76.幻鳥とは
放課後。僕は秘密基地でクリアをみんなに紹介していた。
「幻鳥の卵なんて初めて見たわ、大きくて綺麗ね」
ナディアが卵の殻の不思議な模様を指でなぞる。そして指で円周を測っていた。ナディアの指がギリギリくっつかないくらいの大きさなので、卵としては大きい部類だろう。
「割りそうで怖いな」
メルヴィンは触らないことにしたようだ。僕も持ち上げる時はちょっと怖かったから気持ちは分かる。でも持ってみた感じ意外に殻は厚そうなんだよな。
「早く生まれてきてほしいですねー!あ、クリアちゃんのクッションも必要ですかね?それとも止まり木でしょうか?」
グレイスは最近授業中のモモのためのクッションを持ってきた。それがまた貴族の娘らしい高級素材でできていて、モモはとても気に入っていた。僕が費用は払うよと言ったら、何とグレイスの手作りらしく、プレゼントだから大丈夫と言われた。モモのおかげで授業のやる気がアップしているのでそのお礼だそうだ。クリアも勉強好きなら授業中はグレイスに見ていてもらおうかなと思う。
「そうだ、産まれてくる前にその辺は揃えた方がいいかな?幻鳥ってどれくらいのサイズになるんだっけ?」
僕が言うと、テディーが魔物図鑑を持ってきてくれた。
「えーっと、大きくなったらエリスの半分くらいの大きさになるみたいだよ」
という事は前世の単位で六十センチちょっとか、大きいな。
「生まれた時はその四分の一位だから丁度その卵の大きさだね」
生まれた時からやっぱり大きめなんだな、サイズがわかると色々用意しておくのに便利だな。確認しておいて良かった。
「因みに肉食寄りの雑食で、小さい内は解したお肉をあげて、大きくなってきたら普通のお肉にオヤツでたまに木の実とかナッツをあげるといいらしいよ」
そんな事まで書いてあるのか、すごい図鑑だな。
「ちなみにこの図鑑、月間テイマーの出版社で出してるやつだから」
流石ドナさん。魔物への愛で満ち溢れてる。僕は図鑑をパラパラめくって感心した。
「でも幻鳥の卵なんてどうやって手に入れたの?欲しがって貰えるものでもないでしょう」
僕がエルフの族長に貰ったと言うと、みんなに驚かれた。
森に冒険しにおいでと言われた話をすると、みんな食いついた。行けるなら行ってみたいよね、やっぱり。
「クリアが産まれたら、先にクリアを使いによこしてから来ればいいって言われたから、産まれたらみんなで行こう」
みんなとても楽しみなようで、エルフの里の様子を詳しく聞かれた。
僕はエルフのダンスが凄かったこと、料理が美味しかったことなどを話した。エルフの里に子供はかなり少ないので、行くとみんなに可愛がられると言うと、不思議そうにしていた。長命種族は子供が生まれにくいんだ。里にも一人も子供がいなかった。
「へー、不思議だね。エルフって人間とあんまり見た目が変わらないのにそんなに違うんだね」
テディーがエルフについて書かれた本に目を通しながら、興味深そうにしていた。
でもみんなとても優しかったし、きっと中身は人間とそんなに変わらないんだと思う。
「そういえば、冒険はどうするんだ?持っていくのか、クリア」
僕はその問題を忘れてたと頭を抱えた。
「クリアちゃんが入るふわふわのバッグを作ったらどうですか?」
グレイスが提案してくれる。そうだ、お母さんに頼んだら作ってくれるかもしれない。
「そうする。流石に抱えるんじゃ杖も持てないしね」
斜めがけのバッグなら冒険の邪魔にもならないだろう。僕は帰ったら早速お母さんにお願いしようと決めた。お母さんのジョブは『針子』だから、きっとすぐ作ってくれるだろう。
「そう言えば、もうすぐ先輩達が卒業するわね」
ナディアが言う、冬を超えたら僕達も二年生に進級だ。僕は年の初めに9歳になった。お世話になった先輩達のためになにか出来ないかな。卒業式の日にちょっとしたサプライズでも出来ればきっと先輩達にとっての思い出にもなるだろう。卒業式までに何か考えておこうかな。僕はテディーと目配せして意思疎通を図る。多分考えていることは同じだ。
「多分うちのクラスからはなにかしようなんて提案出ないでしょうね。ブラックは仲が良くて羨ましいわ」
ナディアが心底羨ましそうに言う。
「うちはどうかな?なんか最後に勝負挑むとかはありそうだけどな」
それはどうなんだろう。でもレッドクラスならありそうだと思ってしまう。格闘トーナメント凄かったもんな。なんだか肉体言語で繋がってるようなイメージだ。
「でもその前に期末テストだね」
テディーが言うと。みんなゲンナリした顔をした。忘れていたかったよ。
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