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あなたとの愛をもう一度 ~不惑女の恋物語~  作者: 雨音AKIRA
エルロンド編 第3章 新たな人生への旅立ち

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11 新しい家族

 国を出てからの僕とディアナは、商人であるシネンを頼りに新たな生活を始めていた。


 僕はシネンの手伝いをしながら商人としての仕事を覚え、ディアナもその生活を支える為に慣れない家事をして助けてくれた。


 だが流れの商人であるシネンについて、一つ所に留まらず旅をするのは大変なことだ。移動するのは勿論、新しい場所での生活に慣れるのには随分苦労した。


 それでも王家や公爵家からの追手を恐れていた僕らにとって、ずっと移動し続けるのはむしろありがたいことだった。アムカイラ国内ではなく、異国の地にいるという事実も、僕らの抱える不安を小さくしてくれていた。


 そんな風にして共に旅する僕らを、シネンは自分の息子夫婦だと周囲の人々に説明していた。元々流れの商人であるシネンの素性を知る人はほとんどいなかったので、僕とディアナはすぐに彼の息子夫婦として人々に受け入れられた。


 そうしてようやく生活が落ち着いてきた頃、僕たちはとある小さな村の教会でささやかな結婚式をあげた。



「とっても綺麗だよ、ディー」


「ありがとう、エル。貴方もとっても素敵だわ」



 今ここにいるのは、王族でも貴族でもない、ただの男と女だ。商人であるシネンが用意してくれた衣装は、少しだけ豪華な平民の婚礼衣装で、花嫁を飾る花は村の農家に分けてもらったものだ。


 かつて思い描いていた結婚式とは随分違うものになってしまったけれど、それでも僕とディアナは、ようやく夫婦になれた喜びを胸に抱き合った。もしかしたらこの未来を失っていたかもしれないのだ。



「本当に……長かった……ありがとう、ディー。僕を選んでくれて」


「そんなの当然だわ。私たちはずっと一緒にいるのだから……」



 涙を流して抱きしめ合う僕らを、シネンと教会の牧師が穏やかな笑みで祝福してくれた。


 ここまで来るのにどれだけの時間と苦労を重ねただろう。周囲の人々の期待を裏切る形で、飛び出してきてしまった。けれど、僕らは後悔していない。愛する人と一緒にいることが、何より大切だったから。


 ささやかな結婚式の後、僕らは家名をフリークスと改めて、本当にシネンの義理の息子夫婦となった。


 シネンの方も、突然できた息子夫婦の存在をとても喜んでくれた。いずれは弟子を取って自分の商売の術を誰かに継がせようと思っていたらしく、僕という息子が出来たのが、本当に嬉しかったようだ。そうして僕らは3人で新たな家族として生活を始めた。



 シネンと一緒に、僕らは様々な国を巡った。彼は僕に商売の何たるかを叩きこみ、夜は盃を手に夢を語り始める。



「流れの商売も良いが、いつかはデカい商会を運営してみたいと思っていたんだよ」



 酒を飲みながら話すシネンは、ようやくその夢に手が届くと嬉しそうに僕の肩を組む。



「それにやっぱり、新婚夫婦にはちゃんとした家が必要だろう?」



 シネンは、僕とディアナを交互に見てニヤリと笑う。義理の父となったシネンとしても、夫婦である僕とディアナが、このまま流浪の生活を続けることが忍びないのだろう。自分の夢を叶えると共に、その仕事の一助として僕らに商会の拠点の一つを任せようと思っていると話してくれた。



「アムカイラの新国王にも、ようやっと後継が出来たという噂だ。数年もしないうちに、祖国に戻ることもできるだろうよ」


「……そうなれば本当に嬉しいですね」



 ディアナもシネンの話を聞いて、目を輝かせている。僕とディアナがいなくなったことで王位争いの火種が無くなり、徐々に国の情勢も沈静化の方へ向かっているはずだ。領地や家族のことが心配ではあるが、血みどろの争いになっていたかもしれないことを思えば、これで良かったのだと思える。


 そんな僕らの心情をシネンもわかっているのだろう。穏やかな表情を向けて更に語り続ける。



「それに何もこれまでの地位が無くても、商人なら商人なりに、国の為に尽くすことができる。国や民を見捨てたわけじゃないと、商人として証明すればいいのさ」



 シネンの言葉に胸が熱くなる。ディアナと共に過ごす未来だけでなく、自分たちの新たな可能性を見出すことが出来て、僕の心には喜びと希望が生まれていた。


 僕はシネンを真っ直ぐに見つめると、その言葉に大きく頷きを返した。



「えぇ、勿論です。父さん」



 父さんと言う言葉に目を丸くしながらも、照れたように笑うシネンに、僕とディアナの間で笑いが起こる。今ではこの温かなひと時こそが、家族の大切な時間だ。



「そんな日が来るのが楽しみね」


「なぁに、きっとあっという間だよ」



 穏やかな時の中で、僕らは夢を語らいながら過ごした。


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