後日譚34 侯爵夫人の憂鬱17
レスターへと昼食を差し入れた私は、メルフィやジーナと共に、王宮の一室へとやって来ていた。
昼休憩の終わったレスターは、エルからの説明を聞くために別室へと行ってしまい、それで私も帰ろうとしたのだが、彼等に城に留まる様にと強く勧められたのだ。
「終わるまで待っていて欲しいってことだけど……本当にここにいていいのかしらね?」
「良いに決まってるじゃないですか!大使様も侯爵様もそうおっしゃっていたんですし」
私の気弱な呟きに、メルフィがすぐにつっこんでくる。だが現状手持ち無沙汰であるし、大した用もないのに王城の豪華な客室を使わせてもらっていることに、若干気が引けてしまっていた。
「レスター達の試みが上手くいくといいのだけど……」
「デイジー様……」
詳細はわからないが、エルや陛下が力になってくれて、シャンダル公爵と対決するのだろう。疲れ果てた様子のレスターを思うと、一刻も早く彼の問題が解決するのを願わずにはいられない。
「大丈夫ですよ。大使様も陛下も味方なんですから!デイジー様は疲れて戻って来た侯爵様を、笑顔で迎えればいいんですから」
「ふふ、そうね。確かにそれが私の役目だわ」
メルフィの励ましに、強張っていた顔に自然と笑みが浮かぶ。レスター達が抱えている難しい問題を、直接助けることは叶わないだろう。けれど私にしか出来ないこともある。
差し入れをしたり、レスターの心が安らげるように笑顔で彼を迎えたり──そんな些細なことでも、きっと彼の力になっているはずだ。
「えぇ、ですからここでゆっくりお二人を待ちましょう。お茶もお菓子もありますからね!」
「そうね」
メルフィが満面の笑みで頷くので、私もつられて大きく頷きを返した。確かにあれこれと心配しても始まらない。レスターを信じて待ってればいいのだから。
そうして私は、メルフィ達と取り止めのない話をしながら、時を過ごした。
それから数刻ほどの時が経った。陛下との謁見は相当時間がかかっているらしく、未だレスター達は戻ってこない。こちらから状況を問うわけにもいかず、いつ終わるとも知れない時をじっと待つしかなかった。
「お茶のお替りをもらってきますね。お湯も冷めてしまいましたし……」
「えぇ、メルフィ悪いわね」
「大丈夫ですよ、これくらい。任せてください!」
メルフィが元気いっぱいにそう言ってくれるが、彼女にも少し疲労の色が見えていた。私を楽しませようとずっと気を張っているのだから、仕方ないだろう。
「ついでに少し外の空気を吸ってきたらどう?」
「え?」
私の提案にメルフィが驚きの声を上げる。だが私はこれはいい案だと思った。
「私と一緒にずっとここにいても、外の状況もわからないし、息が詰まるでしょう?メルフィなら王宮内を動けるし、そのついでに色々と見聞きできるじゃない」
「なるほど……それいいかもしれないですね!」
メルフィもこの提案を良いと思ったようだ。彼女はそもそもこうした情報収集には長けているし、今の閉じこもった状態でいるよりも、少しでも何かつかめた方が私の為になると思ったのだろう。
「扉の外には護衛もいるし、ジェーンも側に居てくれるから、私の方は何も問題ないわ」
本当なら私も一緒に行きたい所だが、流石にそれはできない。エルやレスターから、絶対に外へ出るなと厳命されているのだ。
「わかりました!それでは不肖メルフィ、デイジー様の為に情報収集へと行ってまいります!」
「ふふ、お願いね?」
意気揚々と部屋を出て行くメルフィを見送った私は、ジェーンと共に再び雑談に興じていたのだが──
「あら?もう戻ってきたのかしら?」
幾ばくも経たない内に客間の扉が再び開く。メルフィが先にお茶の用意をして戻ってきたのだと思い振り返ると、そこには意外な人物が立っていた。
「え──あなたは……」




