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桜絡廊(おうらくろう)公園の花は旦那様に愛されていることに気づかない  作者: しげむろ ゆうき


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3/20


 しかも……と私は思わず後退る。九条様との距離があまりにも近かったので。


「あ、あの……」


 すると私の声かけと様子に気づいた九条様は慌てて一歩下がられる。それから救急箱を出してこられも。


「……傷だらけだ。化膿する前に早く治療した方がいい」


 更にはそんなお言葉までと、私は感激する。

 ただ、それでも首を横に振ることは忘れなかったけれど。


「ありがとうございます。でも部屋にもありますので」

「それでも一人では大変だろう。今誰かを……」

「いいえ、大丈夫です。それに身の回りのことは全て自分一人でやると契約書にも書きましたので」

「……匙裏が余計な事を書いたのか?」

「違います。私の方からの条件になります」

「君が……」


 九条様はそう呟かれる。驚いた表情を浮かべて。

 おかげで私はその様子にある考えが思い浮かんでしまったが。念の為に「もしかして契約に関して九条様は関わってらっしゃらなかったのでしょうか?」と尋ねも。

 徐々に確信を持ってと返事を待っていると案の定、「それは……」と九条様は黙りこんでしまわれる。おかげで私は心底安堵することができたが。

 何せ九条様にとってこの結婚は本当に時間を割くほどのものじゃないとわかったので。おそらくこれからもと、気分が軽くなった私は笑顔を作る。この先のことを考えながら。


「大丈夫ですよ。九条様はいままで通りでいて下さい。ああ、ただパーティーに呼ばれた時は頑張ってお互いに演技を致しましょう。では、失礼致します」


 そして何も言われず俯く九条様の横を通り過ぎ、部屋に戻るなり胸を撫で下ろしも。この一年は九条様に対してはほとんど気を回さなくて良さそうだと判断して。

 これからは契約のことだけを考えようと。


 なのに……


 なぜと、私は首を傾げながら九条様を見つめてしまうが。だってそうだろう。翌朝、起きて食堂へ行くと九条様が突然仰ってこられたので。食事が終わったら服を買いに行こうと。

 まあ、すぐに理由がわかり着物に付いた小さな汚れを慌てて隠したが。更には糸が飛び出した袖も。食席の下に隠すと九条様は慌てながら首を横に振ってこられたが。


「そ、そういう意味で申したわけじゃない。佳子に君が少ない枚数しか服を持ってきていないと聞いたから買いに行こうと伝えたかったんだ」

「……そうだったのですか。でも、それなら私一人でも買いに行けますので」

「だが、一人では危ないだろう」

「いいえ。今までだって一人で買い物には行けてましたから」


 本当は嘘だったがそう答えると九条様は何か言いたそうにしたが黙ってしまう。

 もちろん私は気づかないふりをして話は終わりとばかりに笑顔を作るが。

 だってそうだろう。この国の平和の為に日夜頑張っている九条様の貴重な時間をお飾りの契約妻なんかのために使う必要はないのだから。絶対にと、私は確信に満ちながら頷く。

 ただし、すぐにその考えは間違えていると気付かされてしまったが。食堂に入って来られた匙裏さんによって。


「奥様。朝食後、旦那様と一緒に買い物に行ってきて下さい。いえ、違いますね。こうお願いした方がよろしいでしょう。契約を遂行して下さいと」


 更に念押しするように側に来られも。腕を組まれて私達を見回しながらと、私はすぐに頷く。出来の悪い自分の頭を叩きたい衝動を押さえて。


「……はい、わかりました」

「では二人共、外では仲が良いところを周りに見せつけて下さいね。ああ、それと李玲様。早く拗れた部分を直さないと面倒なことになりますよ」

「……」

「全く……」


 匙裏さんは黙っている九条様を見て溜め息を吐きながら食堂を出て行かれる。

 もちろん私は何も言わずに匙裏さんの背に頭を下げるが。部外者の私が二人のやり取りを詮索するべきではないと思ったので……と、言いたいが本音ではこれ以上、下手をやらかしそうなので余計なことは言わない方がいいと判断したから。

 今度こそ絶対と。


 なのに……


 自然と九条様の方に手が伸びていく。心配になってしまったので。悲しげな表情を浮かべる九条様を。

 すぐに慌てて手を下ろしたけれど。


「おはようございます。さあ、食事の準備をしますからお二人共、お座り下さい」


 食堂に石さんと他のお手伝いさんが入ってこられたから。食べ物や飲み物が乗った配膳車を運びながら。しかもかなりの量と思っていると九条様が「わかった」と頷かれて席へと向かわれる。先ほどと違い柔らかくなった表情を石さん達に向けて。

 ただ、席に座られると今度はこちらに何か言いたそうな表情を向けてこられたが。

 もちろん何を仰りたいのかは私にわかるわけないので黙って席へと向かうけれど。立場だけは理解しているので九条様から一番離れた席へと。

 まあ、本当は視界にさえも入らないようにしたかったのだけどと思っていると、私の考えなど知る由もなく石さんが九条様の近くの椅子を引いてしまう。


「奥様、こちらへ」


 しかもそう仰られてと、当然ながら私は首を横に振る。


「いいえ、あくまで私はお飾りです。それに本当はご一緒に食事を摂るのだっておこがましいと思っていますので」

「何を仰っているのですか。旦那様はそんなこと思いませんよ。そうですよね?」

「あ、ああ、そうだ。私は決してそんなことは思わない」

「でも、そういうのは……」


 本当の妻になられた方と一緒の方が良いのではと思っていると石さんが手を合わせ懇願する仕草をされる。


「奥様」


 もちろんだからといって「はい、行きます」とはいくわけにはいかなかったが。外ならまだしも中で妻の役割をして迷惑ではないかと。

 ただし俯いてしまった九条様を見て私はおずおずと移動したが。


「失礼致します……」


 すると九条様はゆっくりと顔を上げ目を細める。すぐに咳払いをされたが。


「で、では、頼むぞ佳子」

「ふふふ。では、皆さん」


 石さんは苦笑しながらお手伝いさん達と一緒に食事を運び私達の前に並べられていく。そして料理が並び終えると軽く手を合わせて仰ってこられも。


「さあ、お二人ともしっかりと食べて下さいね。特に奥様。貴女様は栄養が足りてなさそうですから」


 私はそう言われて早速、スープを口にする。内心、石さん達に謝罪しながら。何せ魔獣に噛まれてから半年後、私の味覚はほぼ無くなっているので。

 もちろんこのことは九条家の者に言うつもりはないけれどと、必死に吐き気と闘いながら異物を入れてる感覚に耐え続ける。ばれないように。そして作って下さった石さん達を悲しませないようにと。笑顔も作りながら。

 まあ、途中何度も危なかったけれどもと、なんとか時間をかけながら無事に全て食べ終える。


「ご馳走様でした……」


 更に続けて「とても美味しかったです」とも。

 ただし返ってきた言葉で言うべきではなかったと後悔したが。「お昼も沢山、作っておきますからね」と言われてしまったので。

 満面の笑顔でと、私は「はい」と頷く。

 選択肢はそれしかなかったからと、これ以上はこの場にいられないと私は節目がちになりながら立ち上がる。


「では、部屋に戻ります」


 そして食堂を出ると自分の部屋に足早に戻るなりトイレでほとんど吐き出しも。やはり量が多すぎて胃が受け付けずに拒否反応が起きてしまったので。

 もちろん自分がしたことはせっかく作ってもらった食事を無駄にしてしまったこと。なので最低な行為で間違いないのだと自覚はしていたが。

 そして、しばらく罪悪感に駆られながら壁に寄りかかりも。思わず唇を噛み締め。

 ただ、扉がノックされ九条様の声が聞こえたため、すぐに身だしなみを揃えるが。


「少しいいだろうか?」


 そう声が聞こえてくるなり「は、はい」と鏡を見て問題ないことを確認した後、慌てて扉を開けも。

 ただ、九条様がすぐに私の顔を覗きこまれ「顔色が悪かった。もしかしてここの食事は合わないのか?」と尋ねてこられるなり私は一歩下がりそうになってしまったが。

 思わずと、私は踏みとどまり慌てて首を横に振り否定する。

 「そんなことはありません。とても美味しかったですよ」と。今までバレたことのない作り笑顔を見せて。

 九条様がゆっくりと首を横に振り、確信に満ちた表情で「嘘だろう。佳子は気づいていなかったが私にはわかったよ。君が無理をしているのが」と仰ってこられるなり驚いてしまうが。


「えっ……」


 更に九条様の顔を思わず見つめると頷かれてこられる。「だから本当の事を教えてほしい。うちの料理は合わないのか?」と。

 だから一瞬だけ悩んでしまったのではあるが。まあ、一瞬だけだったけれどと、自分の右肩に触れていた手をそっと下ろす。


「……少し量が多かったのです。うちではあれの半分も食べていませんでしたから」

「そうか。では、私から佳子にそのことは伝えておこう」

「ありがとうございます」

「では、私は戻るよ。それと今日は服を買いに行くのはやめておこう」

「いいえ、大丈夫です」

「しかし……」

「大丈夫ですから九条様」


 私が笑顔を作ると九条様は少し悲しげに頷く。


「……では、匙裏に車を出すよう声をかけてくるよ」


 そして、そう仰られると去っていかれたのだ。対して私はその場をすぐに動くことができなかったが。良くも悪くも心臓が高鳴ってしまっていたので。

 ただ、しばらくして現実を見つめてしまい自傷気味に笑ってしまったわけだけれど。なぜって九条様がお金目当ての自分には不釣り合いな相手だとわかってしまったから。


 嫌でもはっきりと……


 そう思いながらも私は頭を振るなりその考えを追い払う。何せこれは白い結婚だから九条家の妻のままで問題ないのだから。

 私はドア越しに向こう側を見つめながら口元を歪める。それから少しでも良き妻を演じるため九条様を待たせないよう急ぎ身支度するのだった。


◇ 絶対に


 流れる雲のように建物や木々が動いていく。

 ただ、今回車窓から流れる風景を前回ほど楽しむことはできなかったけれど。

 何せ隣に女性達が騒ぐのも理解できてしまう程の美丈夫がいたので。

 しかも目を瞑り腕を組んでと、要は抗えない九条様の美しさの所為で私は風景に集中できなかったのである。

 分をわきまえていてもと、私は小さく息を吐く。昨日、対応した女性達の気持ちを痛いほど理解しながら。

 もちろん表情は作っていたけれど。窓に映る九条様が切れ長の目を開き、こちらに顔を向けてこられても。


「少しいいだろうか?」


 そう仰ってこられてもと、私はすぐに頷く。

 「はい、なんでしょう九条様」と少し緩んだ頬を気にして。

 ただし、九条様が咳払いした後、「その、人前に出た際の夫婦の呼び方を考えていてな……」と仰ってこられるなり反省してしまったが。

 能天気なことを考えている誰かと違い、移動時間でさえ九条様はしっかりと契約のことを考えられていたのだからと、私はすぐに口を開く。意図を理解しながら。


「それなら安心して下さい。九条家以外の方の前では旦那様とお呼びしようかと思っていましたので」

「……なるほど。常には無理ということか」

「いいえ、そういうわけでは……」

「では大丈夫なのだな?」

「ええ、まあ。でも、よろしいのですか?」


 お飾りの妻がそこまで図々しくと思っていると、九条様が少し顔を寄せながら仰ってこられる。


「君が嫌じゃなければ問題ない」

「で、では今後は旦那様と……」


 内心不安になりながらそう言うと九条様は口元を押さえ「決まりだ」と。

 そしてゆっくりと顔を離すなり次は私の番だと視線を。

 もちろん私は頷きすぐに口を開くが。


「私は別に君で良いとは思いますが」


 すると九条様改め、旦那様はすぐに口を開かれる。「それだと他人行儀な気がしてな」と否定的な意見を。

 しかも腕を組まれて真剣に悩まれも。私の呼び名ぐらいでと私はつい呟いてしまう。


「でも、他の呼び方だと……」


 たいして変わらないのではと思っていると、旦那様は腕を下ろすなりじっと見つめてこられる。

 更には吐息を吐くようにそう仰ってこられも。

「優月……」と。

 おかげで車内に音が漏れそうになるくらい、私の心臓音が高鳴ってしまったが。予想してなかった言葉が目の前の美丈夫の口から出たので。おいでもお前でもなく。


 私の名が。


 しかも、あろうことか私の頬にそっと手を近づけ。

 まあ、すぐに私が書いたお互いに不用意に肌に触れ合わないこという契約内容を思い出してくれたのか、はっとすると手を引っ込めて窓の方を向かれながら謝られてこられたが。


「すまない」


 更にドアの方に体を寄せてと、私は笑顔を作りながら首を横に振る。内心では少しだけがっかりしながら。


「大丈夫ですよ」


 何せ一瞬だけ夢を見てしまったから。


 契約ではなく本当の……


 そう心の中で呟いた直後、青川様や、他の女性陣、契約書が順に頭の中に浮かんでいく。そして忘れるなとばかりに右肩の痛みもと、私はそっと手を持っていく。

 心の中で言い続けながら。これは契約結婚、つまり旦那様は仲が良い夫婦を演じようとしているだけなので良からぬことは考えてはならないと。決してと思っていると「ちゃんと契約通り仲良くしてますね」と運転席にいる匙裏さんの独り言が耳に入ってくる。

 おかげで私は素直にその考えを肯定することができたが。変な期待をせずにと窓の方を向く。少しでも変な考えを起こさないよう何度も自分に言い聞かせながら。

 まあ、ただしその努力も結局、着物屋に着いた時点で無駄になってしまったのだが。


「さあ、降りよう」


 旦那様が私の手を握り背中を支えながら車から下ろしてくれたので。まるで、何処かの良いところ出のお嬢様のようにと、要は先ほどの思いや考え、固い決意が旦那様の優しさで全部吹き飛んでいったのだ。

 もちろんだからといって旦那様にとって無駄であり邪魔なこの淡い感情は隠さなければならないが。

 絶対にと、私は急いで旦那様にばれないよう少し俯きながら反物たんものを指差す。


「……も、もしかして一から作られる気ですか?」

「そうだが。何か都合が悪いのか?」

「いいえ。採寸を伝えれば良いだけですから問題はございません。でも一から作るには時間がかかりますし、そもそもこんなに上等なものは私には似合いませんよ」


 そう答えているうちに冷静になり私は顔を上げる。納得してもらえると思いながら。

 ただ、視界に入ったのは旦那様が首を横に振るという想定していない姿だったが。


「いいや、優月には絶対に似合う。なら採寸が近い完成品を買おう」


 更にそんなお言葉もと、私の頬が緩んでいく。

 それでも頷くことはせずにむしろ端の方で売っている古着と書かれた着物……ただし古着と言っても私が持っている着物のどれよりも綺麗なものを指さすが。


「私はあちらで十分満足ですから」


 何せ書いてある値段から新しいものを購入するより遥かに安く済むと思ったので。

 そして私に使う無駄な時間もこれで終わるとも。

 すると案の定、旦那様は私と着物を交互に見られた後に頷かれる。「仕方ない、わかったよ」と。

 ただし続けて「でも、何着かは買う。これは絶対に譲れない」と仰ってこられたが。そして着物を五着ほど購入を。

 しかも、お店を出た直後に持っていた着物が入ってた袋を不満そうに見つめられながら「……本当にこれで良かったのか?」と尋ねてこられも。

 もちろん私は笑顔で頷くが。「ええ。おかげですぐに着れる着物が増えましたから。これも旦那様のおかげですよ」と。

 本心から感謝を伝えると旦那様は噛み締めるように「そうか……」と仰られて今度こそ満足そうな表情を浮かべられる。それは主を褒められた匙裏さんもと思っていると、手を打ちこちらに向き直られる。「どうせなら、洋服も見ていってはいかがでしょう? きっと奥様にも似合いますよ」と。

 更には自分の服を指差してこられながら。

 シャツというものをと、私は旦那様と匙裏さんお二人が着られている異国の服に視線を向ける。それから近くを通り過ぎていくお二人がはくズボンではなく、スカートというものをはいた女性に視線も。

 ただ、出てきた答えは「私には似合う気がしないのですが……」だったが。


「いや、君なら絶対に似合うはずだぞ。なあ、匙裏」

「ええ、そうですよ。それにとりあえずは行ってみませんかね?」


 そう言われてしまったら私は頷くしかなかったけれど。断る理由もなく、契約のことも頭の隅にしっかりと置いてあったので。

 つまりは拒否する選択はないと。

 ただし「では、行きましょうか」という言葉は出てこなかったが。

 『ウウゥーーーーーー!! 魔獣が現れました。皆様、今すぐ結界の中に避難して下さい』と、魔獣警報が突然、鳴り響いたから。

 街中でと、けたたましく鳴り響く魔獣警報に私は徐々に不安になっていく。そして、その不安は言葉としてつい出てしまいも。


「だ、大丈夫なのでしょうか……」

「ここには結界があるから避難所に向かわなくても心配ない」


 そう旦那様が仰ってこられたので徐々に不安は消えていったが。冷静にもと、遠くを睨まれている旦那様に視線を向ける。

 疼く右肩を気にしながら口を開きも。「それならば行ってきて下さい。誰かが旦那様の助けを待っているはずですから」と。

 三年前にあったあの出来事が他の人にも起きないようにと心の中で祈っていると旦那様が頷いてこられる。


「ありがとう優月」


 そして購入した着物が入った紙袋を匙裏さんに手渡すなり、常人では出せない跳躍力で飛び上がられも。お店の屋根へと。

 もちろん私は余計なことは言わずに深く頭を下げたが。旦那様が去ってからしばらくし、あることに気づくまで。


「あの、何処かで旦那様を待ちましょう。もう呑気に買い物などできませんから」

「だったら館に戻りましょうか? 討伐が終わっても報告書の提出などがありますので」

「ですが……」


 私は旦那様が去った方に視線を向ける。匙裏さんの仰ったことはわかるが命がけで戦っている旦那様を放って帰ってしまっていいのだろうかと。

 ただ、しばらくして急ぎ車に乗りこむが。

 ただし帰るためではなく。


「すみませんが私のかかりつけの医院に今すぐ行って下さい」

「えっ……」


 匙裏さんは驚いて私を見る。そして私の顔が真っ青になり沢山汗をかいていることに気づくと慌てて車に乗り込み走り出しも。


「あ、あの、大丈夫なのですか?」

「ええ、少し持病が出ただけですから」


 私はそう答えながら微笑む。必死に右肩の激痛に耐えながら。

 何せ呪われた病気として世間で忌み嫌われている魔蝕病に私がかかっているのを九条家の方々が知ってしまったら間違いなくこの契約結婚は終わってしまうだろうから。

 格式高い家柄の旦那様に相応しくない存在として。

 ただ、そう考えながらも朝方の旦那様の言動を思いだしてしまったのだけれど。

 もしかしたら旦那様ならと。口から出た言葉はそれでも嘘を貫き通すことに迷いはなかったけれど。


「安全運転でお願いしますね」


 旦那様はお優しい方だから私如きがつけ入っては決していけないから。絶対にと激痛に襲われながら必死に顔を綻ばせる。

 後、もう少しの辛抱と。

 ただし医院に到着するやいなや事情を知っている先生の前まで行くと我慢できずにそのまま床に倒れ込んでしまったのだが。


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