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文芸部とフラン

「さぁ綾瀬君。説明してもらおうか」

「とは言っても、僕もまだ理解してないんですけどね。ってゆーか、ナチュラルに人んちのリビングでくつろぐのやめてもらえます?」

「辞任しろー」

「先輩はゲーム機持ち込まないでください。コラ。繋ぐな」

「いやいや。ゲーム部作ろうって言ったじゃないか」

「いやいやいやいや。何人んちを開催場所にしてるんですか」

「オー! これ知ってマース! 弟がやってるのを見たことネ!」

「いやぁ……金髪碧眼の生身を見ることができるなんて、眼福眼福」

「香月先輩。警察呼びますよ」

「俺だけ警察沙汰?」

「綾瀬君。早く説明してくれ」

「お兄ちゃん。彩名、この人たち嫌い」

「彩名! スキキライはヨクナイよー!」

「綾瀬くんちのテレビでかくていいなー。あ、無線じゃん。設定してもいい?」

「綾瀬君」

「お兄ちゃん」

「綾瀬。ラッキースケベは許さんぞ」

「ここをこうっと……」

「浩二!」

「浩二!? いきなりファーストネーム呼びか! 綾瀬君!」


「だぁあああああああああああああっ!!!!! うるさいっ!!! 全員、一回黙れっ!!! とりあえず勝手に無線の設定しないでくださいっ!!」

「あ、ダメ?」



もう我が家のリビングはカオスだった。


とりあえずここまでの経緯を簡単に説明する。

当初の予想通り、部長と先輩が来た。しかし立花先輩がボストンバッグにゲーム機の本体ごと入れて丸々持ってついてきたのには驚いた。

そしてもちろんフランチェスカさんと対面。この時ばかりは仕方ないと思ったが、同時に合わせたくなかった。別に秘密にしたかったというか、僕自身がそこまで目立ちたいタイプの人間ではないので、こんな歩く蛍光灯みたいに目立つフランチェスカさんとの関係を知られたくなかった。

それから目を輝かせながらフランチェスカさんに質問攻めをする部長と先輩。リビングのテレビにゲーム機を設置し始める立花先輩。隣で文句をブースカ言っている妹。嬉しそうにニコニコしゃべるフランチェスカさん。

もうわけがわからないよ。

そんな僕の一喝もあり、静寂を取り戻しつつあるリビング。

静かに質問やらなんやらで対外人とのトークを楽しんでいた。立花先輩を除いて。

ソファに部長と先輩。僕が床にクッションを敷いてその上に。テーブルを挟んでソファと反対側に同じくクッションを敷いてフランチェスカさんが妹を膝にのせている。立花先輩はテレビの前で胡坐をかいてゲームしてる。


「フランチェスカって長いからさ、もう縮めようぜ」

「愛称とかなかったのか?」

「愛称?」

「あだ名だから……」


なんて英語で言えばいいかわからない部長と先輩。横から画面を見たままの立花先輩が助け舟を出した。


「ニックネームプリーズ」

「オー! フラーって呼ばれマシタ!」

「フラーか。なんかふらふらしてそうだな」

「全世界のフラーに謝ってください」

「香月。早く土下座しろ」


なぜか僕と部長から畳みかけるように言われた先輩は、おとなしく土下座をした。


「全世界のフラーさんごめんなさい」

「これが土下座デスかー!」


マジマジと先輩の土下座を見ているフランチェスカさん。

部長がそれを見て吹き出し、顔を背けた。


「まぁ香月は置いておこう」

「放置かよ。やめてくれ」

「ところで、フランでいいんじゃないか?」

「ソレも呼ばれてマシタ!」

「俺たちにはそっちのほうがしっくりくるよな」

「そうなんですか?」

「綾瀬君。そのへんは立花に聞いた方がいいな」

「あーゲームですか」


察してしまった。


「二人ノ名前はなんて呼ぶんでーす?」

「なんかアレだな」

「香月。私もわかるぞ」


顔を見合わせて何やらニヤニヤしだす二人。

なんだ? 気持ち悪い。


「どうしたんですか?」

「綾瀬君にはまだわからないか」

「外人の使う拙い日本語っていいよなって話」

「ワタシの日本語、ヘンでしたかー! 日本語難しくテ難しいでデス」

「いやいや。とても上手だと思うぞ。それだけ話せればよっぽどの地方じゃない限りは通じるだろう」

「フランさんはどうやって日本語おぼえたんですか?」

「チッチッチッ」


僕が聞くと、顔の前で人差し指を振って『その考えは甘いぜお嬢ちゃん』的な表情を見せてきた。それは全然関係ない動作だと思うのだが、部長と先輩には効果は抜群のようで、顔がニヤけていた。


「イギリスにも日本語の吹き替えの映画とかありマス。それを見て聞いて覚えアシタ!」

「なんか惜しい! けど可愛いからオッケー!」

「この日本語で学校に行くカラ、チョット不安ダです」

「そっか留学生だもんな。何年に入るん?」

「入るン?」

「あー、学年は? ってゆーかいくつ?」

「年齢ですか! 十六さいデース」

「綾瀬君と同い年か」

「いや、一個下ですね。僕だって歳とりますよ」

「でも学年で言うならイギリスは一歳早く学校が始まるから、高校二年に入ることになるんじゃない?」


話は聞いていたらしく、立花先輩が相変わらず画面を見ながらそう言う。


「ということは、綾瀬君と同級生か」

「浩二とクラスメイト!?」

「マジか……」


キラキラした視線を向けてくるフランさん。

僕は、学校でもこんな感じのやりとりをしまくるのかと考えると、ちょっとだけ身体が重くなった気がした。

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