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4-18 誰も話を聞いてやいない─ガリ勉娘は恋より勉学に励みます─

生まれたときから親がいなく、修道院で育てられたカリサ。医者になるために王立学院に入学したのはいいものの、貴族の皆は惚れた腫れたにうつつを抜かして、平民出身のカリサを馬鹿にしてくる。

同じく馬鹿にされている同級生のクレメンテを庇っていたら……彼は実は王子様? しかも怖い婚約者がいる?

何故か婚約破棄騒動に巻き込まれてしまうが、学費がもったいないから頼むから勉強させてくれと、カリサは逃げ惑いながら勉強する羽目になる。


ざまぁも逆ざまぁも勘弁願えますかと、ひたすら勉強したいカリサの苦難の学園生活の行く末は。



「あんなにうだつの上がらない子が、アンドレア様の婚約者に横恋慕?」

「仮にも王族に対して、平民でしょう? あの子は……」

「恥知らずにも程がなくって?」


 拝啓 司祭様


 お元気ですか。

 カリサは元気に王立学園で勉強しています。

 修道院ではなかなか勉強できないことも、王立学園ではよく学べます。図書館司書に頼めば稀少な本も閲覧することができ、教師に質問すればいろいろ教えてくれます。

 カリサは幸せです。


「……なんて手紙、皮肉にも程があるもんなあ」


 王立学園のどこに行っても白い目で見られる私は、すっかりと図書館に引きこもりになってしまった。

 授業には出て、寮には帰るものの、それ以外の視線がうっとうしかった。



 元々私には親がおらず、気付けば修道院にいた。

 なんとか下働きをして生活できたものの、うちに赴任してきた司祭さんが気の毒がって、読み書きを教えてくれた。

 読み書きができると、自分にとっては置物だった聖書も読めるようになる。私が勉強できることに気付いた司祭さんは、それはそれは私の面倒を見てくれたのだけれど、問題が発生したんだ。

 ……うちの地元に、流行病が蔓延した。

 地元の病院は富豪用で、平民ではとてもじゃないけれど治療費を出すことはできず、皆バタバタと死んでいった。病気で死ぬのは子供からだったけれど、生き残った子も親が死んでしまって孤児が溢れた。その子たちは修道院で預かることにしたのはいいものの、町に一歩出ればそれはそれは大変な様子で、流行病が過ぎ去ったあとも、その痛手は大きい。

 すっかりと人気ひとけのなくなった町を見かねて、私は司祭さんに言ったのだ。


「ここに平民でも治せる病院があったら、こんな思いをしなくっても済んだの?」

「そうだねえ……まずは病院を建てるお金があって、お医者様がいて、治療費を立て替えてくれる人がいたら、この町の人たちも助かったかもしれないね」


 実際問題、修道院も寄付とわずかばかりの内職……中庭のブドウでつくったワインやレーズンをたびたび売っている……でなんとかしているものだから、町の人全員分の治療費の立て替えなんて無理だった。

 せめて。心のあるお医者様がいたら……。そこで私は気付いた。


「司祭さん、私。お医者様になれないかしら?」

「カリサがかい? ……たしかに君だったら、この町では一番頭のいい子だからなれるかもしれないね。しかしお医者様になるとしたら、この町の学校よりももっといい学校に行かなければ……王立学園だったら、なんとかなるだろうね」

「どうやってそこまで行けばいいの!?」


 司祭さんは、わざわざ修道院の偉い人から推薦状を書いてもらえるよう手配して、なんとか私の王立学園行きを決めてくれた。修道院で預かっている年頃の子用の奨学金の準備までしてくれたのだ。



 そんな訳で、私は勉強するのに夢中なんだけれど。どうも王立学園に通っている人たちはそうではないようだった。

 入学式の際、たびたび声をかけられたのだ。


「あら、カリサさん。放課後はわたくしたちとお茶をなさいませんか?」

「ごめんなさい、私、次の授業のレポートのために図書館に行かないと行けませんから」


 王立学園は奨学金を駆使してやってくる平民はなかなかおらず、いるのはどこぞの豪商なり貴族なりばかりだ。

 そしてどうも貴族階級の子たちは、本気でこちらの都合を理解してないらしい。

 私が必死に勉強していても、彼女たちは余裕綽々で、私が必死で勉強した内容も彼女たちはお茶会して遊んでいても成績がよかった。

 どうも実家にたくさん家庭教師がいて、英才教育をばんばん施されていた結果らしい。そんな余裕が修道院の下働きのどこにあるというのか。司祭さんがなんとか時間をつくって教えてくれなきゃ、勉強なんてできなかったのに。

 だから授業についていくためにはどうしても自習が必要で、お誘いを断り続けていたら、向こうからはすっかりと「がり勉の貧乏人」というレッテルが貼られてしまった。本当のことだから仕方がない。

 そんな訳で、ひとりで図書館で勉強を続けている中。

 レポートを書くために本棚で本を探していると、「ヒッグヒッグ」と泣き声が聞こえることに気付いた。


「あら?」


 修道院で預かっている子たちの中でもたまにあった。悲しくっても悔しくっても、人前で泣いたら舐められる。舐められないように、これ以上いじめられないようにと、人目の付かないところに隠れて泣いている子はいるのだ。

 そういう子たちの相手もしょっちゅうしていた私は、放っておくことも良心の呵責にさいなまれ、捜しはじめた。

 やがて、外国語棚と歴史学棚の間で膝を抱えて座っている背中を見つけた。栗色の髪はへたり、同年代にしてはひどく華奢な男の子だった。


「どうしたの、こんなところで」


 思わずしゃがみ込んだ。こういう弱っている人を見下ろすのはよくない。視線を合わせようと屈むと、こちらをおずおずと振り返った。

 綺麗な空色の瞳で、なんだか溶けそうなほどの垂れ目の子だった。


「……ご、ごめんなさい……別に、泣いては……」

「せっかく立派な図書館なのに、誰も使わないものね。もったいない。貴族は好きなだけ本を買えるかもしれないけれど、平民からしてみれば置き場所には困るし、高いからこれだけの蔵書揃えられる人なんていないのに。ここ、私とあなた以外だったら司書さんしかいないわよ」


 私の物言いに、彼はようやく体をこちらに向けた。どうも小動物みたいな子だ。


「……平民ってことは、君はすごく頭がいいんだね?」

「……よくはないわ。私、自分ではもっとできるつもりだったもの。でもここにいる人たち、遊んでばかりなのにずっと勉強ばかりしている私よりもずっと成績がいいのよ……悔しいから、そんな人たちには負けられないもの」

「自分のことをわかっている人のことを、馬鹿になんてできないよ。今はどこの勉強をしているの?」


 どうもこの子は、おどおどしているけれど私が平民だからと馬鹿にすることはないらしい。こういう子には初めて出会ったから、なんだか新鮮だ。

 私は「第三次遠征の考察」と答えると、彼は立ち上がって本を数冊取ってきてくれた。


「この本が初心者向けで、わかりやすいよ。この本は最初の本を読んだあとだとより理解できるかな。こっちは最後に読まないとちょっとわかりづらいけれど、先の二冊を読んでからなら頭に入りやすいよ」

「まあ、順番まで……ありがとう。これでレポート書いてみるわね」


 私は出された本を順番に読んでから、さらさらとレポートを書いた。たしかにこの本一冊一冊だったらいまいちでも、順番に読んだらわかりやすい。

 彼は泣き虫な小動物な人でなく、頭のいい人なんだなあ……私は素直に感動していた。

 結局私は、彼がどこの誰なのか、どうして図書館なんかで泣いていたのかを聞くのを怠った。

 そして結果がご覧の有様だ。




「カリサ・アンソラ様はいらっしゃる?」


 ある日、私は授業を終えて、今日も図書館に行こうとした途端に、やたらといい匂いがしてくることに気付いて、教室の入り口を見た。

 元々貴族だらけのこの学園で、顔面がやけにいい人は多いものの、彼女は群を抜いていた。

 黒くて長い髪は艶やかで、ラベンダー色の釣り目は意思の強さを思わせるけれど、不思議とどぎつい雰囲気はない。

 しかし彼女を見た途端に、教室の喧騒がシン……と消えてしまった。

 なんでだろうと思いながら私は立ち上がる。


「カリサは私ですけど、あなたは?」

「まあ、わたくしをご存じではありませんの? わたくしアンドレア・ベルトゥスコと申しますの」

「ベルドゥスコ……えっ?」


 ベルドゥスコ公爵は、修道院にも積極的に寄付をしてくれているから、貴族階級に疎い私でもさすがに知っていた。

 ……私、この人になにかやったか?


「あのう、私は今初めて会ったと思うのですが……」

「いいえ。あなたには感謝しておりますの。わたくしの婚約者の相手をしてくださってね。ですが、その方はわたくしの元に婿入りする予定ですので、あまり一対一で会うような真似をされると困ります」

「えっ……えっ?」


 この美貌の令嬢の婚約者に横恋慕なんて真似、した覚えがない……。そう思ったのも一瞬、前に図書館で出会ったあからさまに気の弱そうな男の子を思う。

 ……あの男の子が、アンドレア様の婚約者?

 アンドレア様は続ける。


「あの方は未だに王族としての自覚が足りませんの。わたくしたちの一挙一動で波乱が起こるという自覚を持ちなさいと毎度申しておりますが……」


 彼がどうして泣いていたのか、なんとなーくわかった。

 アンドレア様の言っていることは正論だ。圧倒的に正しい……それが正し過ぎて、ちっとも彼の気持ちを考慮してないことを除いたら。

 しかし下手なことを言って、修道院に迷惑もかけられない。

 私は彼女に大きく頭を下げる。


「お気遣い痛み入ります」


 そうひと言だけ残して、さっさと立ち去ることに決めた。

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