63.ダンスの特訓
今日は冒険も休みの休日だ。午前中少しだけ回復薬を作るのをアオに手伝ってもらってからは、ずっとアオとモモはダンスの練習をしている。今も安価版の回復薬を作る僕の後ろで二匹は頑張っていた。
『ここでターンなの!そう、モモよく出来てるの!』
アオが振り付けを担当しているらしいダンスは、僕から見てもちゃんと形になっていた。
『姉さん、ここが不安です。失敗したらどうしましょう』
モモの不安そうな声にアオが自信満々に言う。
『失敗しても堂々としていればバレないの!自信を持つの!』
当日はアオが、僕以外には聞こえないけど歌いながら踊るらしい。音楽を用意しようかと言った僕をアオが断った。ありのままの自分たちで挑むんだそうだ。報われて欲しいな。
モモがアオをトランポリンのように踏み台にして高く飛び上がる。意外とアクロバティックな振り付けに最初は目を剥いた。
でも目立っていいかもしれない。可愛いコンテストはお客さんがすぐ近くまでやってきて自由に見て回れるスタイルだから、目立てなければ失敗だ。
僕は回復薬を作り終わって、二匹に納品してくるよと言った。今日はシロとふたりきりでお出かけだ。
「なんだかアオ達が居ないと寂しいね」
僕が寒くなってきた道をシロに乗って歩きながら言うと、シロも尻尾を悲しげに下げていた。
『アオがいつも歌ってくれるから、無いとちょっと悲しいね』
一緒に頑張ってるアオたちにお土産を買っていこうとふたりで決めた。
パスカルさんのところに行くと、いつも通りパスカルさんが出迎えてくれた。
「よう、エリス、いつもありがとうな。ちょうど前のが売り切れる所だったよ」
パスカルさんは僕に暖かいお茶を出してくれて、それを飲みながら計算が終わるのを待つ。
計算が終わって代金を受け取ると、そのままお茶会になった。
「アオとモモはどうしたんだ?」
パスカルさんの疑問にテイマーコンテストに出ることになった説明をすると、パスカルさんは楽しそうな顔をしていた。
「あれか、前に一度行ったことがあるが楽しいイベントだったぞ。主催が従魔を大切にしているから、トラブルが起きないように目を光らせているしな」
月間テイマーなんて雑誌を作るくらいだ。そりゃあ従魔が好きなんだろう。僕も今月から愛読することにしている。いい情報だけでなく危険なことも教えてくれるからとてもタメになる雑誌だ。
「でも気をつけろよ。絶対に会場とその周囲では従魔から目を離すな。シロはいいとしてアオとモモは小さい上にレアだからな。目をつけられてさらわれる可能性も無くはない」
僕はそれを聞いて気を引き締めた。そうだ、いい人間ばかりじゃないんだ。僕にはアオ達を守る義務がある。周囲を警戒するのは忘れない様にしよう。ちょっと高いから諦めてたけど、コンテスト前に防犯グッズを買うのもいいかもしれない。
「後は従魔を売ってくれと言ってくるやつだな。声をかけられたら迷わず領主様の家の子だって言うんだぞ」
そっか、流石に犯罪者も領主様の関係者を狙うのは避けるよね。従魔の買取打診は別に犯罪では無いんだけど、従魔を集めていることを知られると調査対象になる。違法な魔物を所持している危険性ありと判断されるんだ。調査されても大丈夫だと大々的に珍しい従魔を集めている人もいるけど、少数派だ。
なんだか不安になってきたから、帰りに防犯用の魔法道具を買おうと思う。
パスカルさんと別れると、僕はダレル君の実家のお店に行った。
「あれ?エリス?いらしゃい」
店に行くとダレル君が接客をしていた。僕は防犯用の魔法道具が二つ欲しいと言った。シロは迷ったけど今回は無しで、二匹だけにする。
「そうだね、二匹ともレアだしあった方がいいよね」
ダレル君がケースから防犯用の魔法道具を出して来てくれた。
これは従魔が魔力を流すと大きな音が鳴り響く魔法道具だ。小型なので見えないところに着けられる。その上装着者にしか外すことは出来ない。もし攫ったらずっと音が鳴り続けることになる。
僕はそれを購入すると、屋台でアオとモモが好きそうなものを見繕って帰った。
帰宅するとまだ二匹は練習をしていた。頃合いを見て二匹に防犯用魔法道具を着ける。モモはリボンの下に、アオはカチューシャの影に着けた。使い方を説明すると二匹とも嬉しそうだった。
これでコンテストの準備は万全だ。当日が楽しみだ。
ブックマークや評価をして下さると励みになります。
お気に召しましたらよろしくお願いします!




