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夏の思い出

 午前十時半。


「これが日本のフェスティバル!」


 町役場の秋原さんにもらった浴衣を着てやんややんやとはしゃぐフラン。その隣では妹の彩奈がフランと手を繋いでいる。今年受験生なんだし、そろそろ子供らしさは抜けてきてもいいんじゃないかな?


「そうだフラン! ここは戦場だ! 参加するからには勝たねばならん! いいな!」

「オー! ぶちょー! お祭りは怖いところネ!」

「またフランさんに変なこと教えてる……」


 そして今回はトップから部長がいる。昨日の部活で決まったことなのだが、文芸部は全員参加となっている。もちろん部長の職権乱用によっての命令である。きっと一人で行くのがさみしかったのだろう。部長は文芸部以外に友達いそうにないし。

 その中でも立花先輩だけは渋っていた。


『何だ立花。お前は来ないというのか? 言い訳があるなら一つまでは聞いてやろう』

『じゃあ、俺人が多いところは苦手なんだよね』

『学校のほうが人多いから大丈夫だな。はい、論破ー』

『……なんだこの敗北感』


 それでも部長の論破力には勝てず、結局来ることになった。

 香月先輩は、今お面を買いに行っている。なんでも今年も狐のお面をつけて回るらしい。

 そして一年生百合コンビは、なんでも十一時からある雑誌の作家さんのサイン会に参加するために、さっき本部で配られているうちわを受け取りに向かっていた。あ、帰ってきた。


「おかえり。もらえた?」

「はい! 綾瀬先輩もいります?」

「いや、僕はその人知らないし」

「黒口先生を知らないんですか! 読書家の風上にも置けませんね!」

「いやいや。名前は聞いたことあるけど、僕みたいなにわかが参加するのは変じゃない」

「それもそうですね」


 完全にテンションが上がっている長内さんの後ろで、鎌倉さんが『お前に羽澄のうちわを渡すくらいなら私にくれればいいのに』というニュアンスの光線を出してきたので、丁重にお断りした。カマクラ=サン、コワイ。


「よー、綾瀬。超眠いんだけど」

「おはようございます。立花先輩はまた徹夜してたんですか?」

「休みの前の日は寝ないって決めてるんでな」

「自分ルールじゃないですか。それにいつも寝不足のような気がするんですけど」

「それはそれ、これはこれだ」

「さいですか」

「ところで、お祭りって何したらいいんだ?」

「……さぁ?」

「だよな」


 僕はフランと彩奈の保護者として来ているけど、立花先輩は完全に手持無沙汰である。


「ごきげんよう、綾瀬君に立花君♪」


 とても気持ちの悪い声を後ろからかけられたので、一瞬誰かわからなかったが、こんな気持ち悪い声を出すのは香月先輩しかいないと思い、仕方なしに立花先輩と振り返った。

 そこには、香月先輩の格好をした画素の粗い部長の姿があった。

 さすがに僕も驚いた。


「うわっ! きもっ!」

「キモイとは何だ、キモイとは!」

「いや、いきなりそんな顔……顔?」


 そう。香月先輩の顔には、顔がくっついていた。


「香月、その顔何なの? バグったん?」

「あそこのお面屋でお面選んでたら、なんか店主の人が『キミ、好きな子になりたくない?』っていうから、『別に』って答えたら、『写真くれたらその子の顔作ってあげるよ』って言われたから、とりあえずお試し価格で作ってもらった」

「それ以前に写真持ち歩いてたのかよ……」

「スマホの中に入ってたんだよ。これは俺の宝物だから、誰にもデータはやらんからなー」

「いりませんよ。部長の写真なんて」


 そう言ってスマホを抱きしめるようにクネクネとする、部長付き香月先輩。なんか怖いな。


「おー、香月戻ってきたのか……ってなんだそれ……」


 ドン引きの部長。


「どうよ。お前そっくりだろ」

「自分の顔がそこにあるのが嫌というか、香月が嫌というか……うまく言えんな」

「十分伝わったよ。要するに俺のことが嫌ってことが伝わった」


 説明を要求する部長に、香月先輩がかくかくじかじかと説明をすると、部長はまた引いた。


「何だお前、私の写真を持ってたのか……」

「たまたまだよ。一番上にあったのがこれだったんだよ。あんまり写真なんて撮らないからさ。で、拡大してもらってちょうどいいサイズにしたらこうなったってわけ」

「そういうことなら……もっと可愛く撮れよ!」


 部長、何言ってんの?


「えっ、作ってもらうことに反対してるんじゃないの?」

「そんなわけあるか! 3Dプリンターだろ? そんな高価なものを使える機会なんて滅多にないだろ! じゃあいっその事全員分作ってもらおう!」

「オー!」


 いつの間にかそばに来ていたフランも参戦し、バカ三人はお面屋へと駆けていった。

 

「綾瀬君と妹ちゃんと立花はいいのか?」

「僕は遠慮します」

「彩奈もいらない」

「俺も同じく」

「チッ……フラン。耳貸せ」

「ン?」


 ゴニョゴーニョゴーニョゴーニョ。


「浩二」

「ん?」

「フラン、みんなとの思い出が欲しいヨー……」

「ぐっ……」


 フランをこういう風に使うとは卑怯な……

 僕はため息をついた。


「そういうことなら……もうフランを使うのはやめてくださいね。フランも部長の言うことを聞いたらダメだからね」

「「ハーイ」」


 ホントにわかってんのか?

 結局、僕が動いたことによって彩奈も動き、サイン会の時間が来たことで整列側へと行ってしまった長内さんと鎌倉さん。一人取り残された立花先輩もお面屋へと向かい、ほぼ全員の分のお面を作ることになった。

 作ってみてから思ったのだが、これ、お祭り終わったらどうしたらいいんだ?

YLさんの出店のお面屋さんの設定を借りました。

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