85.お客様
エルフの里に戻ると、族長に客人が来ていると伝えられた。僕達は族長と入れ替わりで僕らに付いてくれたエルフのお姉さんに丸鶏を渡すと、一緒に料理を始めた。
一羽はシンプルに蒸し焼きにして、他はみんなに行き渡るようにスープにするという。蒸し焼きのは狩った人への褒美として僕らのものになるらしい。
みんな大量の丸鶏に喜んで、大鍋に捌いた鶏を余すところなく入れていた。骨もいい出汁が取れるようで、後で取り出せるよう目の小さな網に入れて一緒に煮込んでいた。
楽しみすぎて鍋の中を覗き込んでいると、いつの間にか微笑ましそうな目で見られていた。ちょっと恥ずかしい。
僕達が料理を手伝っていると、族長が二人の客人を連れてやってきた。その内の一人を、僕は知っている。
「マリリンおばさん、お久しぶりです」
マリリン・ワイクル。七賢者のうちの一人、治癒魔法のエキスパートだ。彼女は医者であり薬師でもある。おばあちゃんが病に侵された時、おばあちゃんの病を治すために奮闘してくれた優しい人だ。結局彼女にもおばあちゃんの病を治すことは出来なかったけど、最後まで諦めないで方法を探してくれていた。
「ああ、エリスが来ていると聞いて待っていたんだよ。久しぶりだね。ネリー様が亡くなった頃は忙しくて会いに行けなかったけど、元気にしていたかい?」
僕は頷いた。マリリンおばさんは大きくなったねと僕の頭を撫でてくれる。
「デリックから様子を聞いていたけど、元気そうで何よりだよ。あのマルダー魔法学園に通っているんだって?その子たちは学園のお友達かい?」
僕は皆を紹介した。冒険者グループを組んだと言ったら心配されてしまったけど、シロ達もいるから大丈夫だと言うと安心したようだった。
「またすごい子を従魔にしたね……ジャイアントウルフなんてどうやってテイムしたんだい」
テイムした時は僕でも抱えられるくらい小さかったんだ。別に凄いことなんてしていない。僕は必死に説明した。
僕の様子がおかしかったようで、マリリンおばさんは笑っている。
「そうだ、エリス紹介するよ。私の旦那のブライトン」
マリリンおばさんが一緒に居る男性を紹介してくれる。彼も有名人だ。
前にデリックおじさんが言っていた、七賢者の内の一人ブライトン・ワイクル。『魔女』と『魔法使い』の保護と育成に力を注いでいる人だ。
僕は初めて会う。緊張しながら挨拶すると、穏やかに笑いながら頭を撫でてくれた。
「君がエリスか、マリリンから話は聞いているよ。とても優秀なテイマーだね」
ブライトンさんはとても優しそうな人だった。優しい笑顔のマリリンおばさんとお似合いの夫婦だなと思う。
「ネリーの事は残念だった。私は何年も忙しくしていて、死の間際にも会いに行くことが出来なかったが、今になってとても後悔しているよ」
ブライトンさんはとても悲しそうだった。これを言うのは落ち込んだブライトンさんに追い打ちをかけてしまうかもしれないと思ったけれど、言わずにはいられなかった。
「おばあちゃんは言っていました。マリリンおばさんの旦那さんとも昔一緒に暴れ回ったんだって。そういえば最近会っていないから会いたいと、会えば小言ばかり言われるけど懐かしくなるもんだねって」
そう言うと、ブライトンさんは涙をこらえている様だった。
「そうか……教えてくれてありがとう」
ブライトンさんはまた僕の頭を撫でると、族長に言った。
「そろそろ戻らねば、毒の件は引き続き調査する。こちらでも注意してくれ」
「もう帰るのか?もう夕方なんだから、用事は明日に回して泊まっていけばいいものを……相変らず真面目な男だね」
族長は呆れたように言った。マリリンおばさんはじゃあ私は残ろうかしらなんて言っている。ブライトンさんは困ったような顔をしていた。
結局マリリンおばさんの懇願で二人とも泊まっていくことになったらしい。僕達はみんな喜んだ。七賢者の話を聞ける機会なんて滅多にないから当然だ。テディーが真っ先にブライトンさんに質問しに行っている。
『エリス、通訳するの!治癒魔法について聞きたいの!』
アオはマリリンおばさんに聞きたいことがあるらしい。最近モモに触発されてか、アオもなにかと本を欲しがるようになったけど治癒魔法も勉強したいのか。アオはすでに高位の治癒魔法を使えるけど、まだ上を目指したいなんて感心だ。
マリリンおばさんは驚いていたけど、アオの質問に丁寧に答えてくれた。とても分かりやすくて僕も勉強になった。
ブライトンさんとマリリンおばさんはたまに一般向けの魔法講座を開いているらしく、次の講座をみんなで受講する約束をした。とても楽しみだ。
お待たせしました。
更新再開です。




