は忘れずに探してくれていたのだ。


 過ぎ去った時が戻らないとわかっていても、これまでの自分が情けなくて、恥ずかしくて、いたたまれなくなる。


 けれど今、目の前にはレスターがいる。あの頃よりも歳を重ねて、少し痩せた頬と刻んだ皺が、これまでの彼の苦労を思わせた。


 でも凛々しく自信に満ち溢れた姿は頼もしくて。


 笑うと目じりに少し皺がよって、いつもの生真面目な雰囲気が和らいで。



 今の彼が愛しい──



 若々しい私たちのかつての恋は、綺麗な想い出の箱の中に仕舞われていて、その鍵はいつでも開けることができる。


 けれど──悲しいことも、苦しいことも、勿論楽しいことも──私たちは色んなことを経験してきた。


 歩んできたそれぞれの人生。それを無かったことにはできない。


 歩んできた道があったから、私たちは再び出会うことができた。


 そしてまたここから歩んでいくことができる。



「ありがとう……レスター、私……貴方と出会えてよかったわ……」


「デイジー……私もだ……君に会えて良かった」



 煌々と輝く月明りの下──再びめぐり逢えた私たちの運命。


 互いの体を抱き寄せて、ようやくその恋心を囁くことができた──


お読みいただきありがとうございました。

失ったかつての恋というのは、どうしても美化したり、今の状況を嘆く為の言い訳にしてしまったりするんですよね。でもそれはやはり過去のことであって。自分も相手も、過去と全く同じではないから、完全に取り戻すのは不可能なんですね。

それよりも今の自分達を受け入れて、その時その時を大切に生きた方が、人は幸せになれるのではないかなと思います。

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