16 反王制派の男
ディアナを探し反王制派の人物の下へと向かった僕は、広場のある場所で一旦待たされることになった。反王制派の詳細な情報を流さないようにする為だろう。
それでも反王制派の一部の人間と繋がりを持てたという事実は、とてもありがたかった。自分だけの力では反王制派の人間を探すのは難しかっただろうし、何より相手から信頼を得られる可能性が低いからだ。
「エルロンドさん、待たせたね」
「ご主人……」
広場の片隅で俯いてた僕に、パン屋のご主人が声を掛けた。彼の後ろには数名の帽子を目深に被った人物がいる。彼らがいわゆる反王制派というやつなのだろう。訝し気な様子でこちらを睨むと、パン屋のご主人にぼそぼそと話しかけている。
「こいつがそうなのか?……本当に貴族じゃないんだろうな?」
「あぁ、それは私が保証するよ。彼の商会は庶民向けのものだし、何より真面目な青年だ。もし彼があちら側の人間だとしたら、今頃私は牢屋の中だろうしね」
「だが、俺たちの情報を引き出す為に、あんたを泳がせていたとしたらどうだ?」
「それは……」
「そんな事はしません!信じてください!私は、ただ妻を探しているだけなんだ!」
「!!」
いつまでも僕に疑いの目を向ける男たちにしびれを切らして、僕は自ら口を開いて訴えた。一刻も早く妻の無事を確認したい一心だったからだ。
食って掛かるように身を乗り出した僕に対し、反王制派の男たちは驚きと共に警戒の色を強める。
「……だからってなんで俺たちが関わっていると思うんだ?それこそ濡れ衣じゃないのか?」
そう言う男の声には怒りの色が滲んでおり、明らかに僕が貴族の側の人間であると言わんばかりだ。
「まぁまぁ、落ち着いて。……エルロンドさんの奥さんは、それはそれは綺麗な人でね。一見すると貴族のご婦人に間違われてもおかしくないんだ。勿論君たちを疑っているわけじゃないんだが、何かいざこざに巻き込まれた可能性はあるかもしれないからね。それに街の情報に関しては、君たちの方が詳しいだろう?何か知らないかい?」
パン屋のご主人が、僕らの間に入って説得してくれた。彼が顔が広いというのは本当のことなのだろう。それまで敵意をむき出しにしていた男達の態度が、僅かだが軟化したように見えた。
「……どんな見た目だ?」
男の問いかけに、僕はディアナのことをできるだけ詳細に話す。
「金の真っ直ぐな長い髪に、色白の肌。年齢は二十歳を過ぎたばかり。背は私の肩くらいで、目は翠玉色。服は確か……白い綿のシャツに、萌黄色のスカートだったはず。出かける時はいつも赤い大きなショールを頭から被っています。名前はディアナ・フリークス……」
「ディアナさんは、かなりの美人さんだよ。このエルロンドさんの美貌と同じくらいのね」
僕の説明に、パン屋のご主人が更に付け加える。反王制派の男はチラリと僕を一瞥すると、少し考えるような仕草をした。
「金髪で翠玉色の瞳の相当な美人か……確かに聞いただけでも貴族みたいな見た目だな」
「昨日の集会で見かけたりしなかったかい?」
「……いや、見ていないな。大体いつも見知った奴らで、知らない人間がいたら覚えているさ。ましてやそんな目立つ美人だとしたらなおさらだ」
「……そうですか……」
その言葉に落胆し肩を落とすと、別の男が声を上げる。
「そう言えば、うちの所じゃなくて別の所でなんか揉めたって話は聞いたぞ?」
「それは本当ですか?!」
「だが、あんたの奥さんらしき人が関わっている感じじゃなかったかな……。何でも貴族を乗せた馬車と、過激派の奴らが揉めたとかなんとか……」
「その場にいた人に話を聞くことはできますか?!もしかしたらそこに妻がいて巻き込まれたのかも……」
話を聞いていて堪らずに懇願すれば、彼らは困ったように互いの顏を見合わせた。そしてリーダーらしき男が、ため息を吐いて諭すように語り掛ける。
「……可能性があるとしても、相手は俺らとは違って過激な奴らだ。あんたが行ったところで、自分が危険な目にあうだけだぞ?」
「それでも妻が私の助けを待っているのだとしたら……行かないなんて選択肢はないんです!」
反王制派の男も、必死に訴えかける僕の様子にその本気の度合いを理解したのだろう。頭をガシガシと掻いて、仕方ないとため息を吐いた。
「こんなことをしてやる義理はねぇが、このままあんただけでその辺を嗅ぎまわられる方が面倒だ。連れてってやるよ」
「っ──!ありがとうございます!」
そうして僕は彼らと共に、過激派と言われる反王制派の下へと向かったのだ。




