94.お母さんの剣
僕はおじいさんと沢山話した。
子供の僕は海に行ったことがない。転移ポータルは子供だけでは国外まで飛べないからだ。
前世の記憶に海はあるけど、この世界の海が同じとは限らない。話を聞いて似ているんだろうなと思ったけど、なんだかこちらの海の方が綺麗なんじゃないかなって気がしている。
だっておじいさんの話す海はとっても綺麗で神秘的なものだからだ。いつか僕も海を見に行きたいな。
『海か……俺も潮風ってやつを感じてみてえな』
クリアが興味津々でおじいさんの話に聞き入っている。おじいさんとクリアはなかなか気が合いそうだ。直接話せないのが残念だとクリアが言っている。
『私も海を見てみたいです。話によると海スライムと言うのがいる様ですし、普通のスライムとどう違うのか比べてみたいですね』
モモが学者のようなことを言っている。僕も海スライムは見てみたいな、アオとどう違うんだろう。
「海を見に行ったからには人魚族にも会いたかったんだがな。会うことは出来なかったよ。やっぱりそう易々と人間の前に姿を現してはくれないようだ」
そう、この世界の海には人魚族がいるんだ。人魚族の招待があれば深海の人魚の里にも行ける。この国には海がないのが悔やまれる。おばあちゃんも人魚族には会ったことが無いはずだ。
「そうかエリス、お前も人魚族に会ってみたいか。今度一緒に隣国まで遊びに行こうな」
僕は頷いた。おじいさんが一緒なら子供の僕でも転移ポータルで隣国に行ける。僕はとても楽しみになった。
その日の夜はデリックおじさんも家にやってきた。おじいさんが呼んだらしい。おじさんは小さな剣を持っていた。
「リジル、いきなり手紙で呼び出されたから何かと思ったが、ルースの剣を持ってこいなんてどうするつもりなんだ?」
「デリック、お前ルースの形見をエリスに渡さないとはどういう了見だ。いくら小さい頃に使っていた品でもエリスにとっては母親の形見だろうに」
おじさんはバツの悪そうな顔をした。
「こんなのが家にあるだなんて忘れてたんだよ。なんでお前の方が俺の家にあるもの把握してんだよ。おかしいだろ」
「お前はまた家を散らかしたまま放置しているんだろう?また今度片付けに行ってやるから覚悟しとけ」
「浄化の魔法はかけてるんだからいいだろ、散らかってるだけで汚くはないぞ」
どうやらおじさんは片付けが苦手らしい。お母さんの物があるかもしれないなら僕が片付けに行こうかな。
そう言うと、おじいさんは賛成してくれた。デリックおじさんはオロオロしている。
「それはいい、お前が片付けに行ってやればデリックも懲りるだろう。ちゃんとご褒美は貰うんだぞ」
おじいさんが僕の頭を撫でてくれる。デリックおじさんはため息をついた。
「確かにルースの物がまだ残っている気がするからな、今度片付けを手伝ってくれるか?」
僕は片付けは嫌いじゃないから大丈夫だ。お母さんのものがあるなんて宝探しみたいで楽しそうだ。嬉しそうな僕にデリックおじさんは苦笑して僕の頭を撫でた。
「さて、これがルースが昔使っていた剣だ。放置していたからちょっと傷んでいるが、ちゃんとメンテナンスすればまだまだ使えるだろう」
それは持ち手に大きな青い魔法石が埋め込まれたかっこいい剣だった。装飾も凝っている。
「カッコイイだろ?あいつ、剣を買ってもらえることになった時、見た目だけでこれがいいって決めたらしいからな」
それ以前に魔法石が埋め込まれているってことは魔法剣なんじゃないかな?魔法剣とは杖代わりにも使える剣のことだ。剣で魔法陣を書きながら戦うのは難しいため、あまり使用者が居ない剣である。
「見ての通り魔法剣だから、後でエリス用に調整してやろうな」
デリックおじさんの言葉に僕は嬉しくなった。剣を習ったら冒険の時に役に立つかな?僕も前衛に出られればナディアとメルヴィンの負担も減るかもしれない。
剣を手に喜ぶ僕に、お父さん達も一緒になって喜んでくれた。兄さんは剣は苦手らしく、教えてあげられないと悔しそうにしていた。兄さんは勉強を教えてくれるから、僕としてはそれだけで充分嬉しいんだけどな。
『剣士』のジョブを持つおじいさんとお父さんが暇な時に教えてくれる事になったから、とても楽しみだ。
お母さんの形見でもあるし、明日から持ち歩こう。そうしたらお母さんが守ってくれるかもしれない。僕は自分の考えに嬉しくなってクスリと笑った。
お母さん、お母さんが使ってた剣。僕が引き継ぐね。お母さんみたいに魔物相手に勇猛な戦いは出来ないかもしれないけど、身を守るくらいは使えるようになりたいな。
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