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あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
6章 秘密の代償

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41 二人の関係 (レスター)

レスター視点です。

 デイジーと共に食事をした夜、私はそのまま柊宮に滞在した。仕事をしながらフリークス氏を待っていると、彼は深夜遅くにようやく帰って来た。遅い時間ではあるが、私はすぐにフリークス氏に会いに行った。



「あまりに遅いので、デイジーが心配していましたよ。貴方の顔をずっと見ていないのだと、寂しがっていました」


「……申し訳ない」



 疲れた顔で、謝罪するフリークス氏。それはこれまでに見たことのない、どこか陰りのある表情だった。


 彼の態度の変化に、私は違和感を覚える。そこにデイジーの悩みに関する何かが隠されているのではと思った。



「……デイジーと何かあったのですか?彼女は貴方に避けられているのではと、不安に思っているようです」


「……それは……」



 私がでしゃばることではないかもしれない。しかしデイジーの不安が少しでも取り除けるのならと、私は彼に詰め寄った。



「フリークス殿、貴方がデイジーを大切に想っているのはわかっています。けれど今の状態は……彼女を傷つけるかもしれないとは思いませんか?どうか話してください」


「……あぁ……本当に……」



 フリークス氏は大きくため息を吐くと、どさりと近くのソファに身を沈めた。額に手を当てながらじっと俯き呟く。



「……私は本当に不甲斐ない男だな……」


「フリークス殿……」


「エスクロス卿……すまない……本当に君の言う通りだ」



 泣きそうな顔でこちらを見上げると、フリークス氏は弱々しく笑った。そして訥々と語り始める。



「……思い知らされたんだよ。私が正しいと思ってしてきたことが、間違いだったのだと……」


「それは……」


「私はあの子に傷ついて欲しくないと、そう思っているのに、あの子を正しい姿でいさせてあげることができなかった。もっと早く……過去と対峙させるべきだった……いやもっと早く私が……」



 小さく床に落ちて消えていく言葉たち。それは自身へと向けられた後悔だった。


 正しい姿──それが意味するものは、私が考えていた二人の関係についてだろうか。私は思い切ってフリークス氏に聞いてみた。



「……貴方がたは……デイジーと貴方は……夫婦ではなかったのですね?」



 私の言葉に、フリークス氏は一瞬固まるが、やがてゆっくりと頷いた。



「……そうだ」



 重々しいその返答に、私は背筋がゾクリとする。


 本人の口から聞くまでは、まるで実感がわかなかった。だが今はその事実の前に、思わず震え出しそうになる。


 私は逸る気持ちを抑えながら、フリークス氏に問うた。



「フラネル子爵は、デイジーが商人の妻になったのだと言っておりましたが……そうではなかったという事ですか?」


「いや……彼は真実そう思っていて、私にディーを売ったのだよ。むしろ私は()()()()()()()()彼女をあの屋敷から連れ出したんだ」


 拳を握り込み、床をじっと睨みつけるフリークス氏。怒りの籠った眼差しの先には、フラネル子爵の姿があるのだろうか。



「何故?貴方は一体……」


「あの子は……ディーは……虐待を受けていたんだ。あの男に」


「!!!」


「私が見つけた時は、それは酷かった……すぐにでも助け出さなければ、彼女は死んでしまっていたかもしれない……」


「そんな……」


「だから私は何がなんでも、金をいくら要求されようとも、ディーをあの家から連れ出したんだ。それこそ妻にするとなんとでも偽ってね」


 フリークス氏の言葉に、私は愕然とする。途端にあの婚約式の日の光景が、脳裏をよぎった。


 父親に酷く殴られて、血を流していたデイジー。怒りに狂った子爵は、彼女が倒れ伏そうとも、暴力を止めようとはしていなかった。



(何てことだ──っ……全部私のせいじゃないか……!)



 あの後、もし私がすぐに彼女に会いに行っていたなら、父親の暴力から救えたかもしれない。いや、そもそも彼女をあんな状況に追い込んだのは、全て私のせいなのだ。そのせいで彼女は……。


 悍ましい事実に吐き気がする。子爵へと自分への怒りでどうにかなりそうだった。



「……デイジーがそんな目に合っていたなんて……私のせいです。私が彼女を突き放してしまったから……っ」



 今更どうする事も出来ない悲惨な過去。だが私が犯した罪は、はっきりと彼女の中に爪痕を残していた。


 フラネル子爵の存在に怯え、取り乱す憐れなデイジー。彼女が今もその深い傷を抱えているのは明白だった。



「……彼女があれだけ怯えて、取り乱していたのはそれが原因だったんですね。私は何と言うことを……」


「いや……確かに貴方との件も一因であるかもしれない……けれど、それだけではないんです」


「え――?」


「……本当に罪深いのはこの私なんだ……」



 唐突に投げかけられた、弱々しく、しかし重苦しい懺悔の言葉。涙の滲む目は、縋るようにこちらを見つめていた。



「それはどういうことですか……?一体貴方は何者なんですか……?」


「……私が何者であるのか、彼女が何者であるのか……それを証明できるかどうかは……今はまだ……」



 悲嘆にくれたような表情のフリークス氏は、目の前に立つ私の手を握った。そして力を込めて懇願する。



「もしその時が来たら……彼女が本当の姿に戻れたら……その時はどうか……デイジーを頼みます──」



 そう言って握った手をまるで祈りを捧げるように額に近づける。その姿に、私は彼等の持つ重大な秘密の一端に触れたような気がした。


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― 新着の感想 ―
[一言] あけましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いいたします! そして遂に重大な秘密が明らかになりましたね!! しかもまだ何かあると!? くううう、続きが楽しみです!!
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