79.生まれた
ギャガン先生の一般教養の授業中、今日は退屈な数学の授業だった。先生がボードに書く文字が頭をすり抜けて眠ってしまいそうになる。僕は慌ててノートを綺麗に書くことに集中して、眠気を追い払う。
そうしていると、シロが突然叫び出した。
『生まれる!生まれるよエリス!』
僕は意味に気付くと、慌ててシロから卵を取り上げて机に置いた。クラスのみんなが突然のシロの鳴き声にこちらを見ていたが、僕が卵を机に置いたのを見て意味を察して集まってくる。
「なんだお前らどうしたんだ?」
一人だけ意味がわかっていないギャガン先生も、みんなの様子に怒るより興味を持ったらしい。こちらに近づいてくる。
卵には小さなヒビが入っていた。中からパキパキと殻をやぶろうとする音がする。やがてヒビが大きくなって、中から鮮やかなオレンジ色の体毛が顔を出した。すごい目立つ色だな、これで本当に姿を消せるのだろうか。
僕は残った殻を手でとってやる。するとまた鮮やかな金色の目がこちらを見ていた。
「よろしく、クリア」
『頼りなさそうなご主人だな、よろしくたのむぜ、エリス』
クリアの言葉に笑ってしまう。確かに僕はまだ幼くて頼りないだろう。でもクリアの方がもっと幼いのだ。なんてったって生まれたばかりなのだから。
クラスのみんなはクリアを見て歓声を上げている。クリアは騒がしい時に生まれちまったなと困った様子だった。生まれてきた鳥を見て幻鳥だと気づいたギャガン先生は呆れ返っていた。
「お前は一体何匹レアを集めるつもりだ?」
僕が集めている訳では無いと言いたい。なんでかいつの間にかレアばかりになっているんだ。
クリアは教室の騒がしさに耐え兼ねたのか、すっと姿を消した。すごい、まるで何処にいるのかわからない。幻の鳥と言われるわけだ。
また教室中で歓声が上がった。
「ちなみに幻鳥はその特技のおかげで外敵もいないため、鳥類の中でも大きく進化したと言われる鳥だ。透明状態だと気配も消えるから敵に近づくまでバレることがない。だから狩りも容易だしな。実は野生では人間が思っているよりずっと棲息数が多いと言っている学者もいるな」
ギャガン先生が先生らしく補足を入れてくれる。僕も知らなかったから感心してしまった。
クリアは教室を一周して戻ってきたらしかった。テイムしているせいか何となく場所がわかる。再び姿を現すとまた歓声が上がった。
『おいおい、みんな暇なのかよ、勉強しているんじゃなかったのか?』
クリアは卵のうちからモモが話かけて色々なことを教えていたせいか、今の状況を理解しているようだった。幻鳥は賢いと言うのは本当なのだろう。
「せっかく貴重な幻鳥の孵化に立ち会えたんだ。今日の授業は魔物学に変更するか」
ギャガン先生の言葉にみんな喜んだ。ギャガン先生の魔物学の授業は冒険者時代の実体験が混ざるから人気なんだ。僕はクリア用に買っておいた折りたたみ式の小型止まり木を出すとクリアに勧めた。
クリアは生まれたばかりなのに上手に止まり木に止まれる様だった。さっき教室中を飛んでいたことも考えると、幻鳥はある程度しっかり育ってから産まれてくるらしい。
『クリア、ここでは私がリーダーなの、ちゃんといい子に言うことを聞くの』
アオが言うと、クリアは反発するかと思ったが、意外なことに分かったよアオ姉さんと言って羽繕いを初めてしまった。
口調は荒いが争いを好まない性格なのかもしれない。
『わーい、学園が終わったら一緒に遊ぼうね、クリア』
シロは新しい仲間に純粋に喜んでいる。
『文字の勉強も始めましょう』
モモは気合いをいれてクリアを優秀な伝書鳥にするつもりのようだ。
放課後僕は秘密基地で生まれたクリアを紹介した。
「すごい! 綺麗な色ね!これがエリスの半分くらいの大きさまで育つなんて凄いわね」
「子供なのに大きくて貫禄があるな、流石猛禽類、カッコイイな」
クリアは褒められてご満悦のようだ。爪が鋭すぎて止まり木を携帯しなければならないのが大変だけど無事生まれてきてくれてよかった。
「これで冒険も益々楽しくなるな。クリアに飛んでもらえば上から確認してもらえるもんな」
そうだ、その手が使えるんだ。僕は次の冒険が楽しみになった。
家に帰ると僕はクリアを家族に紹介する。みんな無事生まれたことを喜んでくれた。クリアは解した肉を美味しそうに食べている。兄さんが興味深そうに観察していたので、煩わしくなったのか途中で姿を消してしまった。餌だけが減っているように見えて面白い。
ねえおばあちゃん、仲間が増えたよ。クリアは口は悪いけどとても頭が良くてカッコイイんだ。
エルフの族長さんと仲の良かったおばあちゃんは、幻鳥を見たことがあるのかな?
すごく大きい鳥なんだよ。族長さんにお礼を言いに行かないと。
その日の夢は小さい前世の僕が動物園の猛禽類コーナーに行く夢だった。前世の僕は猛禽類が怖かったらしい、大声で泣いていた。
カッコイイのにな。
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