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桜絡廊(おうらくろう)公園の花は旦那様に愛されていることに気づかない  作者: しげむろ ゆうき


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 「お二人ともお帰りなさいませ。奥様、お身体の方は大丈夫だったのですか?」と、石さんがわざわざ出迎えてくれるだけでなく、心配する様子も見せてこられたので。

 嘘吐きの部外者にと、私は無言で微笑む。

 だって、これならば今回は嘘はついていないので。

 今回だけは……と痛む胸に手を当てていると石さんはいつも通りに肯定と受け取られる。


「良かったです。じゃあ今後のお食事は旦那様と同じ感じにされますか?」


 更にはいつも通りの質問もと、私は首を横に振る。続けて会話を終わらせる言葉を口に出しも。「……いえ、今までどおりでお願いします。あのお料理は凄く食べやすいので」と。

 石さんの「わかりました。では、そのように致します」という返事を期待しながら。

 いつものように、そう思っていると石さんは案の定、頷いてこられる。

 「わかりました。では、そのように致します」と。

 ただし、今までと違いこれで会話は終わらなかったが。石さんが続けて仰ってこられたから。しかも困った様子で。


「あの……それで、話が変わるのですが実は今、岩倉 時政様が来られてまして。旦那様はいらっしゃらないと伝えたら、では奥様をと……」

「私をですか? 用件はどのようなものでしょう?」

「それが旦那様か奥様がいないと話せないと」

「なるほど。それならば早く行かないといけませんね」

「え、ええ、そうなのですが……ただ、いらっしゃるのは岩倉様だけではないのですよ。甲斐様という怖そうな方もいらっしゃって……」

「甲斐様? それなら大丈夫ですよ。とても優しく尊敬できるお方ですから」

「そ、そうなのですか?」

「はい」


 私が頷くと石さんは安堵した表情で胸を撫でおろされる。


「良かった。それなら奥様が向かっても大丈夫そうですね。では少し時間が経ってから向かうと伝えておきますか?」

「いいえ、このまま向かいます。これ以上、お待たせしても悪いですから」

「確かにそうですね。では後ほど飲み物をお持ち致します。ああ、ついでに匙裏さんも何か飲まれますか?」

「はい。ただ、私も一緒に奥様について行きますので応接室に持ってきてください」

「匙裏さん……。でも、中で会話した内容は私が後ほど旦那様にしっかりとお伝えを」


 そう言うと匙裏さんははっきりと首を横に振られる。嫌でも理解できてしまうほどにわかりやすい言葉で「そこまでしなくて大丈夫です。そういうのは私に任せれば良いのですから」とも。


 つまりは先ほどのことも踏まえ、九条家でもうやるべきことはなく、残りは運命の日をただ待てばいいと。

 自他共に認めるお飾り妻として。

 いいえ、もう本当は妻としても全くもって役立てていない……


「さあ、参りましょうか」

「はい……」


 なので、その後の私は力なく応接室に向かうしかなかったのだけれど。匙裏さんの後ろを人形のように考えることなくついていきながら。

 ただし、中に入るなり匙裏さんより一歩前へと出るが。


「お待たせ致しました」


 何はともあれ仕事なのでと頭を下げると岩倉様が首を横に振ってこられる。


「いや、無理矢理押しかけてすまない。どうしても早めに話をしておきたいことがあってね」

「あのう、私で大丈夫なのでしょうか?」


 匙裏さんの方を気にしながら尋ねると岩倉様が笑みを浮かべられる。


「むしろ君じゃないと駄目だろうな」

「私でなければですか?」


 思わず首を傾げてしまうと甲斐様が突然立ち上がり岩倉様を睨まれる。


「やはり、私は反対です。一般人を……しかもか弱い女性を危険な目に合わせるのは。彼女は伊野淵嬢とは違うのですよ」

「だが、こうでもしないと和国と溱璽国が手を取り合う機会は一生こないぞ」

「別に私は……」

「構わないという言葉はやめてくれ甲斐第一隊長。それに恐れずに魔獣を倒した君と九条第二師団長には手を取り合って魔獣を倒したという英雄になってもらわなければならないのだぞ」

「虚構の英雄ですか。なぜそこまでして両国の仲を取り持とうと……」

「それは魔獣の脅威が去った後、次の脅威を回避するためだよ。九条夫人、君ならば今の会話でわかるだろう?」


 学校の先生のような雰囲気で岩倉様が視線を向けてこられる。もちろん理解できた私はすぐに頷いたが。


「他国の脅威。それも溱璽国のではなく……ですよね」


 そう即答も。

 ただ、そう答えた直後に「ど、どういうことですか?」と甲斐様が驚いた表情を浮かべられた為、正確かどうかは聞くことができなかったけれど。

 そして、自分がもしかしたら間違えたことを言ってしまったのではと徐々に不安も。

 すぐに岩倉様が「魔獣の脅威が去った土地……こう言えばわかるだろう」との言葉で良かったと胸を撫で下ろしたが。

 それは納得された表情を浮かべられる甲斐様も。


「ああ、なるほど。魔獣から解放され平和になった土地なら誰でも欲しがると……」

「そうだ。だから早く問題を解決して対応策は考えなければならないのだよ。狙われる和国と……溱璽国はね」

「ちょ、ちょっと待って下さい。なぜ溱璽国もなのですか?」


 「それはだね」と岩倉様は身を乗り出してこられる匙裏さんの方に向き直られる。


「魔獣を駆逐する装置やそれ以外の極秘情報もあるだろう。それが目当てだからだ」

「そ、そんなのは実験が成功すれば他国にも配られるとわかるでしょうが……」

「だが、和国と溱璽国が仲違いしていたら確実に提供されるなんて誰も信じないだろう?」

「だから奪ってしまえと……」

「ああ、魔獣の脅威が去った国とその装置を作った国をな」

「し、しかし、その考えはあまりにも安直すぎませんか?」

「いいや、安置じゃないぞ。最近は魔獣の脅威が強くなり各国でも被害が甚大になっていて焦っているらしいからな」

「だから各国はこの実験に注視している。そして、ついでに和国と溱璽国の仲もですか? でも、やはり……」

「前回、魔獣を引き入れたのは他国の者だったと言ったら? まあ、ほとんど痕跡は消されてしまったが」

「えっ、そ、それって重要機密なのでは……」

「そうですよ岩倉総大将! 更に一般人を巻き込むのはやめて下さい!」


 しかし岩倉様は気にされる様子もなく続けて仰ってこられる。今度は私の方に向き直られて。「だがもう言ってしまった。だから、関わってもらう。特に九条第二師団長の妻になった君にはね」と。

 立場的にまずいので少しだけ頭を下げらてこられ。

 ただ、そんなことをされてもやはり「私をですか……」と呟くしかなかったけれど。本当に自分なんかで大丈夫なのだろうかと。


 契約だけの存在が……


 そう考えているとやはり同じように疑問を感じたのであろう、匙裏さんが慌てて間に入ってこられる。


「だ、旦那様だけではいけないのですか? 和国との友好関係を気づく事は何回もしたと思いますが……」

「確かに九条第二師団長の功績は大きい。だが所詮は溱璽国……他国の者だ」

「だから溱璽国の者の妻になった和国出身の優月様に間に入れと?」

「ああ、そうだ。九条第二師団長と甲斐第一隊長の間をとりもち友情を産ませた女性としてな。その方が二人が戦う中で仲良くなったという話より信憑性が強くなるだろう?」

「確かに今の状況を考えるとそうですが。でも、それぐらいじゃ……」

「魔獣を駆逐する装置が完成したら装置や武器、そして脅威の情報を一緒に和国中に流す。世間の考えは更に傾くさ。甲斐第一隊長、違うか?」

「……いえ、確かに和国軍はもう何も言えなくなります」

「だろう? そうなればやっと僻んでいる連中も耳を傾けるだろう」

「本当の脅威は何処から来るのかをですか……」


 匙裏さんの呟きに岩倉様は頷く。


「まあ、そういうことだ。だから甲斐第一隊長、頼むよ」


 甲斐様は腕を組み目を閉じる。

 しばらくすると渋々とした表情を岩倉様に向けたが。


「理由は分かりましたが私の代わりに平井第二隊長では駄目なのですか? 彼なら喜んでやると思いますが」

「魔獣を倒した数が圧倒的に多い君にやってほしいんだ。英雄が言えば皆黙るだろう」

「しかし……」

「両国の将来のためだ。それならばやれるだろう? 九条夫人、君もそう思わんかね?」

「もちろんです」


 私が即答すると甲斐様が岩倉様を睨まれながら眉間に皺を寄せられる。「……本当にいいのですか? この人に利用されていますよ?」とも。


「和国と溱璽国がそれで平和になるなら」


 更には内心、残り少ない命を役立たてられるならと答えると今度はこちらをじっと見つめてこられるが。


「おそらく危険な目に遭うかもしれません」

「危険ですか?」

「次回、再び同じようなパーティーをやるつもりです。しかも今度は魔獣を駆逐する装置の完成披露パーティーを」

「魔獣を駆逐する装置の完成披露パーティー……」


 星羅様とドライブに行った時にした会話を思い出していると、今度は甲斐様の言葉を引き継ぐように岩倉様が仰ってこられる。


「ただし、披露する前に両国の絆が深まるよう九条第二師団長と甲斐第一隊長の間をとりもち友情を産ませた女性として君を紹介するつもりだ」

「旦那様は知らないのですよね?」

「この作戦の重要性を多分一番理解しているだろうから断らないだろうよ。まあ、ただし問題は君だがね。何せ、会場は前回以上に厳重になるが我らがいる範囲だけ手薄にするからな」

「……罠を張るからですか」


 私が間髪入れずにそう言うと匙裏さんが驚いた表情をされる。


「ど、どういうことですか?」

「次回やるパーティーは魔獣の駆逐と犯人を捕まえるのを両方やるから……いいえ、違いましたね。装置を披露するからこそ賊に確実に狙われてしまうということです」

「なるほど。だからこそそうなるならこちらから罠を仕掛けてしまえと……。し、しかし、旦那様は奥様が介入されるのはきっと嫌がりますよ」

「……わかっております」


 所詮は役立たずだからと内心で付け足していると突然、扉が勢いよく開く。

 そして険しい表情の旦那様が現れるなり岩倉様に詰め寄られも。「いったい何の話をしているのですか?」と。

 ただ、岩倉様は飄々とした表情で肩をすくめられるが。「だいたい察しはついているだろう?」とも。

 旦那様はそれでも首を横に振られるだけだったけれど。


「装置の完成披露パーティーの話だ。九条夫人には君ら二人の間を取り持つ役割になってもらう許可は得ている」


 そう岩倉様が仰られる前まではと、旦那様は驚いた表情をされる。


 「はっ?」


 そして、すぐ岩倉様を睨まれも。

 「優月、脅されたのか?」と、誰にでもわかるぐらいの怒りを滲ませ。

 ただし「違います。私の意思です」と返事をすると、驚きと不安気な表情でふりかえってこられたが。


「だが、パーティーに出たらまた危険な目に遭うのだぞ? 私は絶対に反対だ」

「でも、それでも行くと決めていますので」

「優月、どうしてそこまで……」

「誰一人として魔獣の脅威にさらされない世界を作るためです」

「くっ、どうして君は……」


 旦那様は俯きながら一歩下がる。

 しばらくして諦めた表情で頷かれたが。


「わかった。ただしパーティーの日は優月、君を優先的に守る。いいですね、岩倉総大将」

「構わんさ。ただ、甲斐第一隊長と当日は仲良くしろよ」

「フリだけでいい」


 甲斐様が口を挟むと旦那様は仕方ないという表情で頷かれる。

 それからすぐに応接室の扉の方に視線も。


「では、もうよろしいでしょうか。私は帰ってきたばかりで疲れていますので」

「わかったわかった。邪魔したね」


 苦笑しながら岩倉様は立ち上がられる。

 それから私に会釈すると応接室を出て行かれも。旦那様を人睨みする甲斐様と共に。

 ちなみに旦那様は気にする様子もなくドアがしまると同時にこちらに再び顔を向けてこられるが。「……すまない。もっと早く戻れたらこんなことには」と。

 もちろん私は首を横に振るが。


「何を仰っているのですか? 名誉あるお仕事を頂けたのですよ」

「しかし先ほども申したように危険なのだぞ」

「承知しておりますし、だからこそ早めに魔獣との戦いに一区切りつけないと」

「優月……そうだな」


 旦那様は噛み締めるように何度も頷く。ただ、すぐに思いだしたように手を打ってこられたが。


「そうだ、岩倉総大将のせいで忘れるところだった。君にこれを見せるために早く帰ってきたんだ」


 更にはそう仰られるとポケットから一枚の紙を広げられて。


「貴金属店の案内……」


 しかも実家の近所にあるお店だと思っていると旦那様が頷いてこられる。


「いつも留守番ばかりさせているから何か良いものがあればとね」

「私に……別にいつも頂いておりますので」

「も、もちろん全てが終わった後のことも考えておこうかと思ってね」

「ああ……」


 私は意味を理解して笑顔を作る。


「素敵な考えですね。きっと喜ばれますよ」

「君がそういうなら間違いないだろうな。よし、では明日は休みを取っているから一緒に行こう」

「わかりました……」


 運命の日が迫ってきたのを実感しながら頷くと旦那様が微笑んでこられる。


「ちなみにこの指輪の中で優月はどういうのが好みなんだろうか? ああ、もちろんオーダーメイドで作ってもらうつもりなんだが」

「それならば旦那様が良いと思ったものが一番かと」

「そうか? だが私のセンスではな……」


 悩む様子の旦那様に私は精一杯の笑顔を見せる。


「平和をもたらした英雄に送られるものなら誰だって嬉しく思います。だから自信をお持ち下さい」


 すると旦那様は先ほどとはうってかわり真剣な表情に変わる。


「ああ、わかった。だから……待っていてくれ」


 それから拳を握りしめて窓の外を見つめられたのだ。

 きっと装置の完成披露パーティーの日を考えられているのだろう。魔獣が和国からいなくなる日を。世界の脅威が消える最初の一日目を。もちろん私にとっても終わりの日を。


 でも、それでも……


 旦那様には愛する人とは幸せな生活を送ってほしい。

 だから私は心の中で願い続けながら精一杯の笑顔を旦那様の横顔に向けるのだった。


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