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記憶か、才能か

 あれから数日してレインも新しい家族に慣れてきた。

 そして今日も3人はいつも稽古している庭にいる。


「はいちゅーもーく。今日から魔法の練習を始めようと思います」


「「おおーー」」

 

 憧れの魔法という事でどちらも興奮している。

 レインは数々の異世界を渡り歩いたが魔法を使ったことが無い。

 ソフィアはこれまで魔法を散々見せびらかされたのに教えてもらえなかったからだ。


「まず魔法には属性があります。炎、水、風、雷、地、光、闇の計7種類」


 そう言って彼女は1つ1つ各属性の魔法を見せていく。

 それを2人は目を輝かせてみている。


「それで、難しさを初級、中級、上級、超級で分けてるの。超級魔法を使える人間は3人くらいしか見たことないから相当難しいと思うよ」


 レインは彼女のその言い回しを少し疑問に思う。


「ママは使えるの~?」


「ふっふっふー、勿論だとも」


 いつもよりも発動に時間をかけて魔法を使う。

 それも微々たるもので誤差の範囲だったが。


 遥か上空で炎と水が形を帯びていく。

 大きな1対の羽と尻尾を持ったそれは生態系のトップであるドラゴンだった。


「「……」」


 2人はただ茫然と眺めるだけだった。

 そしてエマは誇らしげな顔をする。


「ねえ、レイ。もしかして私たちのママってやばい?」


「うん、多分かなりヤバイ」


 魔法をあまり見たことが無く良し悪しの判断もできない2人だがこれが普通ではないことは感じ取れた。

 視線の先の2匹のドラゴンは少しの間見せびらかすようにそれを飛ぶと端から形が崩れていった。


「「……」」


 ありえない光景を見せつけられて放心状態になる2人。

 

「どうだった?」


 エマのその言葉で我に返る。


「ねえママ!早くそれ教えてよ!やりたいやりたい」


「えぇー、今のはまだ難しいよ。初級からね」


「うん!」


 そう言って魔法を訓練が始まった。


「まず魔法を使うにはイメージが必要なの。炎を出したかったら頭の中で炎出ろーって感じでやると、ほら」


 エマの手のひらに炎が出てくる。


「「???????」」


 勿論この説明で分かるわけがない。

 エマは練習などしなくても魔法が使えたので教えるのが圧倒的に下手なのだ。


「わかんない?こう、なんて言ったらいいのかな。炎ーって感じ」


「「???????」」


「レイ分かった?」


「うんん。全く」


「なんで?」


 この説明だけで魔法が使える訳がないのだ。

 今教えたのは属性の付け方。魔法の出し方というのは自分の持っている魔力に属性を付けて出すというものだ。

 その魔力を出す、という事を2人は知らないから魔法が使えないのだ。

 そんなみんな困惑した場に救世主が現れる。


「魔法については僕が教えるよ」


 さっきまで自室で研究に励んでいた父のオーディだった。


「エマはその……感覚派だからね」


(言葉選んだなぁ) 


 こうして教師役が変わった。



 

 数時間の練習が終わる。疲れ果てた2人は自室のベットに横になっていた。


「魔法練習してみて分かったけどさぁ」


「うん」


「ママってやっぱりやばかったね」


 魔法の練習を始めてまだ数時間。それでもレインたちは母親の異常性に気づく。

 あれを見せられるとレインは自信を失ってしまいそうになる。


「あんな早く魔法発動できないよー」


 ソフィアが枕に顔を(うず)めながらそう嘆く。

 数年も練習すれば1秒足らずで発動できるようになる。

 だがそれは初級、あっても中級までだ。それが超級ともなればありえない。

 本当に人間なのかと疑われるだろう。事実エマは何度も言われたことがある。


「でも、そんな人がいるって思うと最高の環境だね」


「なに大人ぶってるの?」


(合わせたら30歳は超えてるんだよ)


「そうだ!良いこと思いついた」


 ソフィアは満面の笑みでレインを見つめる。


「どっちが魔法うまくなるか勝負しようよ」


「……いいね。それのった」


 レインも乗り気になる。

 剣の腕はソフィアの方が上なので魔法で競う。

 前世のおかげで剣の腕には自信があったがソフィアに負けてかなり落ち込んでしまった。

 実はソフィアは無意識のうちに身体強化の魔法を使っていたので負けて当たり前なのだがレインは知らなかった。

 そのことがあってエマはあの説明で魔法が使えると思っていたのだ。


 


 そんなこんなで魔法の競い合いが始まった。

 時間が経つとエマもそれに気づいてきて対人戦の稽古はレインとソフィアで行うようになった。

 それは今日も例外ではない。

 広大な庭に木剣がぶつかり合う鈍い音が響く。

 それだけではない。定期的に多種多様な魔法の音もそこにはあった。

 まだ2人のレベルだと魔法を使うのに時間がかかるので剣術に集中しすぎると魔法を使うのを忘れてしまう。

 それを矯正するための訓練でもあるが。


「あ゛~勝てね~」


 レインは雲1つ無い青空を眺めながら言葉を零す。

 そこにソフィアが近づいてくる。


「まだまだ弱いねー」


 余裕ありげなその言葉に彼の闘争心に火が付く。

 これまで何百回と戦ってきたがレインが勝てたことは一回もない。

 彼には前世で軍人だった過去を持つ。勿論戦闘訓練だってしてきたので知識はある。

 だがその知識で勝てるほどフィジカルの差というのは小さくない。

 この年頃の1歳差というのは思っている以上に大きい。魔力が最も増える時期でもあるからだ。

 だがそれ以上に才能の差を痛感していた。


「こら、煽んないの」


 エマは彼女の頭を木剣でベシっと叩く。

 わざとらしく頭を押さえてうずくまるのを横目に後ろからレインに抱き着く。

 

「後でまた私の部屋においで。何で勝てないのか教えてあげる」


 彼女はソフィアには聞こえないように耳元で囁く。

 レインとしても行かないという選択肢はなかった。




 隣のベットでスース―と規則正しい寝息を立てている彼女を起こさないように物音を立てないように移動する。

 部屋の中ではまた両手から魔法を出しているエマがいた。

 ただ前に見た時よりもどこか生き生きしているとレインは感じた。


「お、来たね。とりあえず座りなよ」


 そう言ってベットを手で軽くたたく。

 

「じゃあ早速、エマの特別授業ー。パチパチパチ~」


 深夜という事もあってかなり声を抑えて話す。

 授業形式でエマは黒板に字を書くように空中に魔力を出して字を書く。

 魔法の練習を始めた今なら分かるその見事な魔力制御術にレインは驚きを隠せない。


「とりあえず本題から。レイが勝てないのはソフィが固有魔法を無意識のうちに使っているからなんだ」


「固有魔法……?」


 初めて聞く言葉にレインは首を傾げる。

 地球での知識として聞きなじみはあるがこれまでの経験として同じ認識だとは思っていなかった。


「そう、固有魔法って言うのはその人にしか持ちえない魔法。似た魔法はあるけどね」


「固有魔法がない人もいるの?」


「うん、そうだよ。というか持ってない人が大多数だね」


 彼女は固有魔法というややこしい魔法の説明を丁寧に説明する。

 魔法とはイメージして使うもの。だからと言って自分の持っていない固有魔法はイメージしても使えない。

 なぜならイメージしてもその魔法を具現化させる力を持っていないからだ。

 地球に住むものが魔法を使えないのと似た原理だ。

 少し違う点は地球の人間は()()()使()()()()()から魔法が使えないのだが、それを知る者はこの世で1人しかいない。

 

 

「それで姉さんの固有魔法って何なの?」


「うーん、私も見ただけだたら分からないけど身体強化系だと思うよ」


「身体強化って誰でも使えるよね?」


「なんて言ったらいいんだろうな、『身体強化』の魔法を強化する魔法、みたいな」


「ややこしいなぁ」


「こういう固有魔法ってよくあるんだよ。炎魔法の強化だったり、いろいろ。今の極華憐がそうだったと思うよ」


「ゴッカレン?」


 聞きなじみのない言葉を声に出す。


「あれ、まだ教えてもらってなかった?簡単に言うと1人で戦争を終わらせることのできる人だね」


「人なの?それ」


「まあ、ギリ」


 2人そろって苦い笑みを浮かべる。


「それで姉さんに勝つにはどうしたらいいの?」


「ん?固有魔法を持っている人には基本勝てないよ」


「え……もしかして俺も固有魔法持ってるとか……ある、かな?」


「さぁ~それはやってみないと分からないな~」


 エマは笑みを零す。今の一言で息子が事実にたどり着けることが嬉しくて。

 今日からレインの練習項目が増えた。

 今までやっていた事はもちろんやる。

 それにプラスして固有魔法を探すという途方もない努力の始まりだ。

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