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あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
エルロンド編 第8章 娘の幸せと思わぬきっかけ

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41 友人の手紙と助言

 フライヤの知らせを受け、アムカイラ王族の偽物と隣国ジャハーラへの対抗策を話し合った僕らは、連絡を密に取ることを約束して別れた。


 フライヤを見送った後、僕は久方ぶりに別の友人へと手紙を書くことにした──フィネスト王国の国王リュクソンだ。



「……今更になって事情を説明したら……流石のリックも怒るだろうな……」



 ペンを執りながら思わず呟く。リュクソンには、ディアナがフィネスト王国に連れ去られていたことや、娘のデイジーが生まれたことはまだ告げていない。ただ異国でディアナの所在を突き止めたことと、彼女が既に亡くなっていたことを簡潔に知らせただけだ。


 もし詳しい事情を知らせたとしたら、あの優しい友人は酷く心を痛めただろう。だから何も言えなかった。


 それにリュクソンが全てを知って深く関わってきたとしたら、デイジーの秘密が公になってしまうかもしれない。それを恐れたからこそ、僕は全ての秘密を自分の中だけにしまっていた。



(……できることならデイジーには、アムカイラ王家のことや、血生臭い革命の事実は伝えずにいたい……)



 それは酷く自分勝手な都合だと思う。大切な存在だと口にしておきながら、真実を隠しているのだから。


 だがこのような状況になっては、リュクソンには全てを告げなければいけないだろう。ジャハーラの王族に対抗するならば、相応の身分ある人物の助けが必要だ。いくら僕が本物のディアナの夫であったとしても、今はしがない商人でしかない。


 アムカイラの貴族はほとんど亡くなっているし、フライヤは当時ただの一般市民でしかない。公爵家嫡男の僕との関係を問われれば、無駄に疑われるだけだろう。もしそれでジャハーラの王族が、僕の方こそ偽物だと言ってきたら対抗する術がないのだ。


 だから僕の存在を証明することができるのは、同じ王族であるフィネスト国王のリュクソンしかいない。



「いざとなったらリックに匿ってもらうか……」



 もしデイジーに危害が及ぶのなら、もう手段を選んでいる場合ではないだろう。そう覚悟を決めて、僕は全ての真実を手紙にしたためた。


 しかしそれから数週間後、偽物の王族の件は思わぬ展開を見せていた。



「フィネスト王国への大使?………この僕が?」



 再びとんでもない知らせを持ってやって来たのは、前回よりもやる気に満ち溢れた様子のフライヤ・マネストだった。彼の隣には、フィネスト王国からの使者という人物がいる。



「あぁ、正式にフィネスト王国と国交を結ぶことになった。その為に、互いの国から大使を派遣することになったんだよ。俺はあんたを推薦する。何せ、フィネスト王国の国王様からも直々に推薦されているしな」


「……信じられない……リックめ……わざとだな……」



 僕は思わずリュクソンへの愚痴をこぼした。手紙を送ってから、僕の方へは特に知らせは無く、今日初めてこの事態を知ったのだ。



「アムカイラのお偉方も、あんたが大使になることに反対はしていない。国籍も既にアムカイラ共和国で登録してあるしな」


「いつの間に……」



 フライヤの根回しの早さに、驚きと共に呆れてしまう。しかしいざ表舞台に立つことになれば、不安も大きい。



「……僕らが表に出れば、気付く人もいるかもしれない。デイジーが心配だ」


「あぁ……まぁ、今回の件で正直お偉方のほとんどはあんたのことに気付いたよ。何せフィネスト国王直々の指名だからな。そうでなくともあんたの名前は最近話題になっているし……てっきりあんたが承知しているもんだと思っていたんだが……」


「……益々不本意だ……リックめ……」



 リュクソンはわざと僕の方へは知らせずに、アムカイラへ直接使者を送ったのだ。大使の件を断らせないようにする為に。


 苦い表情をしていると、フライヤと共にやって来た使者が口を開いた。



「陛下から事情は聴いております。ご友人の名が利用されるのを黙って見ているわけにはいかないと、陛下がこの件に直接関わることをご決断されました。エルロンド様宛の詳細はこちらに……」



 そう言って使者は、僕宛ての手紙を渡してきた。そこにリュクソンの真意が綴られているのだろう。僕はため息を吐きたくなるのを堪えながら、それを開いた。



****


『 親愛なる友、エルロンドへ


 やぁ、エル。この手紙を受け取って、普段穏やかなお前が私の所業に大層怒っているだろうと予想がつく。すまない。だがこれも必要なことだと思って割り切ってくれると助かる。


 まずはディアナのことを謝らせてくれ。本当に申し訳なかった。あの時、すぐに彼女の存在に気が付いて知らせることができていればと、悔やんでも悔やみきれない。


 だが私がそうやって悲しむとわかっていたから、これまで知らせを寄越さなかったんだな。そういう所がお前らしいと思う。


 ところで知らせを受けた偽物の王族の件、子細はよくわかった。私も大切な友人の名が汚されるのを、黙って見ているわけにはいかない。フィネスト国王である私の名を使えば、ジャハーラの若造など蹴散らすのは簡単だろう。


 だがそれをする前に、一つお前に頼みがある。今回お前からの手紙を受け取って、ある考えが浮かんだんだ。それを是非とも了承してくれると嬉しい。というか断らせるつもりはないから、先に使者を送らせてもらったんだ。悪いな。


 正直に言うが、私はお前たちの素性を明かすべきだと思う。今回うまく事を治めたとしても、お前や私が亡くなった後に、再び悪い考えを起こすやつが現れないとも限らないだろう?その時お前の大切な娘を誰が守ってやれるんだ?


 確かにお前の懸念も分からなくはない。あの血生臭い革命をその身をもって経験したのだからな。あの時、遠い異国の地で守られていた私には想像もつかない辛い出来事がたくさんあっただろう。


 だがエル、私らは随分歳を食った。もう後先が残り少ないのをわかっているはずだ。だからこそ考えるべきは、デイジーのことだ。それは彼女の出自がどうこうというのではない。


 デイジーは、かつての婚約者が忘れられない、結婚もしていないから将来が心配だとお前も手紙に書いていたじゃないか。


 あぁ、エル!それだよ!それこそが重要だ!デイジーの幸せは、まだフィネスト王国にあるんだよ!彼女が愛した男は、まだ彼女のことを愛しているんだ!


 彼はレスターと言うんだが、デイジーを失ってから十年近い間、異国でずっとデイジーを探していた。商人に売られたという彼女を助けたい一心でな。


 父親であるお前には複雑かもしれないが、レスターは一途で誠実な男だ。デイジー以外は考えられないと、未だに独身を貫いている。婚約破棄に至る経緯で愚かな男と思うかもしれんが、それは若さゆえの過ちだと思って許してやってはくれないだろうか?


 私にとってレスターは息子のような存在だ。真面目で不器用な男なんだ。己の過ちを悔いて、今もデイジーを思っている。きっと死ぬまでその心は変わらないだろう。


 もし叶うなら、もう一度二人を会わせてやりたい。レスターもデイジーも、互いこそが唯一と思っていながら離れ離れになってしまった二人だ。まるでエル、お前とディアナみたいじゃないか。


 あの二人ならまだ間に合うんだ。彼らが幸せを取り戻す手助けを、私たちがしてやるんだよ。


 だからエル、どうかデイジーとともにフィネスト王国にやって来てほしい。私の国でなら、お前たちを利用しようとする輩も手出しはできない。それに大使となればその役目がお前自身を守るだろう。出自を明かすいいきっかけにもなるしな。


 デイジーのことはレスターに任せれば、必ず守ってくれるはずだ。だから私たちがいなくなった後もきっと大丈夫だ。


 お前がフィネストに来るのを待っているぞ。二人で子供たちの幸せを見届けようじゃないか。』



****



「……そんな…………」



 リュクソンからの手紙を読んで、僕は言葉を失った。



「……大丈夫か?あんた……」


「……っ」



 フライヤが、心配そうに声を掛けてくるが、うまく返答することができない。手紙に書かれていた内容は、僕が予想もつかないものだった。



(あぁ……本当に僕は……何もかも間違ってばかりだ……)



 手の中で手紙がくしゃりと音を立てる。懺悔の言葉を心の中で吐き続けながら、僕は顏を手で覆った。これまで良かれと思っていたことが過ちであったと気づかされ、どうすればいいか分からなくなってしまった。



(まさか、相手の男がデイジーのことを探していただなんて……)



 僕はずっとあの国を避けてきた。それがデイジーの為だと思ったからだ。


 しかしデイジーを捨てたはずの婚約者は、何年も彼女を探していた。デイジーが相手を思うように、相手もまだ彼女を愛していたのだ。


 フィネスト王国へ行っていれば、リュクソンに全てを告げていれば……デイジーは、もっと早くにその愛を手にしていたのかもしれない。デイジーが幸せを掴むのを邪魔していたのは、僕自身だったのだ。



(……デイジーに何と言えばいいだろう……)



 激しい後悔に苛まされていると、フライヤが僕の肩を掴んだ。その力強い感触に、ハッと意識を現実に戻される。



「……失った時は戻らないが、未来を変えることはできる」


「っ──」


「だからあんたは前を向いてりゃいいんだよ。そうだろ?」



 悪戯っぽい笑みをこちらに向けて、僕を励まそうとするフライヤ。彼は手紙に書かれていた詳細までは知らない。だが、僕が酷く後悔していることはわかっているのだろう。だからこそ、敢えて前を向けと強い言葉を掛けたのだ。熱い想いが込み上げてくる。


 何度同じことを繰り返してきただろう。過ちだらけの人生で、幾度となく過去への懺悔をし、年を重ねた今も迷いの中から抜け出せない。それでもこうして助けてくれる友がいる。背中を押してくれる友がいる。



「……ありがとう、フライヤ。本当に君は……いつも行くべき道を示してくれる。僕にとって君は神様みたいな人だよ」


「ははっ!よしてくれ、柄じゃねぇよ」



 心からの感謝を告げると、フライヤが豪快に笑い飛ばした。彼はいつものように茶化すけど、僕は心からそう思っている。今の僕があるのは彼のおかげだ。そしてきっと未来の僕があるのも、今のフライヤのおかげになるだろう。


 その不思議な縁に導かれて、僕はまた新たな道を歩もうとしていた。


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[一言] >「……失った時は戻らないが、未来を変えることはできる」 名言出た( ˘ω˘ )
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