73.エルフの里
とうとうエルフの里へ行く日になった。僕は楽しみすぎて早く目が覚めてしまった。そんな僕を見ておじさんが笑う。
「そんなに楽しみか?族長は喜ぶだろうな」
転移ポータルを使ってエルフの森に行くと、僕らは森の中を歩き出す。シロの上でアオが楽しそうに歌いだした。
『エ、ル、フのさと~楽しみ~なの~』
『エルフは木の家に住んでいるんですよね?会ってみたかったんです!楽しみです!』
モモも珍しく興奮気味だ。
『この森、すごくいい森だね。風が気持ちいいよ』
シロはエルフの森が気に入ったようだ。たしかになんだか爽やかな感じがする。
しばらく歩くと、突然木の上から人が飛び降りてきた。長い耳……エルフだ!
「先日も来たデリック・ジョーンズだ。族長に会いたい」
おじさんは慣れた様子で言う。
「ようこそエルフの里へ。お待ちしておりました」
エルフは僕達を先導して歩き出す。
僕はまるで僕たちが来るのを知っていたかのような口ぶりに驚いた。
「エルフには優秀な巫女の一族が居るんだよ。『占い師』のジョブを持つ一族がな」
おじさんは驚く僕に説明してくれた。人間の常識ではジョブは遺伝することは無い。しかし、エルフや他の種族の中には遺伝性のあるジョブを持つものが居ると授業で習ったことがある。エルフではそれが『占い師』なのかな。
ちなみに人間の血が混じると途端に遺伝性を無くすらしい。授業で習った時はどうやって確かめたのかと恐ろしく思った。
案内してくれるエルフは、よく僕の方を見て歩幅を合わせてくれた。優しい人だな。
程なくエルフの里に到着すると、僕は感動した。
そこには芸術的な彫刻の施された木の家が幾つも立ち並んでいた。
森から取れる染料で染めたのだろう、カラフルな布がそこら中にはためいていた。
「族長の家に案内します」
案内人はそう言うと中央に聳え立つ大樹に案内してくれた。僕はその木のあまりの大きさに驚いた。
大樹を囲むように作られた巨大な螺旋階段を登る。シロも登れるのだからその大きさが分かるだろう。登りきると木の上に建てられた家があった。小さな家が幾つも立っている。僕が不思議に思っていると、家ではなくそれぞれが用途の違う部屋なのだと教えてもらった。
案内人が赤く塗られた扉の部屋のドアをノックすると、中から女の人の声が返ってきた。案内人はここまでと去ってゆく。
おじさんが扉を開けると、そこには二十代くらいに見える金髪の女性がいた。彼女が族長だろうか。
「ようこそ、エリス。エルフの里へ!」
女性は駆けてくると、思いっきり僕を抱きしめた。
「やめろ、驚いてるだろう!」
おじさんが言うと女性は一旦僕を離してくれる。
「私はエリカだ。このエルフの里の族長をしている。また会えて嬉しいぞエリス」
やっぱり族長だった。二十代くらいに見えるけどエルフは長命だから、実年齢はもっと上だろう。
「初めまして?エリスです」
僕は覚えてないから初めましてなんだけど、実際には違うから変な挨拶になってしまった。族長は可笑しそうに笑う。
「そうだな、覚えているわけないな。ルースの腹からお前を取り上げたのは私なのだぞ、あの時は生命の神秘に感動したものだ。エルフは滅多に子が生まれないからな」
僕は驚いて族長を見る。まさか出産に立ち会っていたとは思わなかった。
「ああ、あんなに小さかったのに、もうこんなに大きくなったのか。人間の成長は早いな」
族長は僕の頭を撫でて立ち上がった。
「歓迎の宴の用意をしてある。シロと言ったか?そのウルフにはこの部屋は狭いだろう。下に降りよう。広場で宴会だ」
おじさんは俺の時は適当なのになと言って苦笑していた。それくらい僕の来訪を喜んでくれているらしい。僕はなんだかくすぐったい気持ちになった。
広場に行くと、宴の準備が整っていた。大勢のエルフが肉を焼いたりしている。
「森は退屈なのでな、みな騒げる機会があるととことん騒ぐのだ。だから遠慮せずに楽しんでくれ」
僕は頷いて席に座る。ふかふかの絨毯とクッションが敷いてあって快適だ。シロ達にも席が用意されていた。エルフ達にシロは大人気なようで、会うエルフ皆に素敵な従魔ですねと言われる。
「ウルフはエルフとは共生関係にある。協力しあって生きているのだよ。だからエルフの『テイマー』一族はとても高い地位にいる。『占い師』の一族と同等だな。エリスのウルフはこの森のウルフより大きいし、白く美しい。そんなウルフをテイムしているエリスも一目置かれているはずだ」
エルフには『テイマー』の一族もいるのか、ウルフと共生なんて素敵だな。流石森の民だ。
僕は族長の言葉に甘えて宴を楽しむことにした。
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