三人
「うひゃー! 雨スゲー!」
「こう何日も雨が続くと気が滅入るな」
「俺の古傷も疼くぜ」
「はいはい。とりあえずゲームだけ濡らさないようにしてな」
「無慈悲っ!」
文芸部の三年生三人が、今まさに学校を出ようとしているところだった。
おとといも雨、昨日も雨、とくれば今日も雨なのは必然である。
「ってうおぉおおおおい! 俺の傘がないではないか! 永久機関が持って行ったのか!?」
「意外としょぼい機関だな」
「冷静にツッコむなよ! こりゃあ大変な事態だぜ……」
「香月。冷静になれ。とりあえずタイムマシンを探すんだ」
「タイムマシンを探すよりも先に傘探した方が良いんじゃないか?」
「だから冷静にツッコむなよ」
どうやら香月の傘が誰かにとられた模様。玄関の傘立ての傘は盗まれるもの。イイネ?
「そんなことよりどうすんだよ。このままじゃ俺の魅惑のボデーがショートしちまうだぜ」
「はいはい。まずは機械化脱皮を覚えてから出直そうな」
そう言いながら自分の傘を取って差しながら外へと出ていく立花。
「ズルいぞ! なんでお前のはあって俺のは無いんだよ!」
「そんな端っこに刺しておいたらとりやすいんだから、取られやすいに決まってるだろ。最初から取りにくそうな壊れた傘の隣とかに置いておくのが基本だよ明智君」
「誰が明智だ!」
「これは心理戦だ」
「学校は戦場じゃない!」
そして隣では折りたたみ傘をパサパサと開く高城。
「ふん。香月ともあろうやつが傘一本でグダグダいうな。いつもどおり雨も滴るいい男モードで帰ればいいじゃないか」
「いつ俺がそんなモードで帰ったんだよ」
「じゃあ避けて帰れ。回避力が上がるといいな」
「無理言うな」
ここで香月は何か思いついたかのように、するすると高城の元へと近寄っていく。
それに気が付いた高城が一定の距離を保つようにするすると離れていく。
「何だよ気持ち悪いな」
「なぁ高城ー。俺も入れてくれよー」
「無理言うな。折りたたみ傘に二人も入れるわけないだろうが」
「そこを何とか! 半分ぐらい濡れてもいいから!」
「じゃあ前半分濡れてくれるなら考える」
「それほとんど入ってないじゃん」
高城との相合傘は無理だと踏んだのか、すでに外に出ている立花に声をかける香月。
「立花ー!」
「悪いな。この傘、一人用なんだ」
「お前の傘が一人用だったら高城のはどうなるんだよ」
「俺は自分の傘に人を入れないって決めてるんだ。これはいざってときに勝利の女神が入ってくるスペースが無かったら困るだろ?」
「お前、ホント何と戦ってるんだよ」
「高城。帰るぞ」
「おうよ。とっつぁん」
ルンルンとわざとらしく鼻歌を歌いながら外へと出ていく高城。
置いてけぼりを喰らった香月は、ブーっとふくれっ面で、玄関の中から二人の背中をにらみつけた。
その視線を感じたのか感じていないのか、高城と立花は立ち止まって顔を見合わせて肩を竦めた。
「ほら。こっちこい。入れてやるから」
「今日だけだぞ。今度マルチタップ買って来いよ」
見るからに嬉しそうに二人の元へと走って行く香月。
「サンキュー! で、どっち入ればいいん?」
二人は傘をくっつけ、その接触面を指さした。
「「ここ」」
「ここぉ!? せめてもうちょっと重ねてよ! トライフォースの真ん中くらい重ねてよ!」
「ウロボロスの口と尻尾くらいはくっついてるでしょ」
「それほとんどくっついてないから! むしろ離れてねぇ?」
「せっかく私と立花で作ってやった香月専用傘の面積を無駄にするのか? 私たちの想いを無駄にするのか!?」
なぜか熱くなる高城。
「む、無駄にはしねぇよぉおおおお!!」
そう叫んでその小さな面積へと身体をいれる香月。
「……なんだこれ。ほとんど濡れてるんだけど。むしろ二つの傘から垂れてくる雨水がここに集まってくるんだけど。おい、こっちに傾けんな」
「俺たちの想いを無駄にすんのか!」
「無駄にしなかった結果がこれだよ! もうちょっと手加減しろよ!」
「大丈夫。バカと何とかは高いところが好きっていうだろ?」
「全然関係ないじゃねぇか!」
「香月」
「なんだよ」
高城がじっと香月を見つめる。見つめあっていた香月が頬をわずかに染める。そして高城が傘を傾ける。
「お前も傾けんな!」
「これもまた一興かな」
「どこの武士だよ!」
「失礼な。私は乙女だ」
「なんでもいいよ!」
「そろそろ帰るぞー」
そういってスタスタと歩いていく立花。
「ちょっと待って! ウロボロスが離れてるから! 接触面すらなくなってるから!」
「これもまた一興かな」
「いいから高城は歩いてくれ! 俺が濡れる!」
「濡れろ!」
「嫌だよ!」
仕方なしにダラダラと歩き始める高城と、先にスタスタと歩いていく立花と、間でツッコみながら濡れながら頭を押さえている香月。
今日も三人は仲良しだった。
これもまた一興かな




