74.宴
宴が始まると、僕らの元に続々と料理が運ばれてきた。加工肉が多い。食べてみたらソーセージが絶品だった。
「どうだ、悪くないだろう?森で採れる香辛料やハーブで作るんだ」
僕は口いっぱいに頬張ったまま首を縦に振る。
「あはは、ルースと反応が同じだな!流石親子だ」
僕は驚いてしまった。お母さんは僕とは似ていないと思っていた。
「僕とお母さんは似ていないって聞いています」
そう言うと、族長は少し考えて言った。
「外見はよく似ているぞ?性格は確かに正反対だな。エリスは祖父に似ているんじゃないか?落ち着いた物腰の優しい男だ。でもやはりふとした時にルースにも似ていると思うよ」
僕は情報量が多くて混乱した。祖父って誰だ。お母さんは孤児じゃなかったのか?
「あー、ルースはあまり公にできない生まれなんだ。だから孤児ということにして育てられたんだよ」
オジサンが困ったような顔をして説明してくれた。なるほど、だから僕もお母さんの子供だと言ってはいけないのか。みんな僕を守る為に秘密にしているのだと言っていた。族長は全ての事情を知って協力していたのかな?
「ルースの出生に関してはまだ知らずにいた方がいい。それがお前の祖父の見解だ。何時かその理由がわかるだろう。もどかしいだろうががまんしておくれ」
族長が僕の頭を撫でる。僕のおじいちゃんも生きているのかな。いつか会えるだろうか。
「僕のお父さんは……」
言おうとしたら指先で口を塞がれた。首を横に振られる。これも知ってはいけないらしい。
僕が頷くと族長はいい子だと頭を撫でてくれる。おじさんは申し訳なさそうにしていた。
それからは族長とおじさんがお母さんの話をたくさんしてくれた。
「ルースは流石ネリーに育てられただけあって脳筋でな。考えるよりまず動けの精神で生きていたんだ。初めて会った時はなんだこの破天荒な子供はと思ったよ」
「あー……ジャイアントスネークの巣穴に単身乗り込もうとした時はどうしようかと思ったよ。ネリー様はコイツに何を教えたんだって。お前のジョブは『軽業師』だろうが、死ぬ気かと何度思ったか知れない」
族長とおじさんの語るお母さんの思い出は無謀な冒険譚が多かった。何でも『魔女』に憧れて、おばあちゃんの真似をしたがっていたらしい。無謀にも程がある。でもお母さん『軽業師』だったんだな。身軽だから何とかなっていたのかもしれない。
「お前は母の真似はするなよ。お前が生まれた時はルースのようにならないかと心配していたんだ」
族長の言葉に大きく頷く。僕はそんな無謀な事はしない。おばあちゃんの真似ができるとも思わない。というかおばあちゃんが僕に自分の力量を過信するなといつも言っていたのはお母さんのせいなんじゃないかな?力量以上のことをやろうとすると危ないからって叱られたもんな。
僕はお母さんを身近に感じられて嬉しかった。もっと色々な事をを聞きたくておじさんのグラスにお酒を注ぐ。酔ったら口が軽くならないかなと思っていたら。おじさんにはバレていた。
「いつからそんなズル賢くなったんだ!」
おじさんに髪がグチャグチャになるほど撫でられた。僕は楽しくて笑う。
その後は族長がエルフの里について話してくれた。途中でエルフ達のダンスが始まったのだけど、その身体能力の高さに驚いた。『軽業師』だったお母さんはこのダンスに混ざっていたようだけど、僕には絶対に無理だ。だってフライングシューズも無しにあんなに高く飛ぶことなんて出来ないし、あんなに体が柔らかくない。エルフの身体能力の高さと魔法の腕は本当に凄いんだなと思った。どんな軍隊でも勝てないと言われるのがわかる気がする。
楽しい宴は深夜まで続いた。僕は興奮して遅くまで眠れなかった。
流石に暗くなって睡魔に勝てなくなった頃。夢現におじさんと族長の会話を聞いていた。二人は僕が寝ていると思ったんだろう。何やら言い合いをしていた。
「……レア……言われ……先…………ると……」
「父…………いいのか……別……エリス……」
なにか僕に関して大事なことを話している様だったけど、僕は眠くて聞き取る事が出来なかった。
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