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あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
4章 再び動き出した運命

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27 エルロンドの出した条件

 私とエルが、リュクソン陛下のご厚意で柊宮に滞在して数日が過ぎた時のこと。エルが突然、あることを告げてきた。



「エスクロス侯爵との会合?」


「あぁ、そうだ。これはリックの勧めでね。彼の助けが必要となる。エスクロス侯爵は土地開発に関わる仕事をされているそうだから」



 エスクロス侯爵──つまりはレスターとの会合があるのだそうだ。相手がレスターであることに正直戸惑う。



「……そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫。会合にはリックも同席するから」



 エルは私が不安を抱いていることに気が付いているのだろう。彼は私とレスターとの関係を勿論全て知っている。私たちがかつて婚約していたことも。そしてそれが無残な結果に終わったことも──


 その上でこのような会合を設けようというのだ。余程の事情があるに違いない。



「できることなら君にも同席してほしいけど……大丈夫かい?」


「……えぇ、勿論大丈夫よ」


「そうか!良かった!それじゃあ日取りを決めないとね」



 エルが陽気な声でその後の予定を決めていく。けれど私の心は複雑な想いでいっぱいだった。



********



「この度はお呼び立てして申し訳ありません、エスクロス侯爵」


「いえ──こちらも仕事に関することですから。それにフリークス氏のご活躍ぶりは、陛下からも聞き及んでおりますので、この会合を楽しみにしておりましたよ」



 柊宮の客間の一室で、エルとレスターがにこやかに握手を交わす。今日は件の会合の日だ。


 日差しが柔らかに室内に差し込む中、彼等は真剣な眼差しで席に着いた。



「それでお話と言うのは?」


「あぁ、それは私から説明しよう」



 レスターの質問に応えたのは、同席していたリュクソン陛下だった。



「エルロンドは私の古い友人でね。以前からこの国に来て欲しいとお願いしていたんだが、ようやく来てくれることになったんだ」



 リュクソン陛下はエルに視線を向けつつ、端的に説明していく。



「エルロンドがこの国に滞在するには、ある条件があってね」


「条件……ですか?」


「あぁ、そうなんだ。それで土地開発に携わっている君に協力してもらおうと思ってね」



 リュクソン陛下はそこまで告げると、おもむろに懐から書類を取り出した。そしてそれをレスターへと差し出す。


 レスターはそれを受け取りざっと目を通すと、眉根を寄せて顔を上げた。



「これは……?」


「今水面下で進行している工場建設の予定地についてなんだがね。その資料にあるように、いくつかの候補地の中から選ぼうと思っている」


「工場建設……それはまた……」



 話を聞くとそれは新しい織物工場の建設地についてのことらしい。工場自体は公営で運用されるそうだが、土地については他の所有者から買い上げるという形になるそうだ。



「まぁ候補地の中から選ぶというのは表向きで、欲しい土地は最初から決まっているんだ」


「それはどういうことですか?」


「フラネル子爵の屋敷の土地だよ」


「!!」


「エルロンドが今回の工場建設の肝でね。彼の知識と技術が無ければこの工場は成り立たない」


「それで何故、フラネル子爵の土地が必要なんですか?確かにあの辺りは土地も広く王都の端ですが交通の便も良い。ですが貴族の邸宅が建っている土地です。そこに工場を建設するのはかなり難しいかと……」



 レスターは今回の話に難色を示した。貴族の邸宅の建っている場所に工場を建設するなど、かなりの難問だ。


 国王の権力を使って無理に土地を買収することもできない。リュクソン陛下は融和政策をモットーとしているからだ。



「それが条件なんだよ、レスター。エルロンドがこの国に定住し、その技術と知識を使ってくれる為のね」



 戸惑うレスターをよそに、リュクソン陛下は笑みを崩さない。権力に頼った横暴な手段を取らずとも、レスターならば目的を達成できるのだという確信があるのだろう。



「この技術革新は、確実にこの国に富みをもたらすはずだ。この件は最優先事項だと思ってくれ」


「……わかりました。何とかいたしましょう」



 レスターの返事にリュクソン陛下は柔らかな笑顔を見せると、大きく頷いた。



「よろしく頼むよ。後はエルロンドと話を詰めてもらえると助かる。何か問題があればまた連絡をしてくれ。私はこの後用事があるのでな……」



 リュクソン陛下はそれだけ告げると、部屋から出て行った。


 部屋にはレスターとエル、そして私だけが残った。


 私は今回の件に関しての詳細は聞いてはいなかったので、正直この場にいる必要はない。しかしエルと陛下に同席するように強く言われていた。


 何となく気まずい雰囲気を感じて、とりあえず二人に休憩を提案した。



「お茶が冷めてしまったので入れ直しますね」



 控えている使用人の女性にお願いすれば、すぐに新しいお湯と茶葉が用意された。私はそれを受け取り、二人にお茶を入れる。



「ありがとう、ディー」


「……ありがとうございます」


「いいえ、難しいお話の時は休憩するのも大切ですわ」



 ローテーブルの端に座り、一息つく。正直なところレスターと対面するのは、少し居心地が悪い。


 だがそれはレスターのせいではなくて、私の心の問題だ。彼との未来が無いのだとわかっていても、どこか期待をしてしまう自分がいる。そしてその度に目の前の現実に打ちのめされるのだ。


 私はため息をつきたくなるのを堪えながら、ティーカップに口をつけた。



お読みいただきありがとうございました。


なんかややこしい展開ですが、作者はどちらかというと陰謀とか巧妙な罠とかが好きなので、ややこしい展開に持っていくクセがございます。これで激しいバトルがあったら完全に私好みなんですけどねぇ(笑)でもこの作品には戦う人間がいないので残念。


こんな作者の陰謀渦巻くバトルヒロインが活躍するお話が気になる方は、よければ下記の『薔薇騎士物語』のバナーからどうぞ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ややこしい展開大好きですよ!! ワクテカしながら続き待ってます!!
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