92.おじいさんとおばあさん
今朝の僕は早起きだ。お母さんの作ってくれた服を着て鏡の前で身だしなみを確かめる。
『エリス、おじいさんとおばあさんが帰ってくるから張り切ってるの』
アオが眠そうな目のまま僕に言った。
シロとクリアはまだ寝ている。モモは起きて僕と一緒に今日のリボンを選んでいた。
『おじいさん達に会うならちゃんとしないと、第一印象は大事ですよ』
モモが選んだリボンを結んで欲しいと差し出しながら言った。
あとでシロのブラッシングもしてあげなくちゃ。
『じゃあ私もお洒落するの、取っておきのカチューシャを出すの』
アオが可愛いコンテストの時につけていたカチューシャを取り出すと体を変形させて自分で付けていた。鏡の前で角度を確かめている。
『うん、今日も私はパーフェクトキューティーなの!スライム界のアイドルなの!』
アオは今日も絶好調だ。モモがさすが姉さんですと拍手している。
騒いでいたらシロとクリアも起きたようで、シロは寝ぼけ眼で僕にすり寄ってきた。
『僕、お寝坊だった?』
僕らが早く起きただけだよと言うと、シロはそっかと尻尾を振った。
『そっか、今日はおじいさん達が来るんだもんね。僕もカッコよくしなくちゃ』
そう言うと首輪を咥えて持ってくる。その前にブラッシングだ。僕が抱きついて寝たから毛が乱れてしまっている。
大きなシロのブラッシングは大変だ。早起きしてよかった。
『エリスのじいさんか、挨拶するならちゃんとしないとな』
クリアは自分で羽繕いをしている。シロのブラッシングの前にクリアの足に鳥従魔用のかっこいい銀のバングルをはめてやる。
アオはブラッシングが終わるまでもう一眠りする気らしい。完全に目を閉じていた。やっぱりスライムは人間より睡眠時間が長いんだな。
シロの毛と格闘してもう一度鏡の前に立つ。うん、みんな問題なさそうだ。少し早いけど食堂に行けばお茶を入れてもらえるだろう。僕らは食堂に向かった。
するとお父さんが新聞を読んでいた。
「おはよう、今日は早いな」
「おはよう、お父さん早く目が覚めちゃったんだ」
僕の言葉にお父さんが笑う。
「父さんに会うのにそんな緊張しなくてもいいのに、家族なんだから気軽に挨拶すればいい」
それが出来たら苦労はしていないのだ。どうしても緊張するのはしかたない。
「それに父さん達が帰ってくるのはおそらく昼頃だろう。早朝の転移ポータルは商人で混んでいるしな。今から緊張していたらもたないぞ」
確かにそうかもしれない。おじいさん達が帰ってくるまではあんまり気にしないようにしよう。
とはいっても、ソワソワしてしまうのは止められそうになかった。
その時玄関の扉が開く音と、大きな声が聞こえた。
「おおい!今帰ったぞ!」
僕はお父さんと顔を見合わせてしまう。
「……そう言えばこういう人だったな」
こういう人なのか。何となくおじいさんの性格がわかった。
僕はお父さんと玄関に向かう。後ろからシロ達もついてくる。朝から身だしなみを整えておいてよかった。
「おお、ヴァージル、出迎えが遅いぞ!」
「こんな早朝に来ておいて無茶言わないでください」
おじいさんはお父さんと同じくらいガッシリした体つきの強そうな人だった。横でおばあさんがコロコロ笑っている。目が合って微笑まれた。
二人ともまだ若い。デリックおじさんと同じくらいかな?
「老人の朝は早いんだ。起きてすぐ転移ポータルに飛び乗ったわ」
「まだ五十にもならない癖に何が老人ですか。母さんも止めてくださいよ」
おばあさんは言って聞く人じゃないからねえと笑っている。僕はお父さんの後ろでいつ話に入ろうか緊張していた。
「それで、君がエリスか!土産を沢山買ってきたんだ!後で一緒に開けような」
突然近寄ってきたと思ったら両脇に手を入れられて高い高いをされた。僕は驚いて何も言えなかった。
「父さんエリスが驚いてますよ、一旦下ろしてちゃんと挨拶させてあげてください」
お父さんが助け舟を出してくれる。
おじいさんは僕を一旦下ろしてくれた。
「初めまして、エリスです。こっちは僕の従魔のアオとシロとモモとクリアです」
挨拶が終わると再び抱き上げられる。
「よく挨拶できたな!えらいぞ!私はリジルおじいちゃんだ。よろしくな」
「私はアンナよ。よろしくね」
なんだかすごく小さい子だと勘違いさせているような気がするけど、歓迎されているようで安心した。
「どうせ朝食はまだなんでしょう?食べながら話しましょう」
いつの間にかお母さんと兄さんも玄関に来ていた。それぞれ挨拶しながら食堂に向かう。
ところで僕はいつ下ろしてもらえるんだろう。
ブックマークや評価をして下さると励みになります。
お気に召しましたらよろしくお願いします!




