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始業式

 去年、僕はこのうろな高校に入学した。

 それなりに頑張った入試を合格し、見事入学を果たした。

 とはいえ、そこまで行きたかった高校なのかと言われればそうではない。ただ家から近かったから、という理由だ。うろな高校だって、そこまで学力が低いわけでもないし、むしろ高いと言っても過言ではない。有名大学への進学を決めた人だっているわけだし。

 そんなうろな高校での生活も、二年目のスタートとなった。

 新しいクラスになり、新しいクラスメイトになる人もいた。

 そんな中だった。


「ハジメマイテ! 今年から留学生としてうろな高校に通うことになりました、フランチェスカ・フィリップデース! よろしくお願いしまス!」


 フランが同じクラスになることが決まった。



「フランチェスカさんはどこから来たのー?」

「めっちゃ日本語うまくね?」

「うわー。ホントに目が青いー」

「よかったら俺と付き合ってくれ!」

「抜け駆けは許さん!」

「ぐへらっ!」


 始業式も終わり、簡単なHRのみで終わった初日。

 その放課後ともいえるこの教室内で、ニコニコと笑みをたたえているフランの周りでは、クラスメイト達がやんややんやと騒いでいた。

 無理もないだろう。ただでさえ転校生は注目を集めるのに、それが外人なのだから、みんな友達作りよりもそっちのほうに気をとられている。かといって、フランを放っておくことはできない。


「フラン」

「オー! 浩二!」

「約束通り、学校を案内してあげる」

「オー! 待ってたぞ!」


 突然親しげな僕が話しかけたもんだから、周りはきょとんとしていた。僕はちょっとした優越感と恥ずかしさとフランを連れて、校内探索へと教室を出た。

 廊下を歩いていると、周りから視線を集めることは必須である。しかし、フランと共に行動することが多くなる以上、これは慣れないといけないと思った。


「綾瀬君にフラン」

「オー! ぶちょー!」

「どうしたんですか?」


 階段を下りて一回から説明しようとしたその時、上の階から部長が声をかけて下りてきた。

 ちなみに部長は、春休みに通い詰めていたおかげもあってか、フランとそれなりに仲良くなっている。嘘ばっかり教えるから油断できないけど。


「どうしたもこうしたもない。私も案内してやろうかと思ってな」

「先輩はどうしたんです?」

「いつもセットでいるわけじゃないからな。香月は部活は休みだって言ったら帰った。立花はお察しの通りだ」

「さいですか」


 そんな部長を仲間に入れて、校内を練り歩くことにした。



「ここは化学室。授業で実験とかする時はここに移動してやるから」

「『ばけがく』とはよく言ったもので、日本の化学は日々進化している。最近では呪いや人を実験体にした実験も行われている」

「ジッケン……コワイです」

「コラ」


「ここが体育館。今日始業式やったけど、明日は入学式があるよ。今は準備中だけどね」

「ンー。イギリスの体育館のほうが広かったように思いマス」

「日本の体育館には地下があるからな」

「地下ッ!? どうして地下ガあるデスか!?」

「コラ」


「保健室」

「第二の教室と呼ばれている」

「フラン。信じちゃダメだからね」


 そんなこんなで、部長の嘘を挟みつつの一階案内が終わった。

 僕らは上の階に行くために階段へと向かっていた。


「二階から三階は普通に教室があって、二階に職員室があるよ」

「職員室は朝に行ったからわかったデス」

「まぁ学校案内って言っても、そこまで案内するところはないなー。どっか見たいところとかある?」

「浩二とぶちょーノ部屋が見たい!」

「……部屋?」

「部室のことだろう。いいだろう。その代わり、部活に入らないといけない決まりがあるんだが、大丈夫か?」

「何その決まり。僕、初めて聞いたんですけど」

「んん? 綾瀬君も去年は部室に入っただろう? あの時、そのことを話そうとしたら入部希望を綾瀬君のほうからしてきたから言いそびれてしまってな」

「どこの悪徳商法ですか。エウリアンですか」

「ぶちょーは宇宙人だったデスカ」

「まぁそんなところだ」

「否定しろよ」


 胸を張ってそう言う部長。とにかく、僕らは部室へと向かった。

 部室の鍵は部長が持っていて、職員室に預けていない。悪いことなので真似はしないようにとフランに釘を刺しておいた。効果があったかどうかはわからないけど。


「ここが我々文芸部の部室だ」

「オー!」


 中に入って辺りをぐるぐると見回すフラン。


「ンー。何も変なところはないですネー」

「変なとこ?」


 真顔でそう言うフランを見て、僕と部長は顔を見合わせて首を傾げた。


「モット本がたくさんあって、文集っていうのがあるのかと思ってマシタ」

「あー……」


 フランの想像していた文芸部は、きっと正解なのだろう。僕も最初はそれが文芸部だと思ってたし。でもうちの文芸部は文芸部とは違う。文芸部の活動なんて全然してないし。

 なんて説明しようかと思っていると、部長が口を開いた。


「フラン!」

「ハイ!」


 大声で言い放った部長に、同じく声を張り上げて答えるフラン。


「我が文芸部に入る覚悟はあるか!」

「ハイ! アリマス!」

「なら入部を許可しよう!」

「許可されマシタ!」


 まるで軍隊のようなやりとりで入部の合否を判定し、どこからか取り出した入部届にアレコレと書かせる部長であった。フランもニコニコと楽しそうに名前とクラスを書いていた。

 完全に部長が力押しでごまかしたけど、フランが楽しそうなので良しとした。

 こうして文芸部に新入部員が入ることとなった。

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