86.楽しい夜
マリリンおばさん達と話しているうちに、丸鶏のスープがいい感じに仕上がったようだった。僕らは一生懸命狩った丸鶏を食べてもらいたくて、用意してもらった席に移動する。
「おやおや、丸鶏なんて久しぶりだねえ……昔ネリーが美味しいからって大量に狩ってきたのを覚えているよ」
マリリンおばさんの言葉に族長が頷く。
「ああ、あの時はお祭り騒ぎだったな。森の丸鶏を狩り尽くすんじゃという勢いで狩っていたからな……」
ブライトンさんは苦い顔をしていた。
「付き合わされた私としてはたまったのものではなかったよ」
その辺の話をもっと詳しく聞きたかったけれど、僕達の元に丸鶏の蒸し焼きが届けられてそれどころでは無くなった。
なにせ匂いだけで美味しいのがわかるんだ。これは狩って良かったと思う。
口に入れると柔らかい肉が口の中で解け、鶏のいい香りが口の中に広がった。なるほど高級食材になるわけだ。本当に美味しい。
僕らは夢中になって蒸し鶏を食べた。族長達に微笑ましげに見られているのが分かったけど、食べるのを止められなかった。
そうこうしている内に皆にも丸鶏のスープが配られる。僕達にもよそってくれたので一口飲んでみる。こちらも絶品だった。
「ああ、この味だ。なつかしいねぇ……エリス達がこんなにたくさん丸鶏を狩れるなんて、凄いじゃないの」
マリリンおばさんは僕らを褒めてくれる。族長が冒険の時の僕らの話をし始めて少し恥ずかしかった。普段『魔法使い』系のジョブを持つ人達を鍛えているおばさん達からしたら僕らなんてヒヨコだろう。
「丸鶏は素早いからな、囲むのはいいアイディアだ。……ネリーの時はひたすら追いかけまわして狩るはめになったからな……」
ブライトンさんは遠い目をしている。おばあちゃんが振り回していたんだろうなと思う。
「エリスは賢くていい子だな、ネリーが育てたとは思えない」
おばあちゃんは僕にはひたすら自分の真似をするなと言っていたからな。そう説明するとブライトンさんは目を見開いていた。
「ネリーにそんな気遣いが出来たとは驚きだ。人に物を教えるにはとことん向かない性格だったからな」
正直僕もそう思う。昔を思い出すとおばあちゃんの教育は力技が多かった。とにかく暗記しろとかとにかく挑戦してみろだとか。学園に通うようになっておばあちゃんの教育方法はちょっと間違ってるんじゃないかなと思い始めていた。僕はよくついていけていたなと思う。
「アイツは待てと言っても待たないし、もう少し考えろと言っても考えない。でも何故かネリーがした事は全ていい方向に向かうんだ。不思議でしょうがなかったよ」
ブライトンさんは少し寂しそうに言った。
「ああ、会った人に痛烈な印象を植え付ける嵐のような女だったからな。今もまだひょっこり現れて何かやらかすんじゃないかと思ってしまうよ。なあ、ネリー」
族長は笑いながら杯を空に掲げた。おばあちゃんに献杯しているのだろう。
ブライトンさんも違いないと笑いながら族長の真似をしていた。
「まあまあ暗い話はそこまでにして、学園の話を聞かせてちょうだい!今の学園はどう?私達の頃に比べて過ごしやすくなってるといいんだけど」
僕達は驚いた。マリリンおばさんは学園の卒業生だったのか。僕達はもしかしてと思って聞いてみる。
「もしかして、旧校舎の秘密基地を使ってたのっておばさん達ですか?」
「あら、バレちゃったわね。貴方達が引き継いだのでしょう?学園長に聞いてるわ。……あの頃はまだ嫌な貴族からのイジメが横行していたからね。対抗戦なんて楽しい行事もなかったし、ひどい学園生活だったわ」
マリリンおばさんは目を伏せて言った。今の僕らの楽しい学園生活があるのはおばあちゃんとその仲間たちが頑張ってくれたからだと知っている。マリリンおばさんも奮闘していたんだろう。僕らは学園がいかに楽しいか、マリリンおばさん達に語った。
「そう、今の学園は楽しいのね。良かったわ。ネリーが頑張っていたもの。そうでなくちゃね。もっと話を聞かせてちょうだい」
僕らはテストのこと、対抗戦のこと色々なことを話して聞かせた。メルヴィンが二浪して学園にやっと入学できた苦労話を始めると、今はそんなに倍率が高くなっているのかと不思議そうにされた。昔は貴族か貴族からの推薦があれば誰でも入れる学園だったらしい。
今は四十人しか合格出来ない狭き門だから殆どが試験に落ちる。近くに他の学園もあるからメルヴィンみたいに二浪してまで入学してくるのは稀なんだけどね。大体は記念受験みたいにとりあえず受けてみて、ダメなら他の学園に入学するんだ。
「はあ、なるほどね。学園も変わったもんだね。嬉しいよ。来年は対抗戦を見に行ってみようかね」
僕達はぜひ見に来て欲しいとマリリンおばさんに言った。
今日はとても楽しかった。明日帰らなければならないなんて寂しいな。
ねえ、おばあちゃん。今日はおばあちゃんのお話を沢山聞けたよ。
おばあちゃんはたくさんの人に愛されていたんだね。僕もそんな人間になれるといいな。
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