14 突然の失踪
その日、仕事を終えてディアナの待っている自宅へと帰ると、すぐに僕は異変に気が付いた。いつもなら出迎えてくれるはずのディアナの姿がないのだ。
僕は彼女が体調不良で寝ているのだと思い、寝室へと向かった。けれどそこにも彼女の姿は無かった。
「……ディアナ?……どこにいるんだい?」
悪戯好きの彼女のことだから、もしかしたら僕を驚かそうとしているのかもしれないと思い、僕は彼女の名を呼んで家の中を探し回った。しかしいくら探してもその姿はない。
「……一体どこへ……」
僕はまさかという不安が沸き起こるのを必死に抑え、もう一度家の中を探し回った。そこまで大きくない家だ。隠れる場所などそうはない。何度も同じ場所を隅々まで見て回り、その度に落胆を重ねていく。
そして3度目に台所に行った時にようやくあることに気が付いた。夕飯の支度をしていた形跡がないのだ。ディアナは、いつも僕の為に夕飯を用意して待っていてくれた。だからもしかしたら買い物へと出かけて、まだ帰って来ていないだけかもしれないと思った。
僕はその考えに思い至ると、すぐに外へと飛び出した。
ディアナがよく使う商店は知っている。家からそれほど遠くないいくつかの商店が立ち並ぶ場所だ。既に閉店の時間を過ぎてはいるが、まだ店の片づけなどで店主がいるだろうから、僕は大急ぎでそこへ向かった。そしてディアナが来ていないか確認したのだが──
「いや、今日は見てないねぇ」
「奥さんかい?昨日来たばかりだから、当分は来ないはずだよ?」
「喧嘩でもしたのかい?──大丈夫、しばらくしたら戻ってくるさ」
どこの店へ行っても、彼女の姿を見ていないという返事しかなかった。
僕は次第に大きくなってくる焦りと恐怖で叫び出しそうになりながら、再び自宅へと戻った。だが未だそこにディアナの姿はない。僕は縋る想いで、隣に住むリーマ夫妻の家の戸を叩いた。
「リーマさん!リーマさん!すみません!」
暫くして隣人であるリーマ夫妻が、驚いた顔で扉を開けてくれた。
「どうしたんだい?フリークスさん、そんな血相を変えて……」
「妻が……っ!ディアナを見ませんでしたか?!」
「え?奥さん?……いやぁ、今日は見かけてないなぁ……お前はどうだ?」
「えぇ、私も今日は見ていないわ。私今日の昼前に出かけたんだけど、お庭に洗濯物も干して無かったし、もしかしたら午前中から出かけていたかも……」
「……そんな……そんな前から……」
リーマ夫妻の返答に、更に顔を青ざめさせる僕の様子を見て、彼らも尋常でないことが起きているのだとわかったようだ。
「まさかまだ帰って来ていないのか?どこへ行ったか心当たりはないのか?」
心配してくれたリーマ氏が、あれこれ僕に問いかける。けれど既に彼女が普段行くと思われる場所は全て探した後だ。僕はただ首を横に振るしかなかった。
そんな僕の様子を見てリーマ夫妻は、すぐに自分たちもディアナを探してくれると言った。
「……こんなご時世だ。もしかしたら、治安部隊が関わっているかもしれねぇ。そっち方面に伝手のある知り合いがいる。俺はとりあえずそこを当たってみる」
「私は他の知り合いの奥さんに話してみるよ。みんなディアナさんには良くしてもらっているし、あんな綺麗な人を見かけてたら覚えているはずだから!」
「……ありがとうございます……!どうか、お願いします……!」
心強い二人の言葉に励まされ、僕は再び街へとディアナを探す為に飛び出したのだった──




