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桜絡廊(おうらくろう)公園の花は旦那様に愛されていることに気づかない  作者: しげむろ ゆうき


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◇ 運命の日


 今、世間で一つの記事が話題になっている。それは『ついに平和が来る!? ◯月◯日の発表会で公表される秘密兵器によって、魔獣に襲われる時代が終わる可能性が!』という見出し。

 もちろん、これは本当になる可能性と同時に岩倉様が仕掛けた罠なのだけれど。

 他国の工作員を炙り出すための。


 それと、いや、きっと魔獣さえも……


 そう心の中で呟きながら右腕全体の疼き、私を睨むあの瞳、更には岩倉様が仰っていた魔獣が徐々に賢くなっているという言葉を思い出す。

 そして、今日をもってそれも終わりになるはずだとも。


 このささやかな幸せと共に。


 そう思いながら私は視線をそっと横に向ける。すぐに前へと向きなおるが。

 だって、最後ぐらい迷惑をかげずにきちんとしておきたかったので。


 「さあ、行こう」


 そう仰ってこられる旦那様には特にと、私は姿勢を正して頷く。


 「はい……」


 それから集まっているパーティー客に粗相がないように会釈しながら今日の魔獣を消し去る装置が発表される会場を見渡しも。

 この木々と花壇だらけの場所……桜絡廊公園で本当に大丈夫なのだろうかと内心思いながら。特に守備の面はと、辺りに視線を向ける。魔獣が現れた際に守られるパーティー客にも。

 あることに気づくなり、その不安は徐々になくなっていったけれど。


 よくよく考えてみたらここは都合の良い場所じゃないかしら。


 そう考えを改めることができたので。

 ここは他の場所と違い、訓練のために簡易結界のみで構成されている。つまりはこちらの都合で出現させたい場所に魔獣を出し、そして今日発表される装置で魔獣を消し去ることができるはずだから。

 つまりはもっとも相応しい場所であると。

 そう思った直後、周りにいる対魔獣師団の「ここだと工作員の居場所がわかりにくいんじゃないか?」「ああ、確かにあいつら我々並みとはいかなくても素早いからな。きっと、こんなに沢山の木々で囲まれた公園内で大胆に動かれたらきっと捕まえられないだろうよ」「ふう、なんだってこんな場所を選んだんだ……」という会話でその考えは甘いと理解してしまうが。

 そして、素人の浅知恵はここまでにしておこうと深く反省も。

 ただし、旦那様が顔を寄せてこられ「あれはわざと周りに聞かせているんだ。工作員を炙り出すためにな」と、わざわざ説明してくださったことで少しだけ自信を取り戻すことができたけれど。


「そうだったのですか。では、工作員は捕まえれるということですね」

「いや、顔をビデオカメラという最新の機械で撮影するだけだ。もちろん実験の邪魔もさせる気はないが」

「えっ、どうして……って、あっ、逃がした後に外交手段として使うと。でも、大丈夫なのでしょうか……」

「シラを切られてもか? それなら問題ない。要は向こうがした事がこちらにバレている事を理解させればいいのだからな」

「あくまで和国と溱璽国は魔獣討伐が目的だから……」

「ああ。だが、それだけでは納得しないだろうからな。だから魔獣を消し去る装置一式も送りつけてやるんだ。現物がくれば愚かなことを考える必要もなくなるからな」

「和国と溱璽国を攻める理由がですね」


 そう呟いた後、私の頬は思わず緩んでしまう。

 なぜって心配していた戦争を回避でき、魔獣のいない平和な世の中を想像以上に早く実感できる可能性があるとわかったのだから。

 しかも残り少ないとはいえ自分が生きている間に。


 旦那様と一緒に……とは、もちろん思わないけれど。


 そして、だからこそと両手を胸の辺りにゆっくりと持っていきも。首飾りにした犬鬼灯の花が装飾された指輪の感触を感じながら誰にも聞こえないぐらいの声量で「幸せになって下さいませ」と。

 心の中で知らないお相手との幸せを祈りながら。


 「やあ、二人とも来たようだね」


 こちらに歩いて来られる岩倉様に気づくまでと、私はすぐに挨拶する。


「岩倉総大将、本日はどうぞよろしくお願い致します」

「どうも……」

「くっくく、温度差が激しい夫婦だな」

「揶揄わないで頂きたいですね。で、どうなのです?」

「既に二人目星がついている……が、まだまだいそうだ」

「そうですか……」


 旦那様は腕を組んで考え込まれるが、私を一瞥すると、すぐに口を開かれる。


「もう人数は十分じゃないでしょうか?」

「いや、締め出したりはせんぞ。変に勘繰られたくないからな」

「しかし……」

「大丈夫だろう。公園の外と工作員は我々和国軍がしっかり見張り、対魔獣師団は九条夫人と伊野淵親子、そして装置の守備に専念すれば。それとも自信がないのかね?」

「そういうわけではありませんが……」

「なら、決まりで良いじゃないか。なあ?」


 こちらに同意を求めるので頷くと旦那様は途端に岩倉様を睨まれる。

 ただし、岩倉様の続けての言葉に苦虫を噛み潰したような表情に変わられたが。


「それに、さっさと終わらせて夫婦水入らずで楽しく新婚旅行に行けばいいじゃないか。まだ行ってないのだろう?」

「それは、まあ……」

「なら、頑張らないとじゃないか。だろう? 九条夫人」

「私は怪我なく無事にいて頂ければ良いですから……」

「おや、そこは同意でいいのだがね」

「もちろん新婚旅行が間違いなく楽しいものになるのは同意致しますよ」


 すると旦那様は探るような視線をこちらに向けられる。

 しばらくした後に岩倉様の方を向かれてしまったが。今まで以上に真面目な雰囲気で。


「岩倉総大将、雑談はもう終わりで」

「なんだ、これも周りに仲良く見せるためのものなのだがな」

「それでも終わりで。そろそろ時間ですし」


 「ふむ」と、岩倉様は公園の時計に視線を向けられるとやっと納得される。「では、仕方ない。そろそろ手筈通りに……」と周りにいる部下達に目配せし、設置された壇上の方に歩き出されも。

 後ろに私達を引き連れて。何せ溱璽国から来た旦那様と和国軍の甲斐第一隊長、二人の仲の良さをパーティー会場に招いた客人……そして他国の工作員に見せるお芝居をしなければならないから。

 まあ、ただし一方的に岩倉様が喋るだけで私達は笑顔を振りまいていればいいだけなのだけれど。特に記者の方にと思っていると伊野淵博士と星羅様がこちらに歩み寄ってこられる。対魔獣師団を引き連れ。


 いいえ、既にお二人はお役目が終わり対魔獣師団は魔獣を消し去る装置を今は守っている感じかしら。


 そう思いながら対魔獣師団に囲まれている荷台の上にある布に覆われたものを眺めていると星羅様が笑顔で声をかけてくださる。


「優月様、今日は来てくださってありがとうございます。それと面倒な事も押し付けてしまって」

「いいえ、私なんかが名誉あるお仕事に携わらせて頂いてますから感謝しておりますよ」

「優月様……わかりました。貴女様の気持ちに恥じない仕事を致しますね。それと九条様、しっかりと奥様をお守り下さいよ」

「言われなくても守るさ。この命にかえても」

「旦那様……」


 そこまで言われなくてもと思っていると今度は甲斐様の声がどこからともなく聞こえてくる。「そんなの当たり前だろう。むしろ怪我なく無事に帰らせるぐらい言え」とも。

 旦那様は振り返り、いつの間にか後ろにいらっしゃった甲斐様に言い返すこともせず頷かれるだけだったが。


「ぐっ……少しは言い返せよ」

「今の言葉には心から同意できたからな」

「ちっ、ならしっかりやれよ」


 甲斐様はそう仰られると私に軽く会釈し岩倉様の元に向かう。


「甲斐 一郎、到着致しました」

「ご苦労、甲斐第一隊長。早速だが今日は頼むよ」

「わかりました……が、本当に大丈夫なのですか?」

「何がだね?」

「何がってパーティー客も沢山いる中で人為的に魔……アレを出すなんて」


 甲斐様が途中から私達以外に聞こえないぐらいの小声になられると岩倉様も声の大きさを落とされる。


「なに、工作員がどうせやるんだからこちらで先にやっても問題なかろう」

「しかし、招待客には他国の者も……」

「工作員を送って来ているんだからそこは覚悟してもらわないとな。まあ、関係ない国には申し訳ないが」

「はあっ、国際問題にならなければ良いのですが」

「それこそ問題ないだろう。全部、工作員がやったことにすれば良いのだからな」

「それならばやはり一人ぐらいは捕まえた方が……」

「そこも問題ない。魔獣が出た直後、私の直属の部下が簡易結界が工作員の手によって壊されたと叫ぶから」

「タチが悪いですね」

「だから君らに詳しく説明しなかったのだよ」

「全部背負うからですか?」


 旦那様が横から口を挟むと甲斐様は驚いた表情をされる。


「岩倉総大将、どういうことですか?」

「いわゆる世代交代ってやつだよ」

「はっ、な、何を仰っているのですか!?」

「こら、声が大きいぞ」

「す、すみません。ですが……」

「別に引退するわけではない。君らに席を譲った後、外交に力を入れるだけだ。要は少し下がるだけだと思ってくれ」


 すると会話を聞かれていた伊野淵博士が苦笑しながら話に加わってこられる。


「外の方が大変になるわけだから全くもって世代交代になってない気がしますが……まあ、だが、岩倉総大将が後ろに下がるということは和国が平和になったと宣言したことにもなりますからね。良い宣伝にはなるはずですよ」

「あ、なるほど。確かに……」

「まあ、そういうことだからよろしく頼むよ。君達」


 私はもちろん「はい」と頷く。旦那様と甲斐様は無言で頷かれるだけだったけれど。

 ただし、前ほどの険悪な雰囲気はなかったので誰も気にされる様子はないが。

 いや、しばらくして星羅様が溜め息を吐かれる。


「ふう、全く本当に上手くいくのでしょうね? 岩倉様」

「もちろん問題ない。要は一番の課題さえ解決すれば良いのだからな」

「まあ、確かにそうはなりますけれども……」


 星羅様があまり納得されていない様子でそう呟かれると旦那様が荷台に乗った装置に視線を向けられる。


「問題ない。我々が全力でそれを守るからな。ただし、それが本物ならの話だが」

「ふふ、バレていたのね」

「ああ、ちなみにあの壇上に隠しているのもバレているぞ」

「だって、発表前にあれが壊されたら最悪でしょう?」

「あの、もしも壊されてしまったら全て終わりになってしまうのですか?」


 思わず私が口を挟んでしまうと星羅様は首を横に振られる。


「使用する機材が希少なものを使用してますけれど再び作成することはできますよ。ただし、魔獣に襲われない世界が数ヶ月先に伸びてしまいますが」

「それは絶対に死守しなければなりませんね」

「ええ、だからこそ九条様、甲斐様そして皆様には改めて……」

「任せておけ」

「和国軍が命に代えてもお守りします」

「ふむ、伊野淵嬢は私より人徳があるようだな……」

「私ではなく対魔獣消滅機一式がですよ、岩倉様」

「くっくく。では、そういうことに」


 岩倉様は苦笑しながら頷くと再び壇上の方に歩き出す。すると待っていました言わんばかりに音楽隊が軽快な曲を流し出したのだ。もちろんパーティー会場にいる人達を振り向かせるため。

 それと他国の工作員を炙り出すためと思っていると早速、旦那様が見つけられたらしく招待客の二人組に「怪しいな」と視線を向けられる。

 まあ、私も気づいていたが。何せ二人組の男女がなぜか壇上から離れ始めたから。しかも簡易結界の側に近い位置に。

 ただ、間にはかなりの数の和国軍がいたので安心していたけれど。


 それにどっちみちあの簡易結界は時期が来たら破壊するのだから。


 そう思って視線を戻すと旦那様が顔を寄せて来られ「私の側を離れないように」と。しかも肩に手を回され身体が密着するぐらい引き寄せてこられる。

 私は前のように取り乱すことはなく冷静に胸元に手を置きながら旦那様に顔を向けたが。


「はい、ご迷惑をかけないように致します。あの、ですがこれだと何かあった時に旦那様が動きにくいかと」


 更にはそう言うと旦那様は「す、すまない」と慌てて離れられる。

 ただし、今度は私の方がそっと近くによると驚かれた表情に……いや、すぐに真面目な表情に変わられるなり私を気遣いながら壇上へと歩き出されたが。もうすでに始まっていたので。司会者の話が。


「皆様、本日は溱璽国と和国で協力して作られた秘密兵器の発表会にお越し頂きありがとうございます。早速、発表の方をしようかと思いますが……やはりというかその話は代表者にお願いするのが一番ですよね。もちろん和国軍の総大将に」


 司会者がそう言うと岩倉様が周りに軽く手を振りながら壇上に上がられる。


「皆の者、代表者といっても私は面倒な事を受け持つだけの嫌な立場だ。つまりは本当の代表者は間違いなく秘密兵器を作られた伊野淵博士、そして星羅嬢だろうよ。ああ、それと和国と溱璽国の仲を深めてくれた彼女もかな」

「彼女……ですか?」


 司会者はわざとらしくどこだろうと辺りを探した後に私達を見る。


「これは和国軍の甲斐第一隊長に溱璽国から来られた対魔獣師団の九条第二師団長とそのご婦人……えっ、まさか彼女とは九条夫人のことなのですか?」

「ああ、和国出身であり今は溱璽国から来た九条第二師団長の妻になられた九条夫人のな。何せ九条夫人は和国軍と対魔獣師団の仲をとりもってくれたのだから」

「えっ、あの仲が悪い……あ、失礼。それは凄いですね。でも、その問題と今回の件……特に代表者にいったいどのような関係があるのです?」

「それはパーティーで和国軍と対魔獣師団の両方を呼んでもてなし、時には叱咤激励することで和国軍と対魔獣師団の間にわだかまりがなくなり間に挟まれていた伊野淵親子の研究が飛躍的に上がったからだ」

「なるほど。それは立派な功労者、そして代表者ですね!」

「ああ、しかもな……」


 それから岩倉様はしばらく話を続けられる。もちろん作り話を。ただ、効果はかなりあったようで会場にいた方達のほとんどが関心した表情を私に向けてきたが。今日のパーティーで一番重要な話が近づくまで。


「……なるほど、それで今では英雄と呼ばれる甲斐第一隊長と九条第二師団長の間にも友情が生まれたと。では和国軍と対魔獣師団が仲が悪いと噂が立ってましたが今は大丈夫なのですね?」

「ああ、全くない。ほら、今日だって一緒に我々を守ってくれているだろう。だから、今日は安心して発表できるわけだよ。この秘密兵器……対魔獣消滅機一式をね」


 そう仰り、岩倉様が偽物が乗った荷台を指差すと会場中から拍手と歓声が巻き起こる。すぐに司会の話で止まるが。


「対魔獣消滅機一式! そ、それが魔獣を倒せる装置なのですか!?」

「ああ、そうだ。ちなみに実験も既に成功している」

「それでは和国と溱璽国はこれから平和になるということですね!」

「いや、違う。和国と友好国の溱璽国だけではなく他の国もだ」

「えっ、それはどういうことです?」

「この対魔獣消滅機一式の製造方法は全て開示し、なんなら少ない数なら和国で製造して送ってもいいということだ。もちろん会場にいる貴殿の国にも」


 岩倉様がそう仰られた直後、会場中にどよめきが巻き起こる。


「い、今の話は本当か?」

「和国軍の総大将が言われているのだから間違いないだろうよ」

「無条件で対魔獣消滅機一式の製造方法を我々の国にも教えてくれると。それに装置も……」


 ただし、それでも動き出す者はいたが。


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