69.毒の出処
客間から出るとおじさんが待っていた。おじさんは僕の頭を撫でると、話し出した。
「暫くエルフの里に行ってくる。ちょっと問題が発生してな」
エルフの里に行かなければならない程の問題とはなんだろう。スーナさんとなにか関係あるんだろうか。
僕が困惑しているのに気づいたおじさんは、説明してくれる。
「彼女が盛られていた毒はエルフにしか効かない毒だ。元々エルフにはほとんどの人間にとっての毒物が効かないが、この毒は特別だ。エルフにだけ効くように調合されている」
そんな毒があったのか。だから報告に行かなきゃならないのかな。
「問題はこの毒が、数十年前に俺達が製法を完全に葬り去ったと思っていた毒と同じものだと言うことだ。俺達の落ち度だ。またひと暴れしないといけないかもしれないな」
そっか、一度その毒を作っていた人達を捕まえたけど、まだ残党が残っていたのか。きっとエルフとも、毒を根絶させると約束していたんだろう。だから事情を説明しに行くということか。
僕はおじさんが心配になった。おじさんはまだ四十代半ばで、七賢者の中では一番若い。だからこそ、おじさんはおばあちゃんが居なくなった今も、おばあちゃん達が作った平和を守ろうとしている。
まだ七賢者の内五人は生きている。一人は生死不明だ。でも年齢的にそろそろ引退という歳の人が多い。おじさんは若さゆえにこれから何かある度最前線で戦わなければならないだろう。いくら最強の魔法使いでも、不死身ではないんだ。エルフと喧嘩になったらどうしよう。おじさんもたくさんのエルフに囲まれたらやられてしまうかもしれない。
「エリス、何を考えているのか知らないが、大丈夫だ。俺だって伊達に七賢者と呼ばれているわけじゃないんだぞ。ちゃんと帰ってくるから、心配すんな」
どうやら全部顔に出ていたらしい。おじさんは僕の頭を撫でる。
「ちゃんと帰ってきてね」
「ああ、約束する」
おじさんは可笑しそうに笑うと足早に屋敷を出ていった。僕はなんだか寂しくなってシロを撫でる。アオとモモはシロの上で眠っていた。休憩しながらだったけど、沢山踊って疲れたんだろう。
僕は部屋に戻ってアオとモモをベッドの上に置いた。僕もなんだか疲れてしまった。夕食まで一眠りしようかな。
少しうたた寝をしていたら、夕食だと起こされた。食堂に行くと、お父さんは居なかった。ジュダ君達もまだスーナさんが起き上がれないので部屋で食べているという。お母さんと兄さんと今日のコンテストの話をしながら夕食を食べる。心なしか夕食が豪華だったのはシェフの人が気を使ってくれたんだろう。あとでお礼を言いに行こう。
「しかし、あれだけ派手に収集家達が摘発されたのに、まだ人の従魔に手を出そうとする輩が居るんだね。テイマーコンテストの警備にうちも協力すべきかな」
兄さんが溜息をつきながらいう。確かに抑止力にはなりそうだ。
「従魔を売って欲しいって声をかけられるのが毎年のことみたいだよ」
僕が言うと、兄さんは頭を抱えてしまった。
「そんなコンテストに出ている人間が簡単に従魔を手放すはず無いだろうに。テイマーの従魔を持てる数にも上限があるんだぞ」
そう、従魔に出来るのは強い魔物だとぜいぜい三匹程度。弱いのでも五、六匹程度が限界だ。テイマーとしての素質が優れていれば強い魔物を五匹程度テイムすることも可能だけど、なかなかそんな人見かけない。僕はまだテイム数に余裕がありそうだけど、次あたりが限界なんじゃないかと思う。
従魔になると魔物はテイマーと同等の寿命と適度な知性を持つ事になる。だから長く野生より安全に楽しめると収集家に狙われるんだけど、テイマーは数限りある従魔を売ることは少ないんだ。無限にテイムできるんだったら小遣い稼ぎに売る人も居るかもしれないけどね。嫌な話だ。
「誘拐されそうになってる従魔もいたよ」
「それも通報があったから知ってる。毎年なんだよな。だから近くの衛兵には当日は警戒するよう言ってあるよ」
兄さんは次期領主だから頭を悩ませているようだ。誘拐しているのは小遣い稼ぎで収集家に従魔を売りたい小悪党が多いらしい。買う人がいるからそんな事が起きるんだ。
楽しいイベントを台無しにしないで欲しいな。
視界の隅でアオが憤っている。シロも狙われるのかなと不安そうだ。シロは狙われても大きいから攫いにくいだろう。アオとモモもシロといつも一緒にいるから大丈夫だと信じたい。
夕食後、僕はおばあちゃんに今日の出来事を報告する。
おばあちゃんが従魔を持ったら気をつけろと言っていた意味が今日はよくわかった気がする。
でもコンテストは楽しかったな。来年もみんなで頑張るよ。
その日の夢は前世の僕が愛犬のポメラニアンとドッグランに行く夢だった。この世界にもそんな施設があったらいいのに。今度主催のドナさんに会ったら話してみようかな。
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