60.ダレル君のお願い
次の日の朝、明らかに泣き腫らした目で食堂に現れた僕を皆心配した。アオが慌てて治してくれたけど、手遅れだ。
僕はおばあちゃんの遺品の中から僕宛ての手紙を見つけたんだと正直に話した。皆納得して僕を気遣ってくれた。
今日は冒険に行く日だ。寝不足でみんなに迷惑をかけないように気をつけないと。
僕はシロに乗って冒険者ギルドへ向かった。
『ひっさしぶり~の冒険なの~』
最近対抗戦の練習が多くて冒険に行けてなかったから、アオは楽しそうだ。アオの歌を聴きながら冒険者ギルドに向かっていると、なんだか日常という感じで安心する。
「おはようエリス」
そこにはテディーとグレイスがもう着いていた。僕は二人と雑談していた。
「昨日まで母さん達が来てたんだけど、観光に付き合わされて大変だったよ」
テディーの両親は地方からテディーの応援に来ていた。大変だったと言いながら楽しかったんだろう、テディーの顔は明るい。
話していると後ろからトンと肩を叩かれた。メルヴィン達だ。
「よう、対抗戦優勝おめでとう!」
メルヴィンとナディアとは対抗戦の日の朝以来話をしていない。僕達は対抗戦の話で盛り上がった。
「レッドは本当に格闘トーナメントだけに懸けてた感じだったからなー」
本当にトーナメントのレッドは凄かった。一人だけ六位だったレッドの子も、レッドの子と戦って負けたんだから、実質全員が他のクラスには負けていないことになる。
その後の競技ではどっちも惨敗だったけどね。
「でも帰りに、卒業したらこの領の騎士団に来ないかってスカウトされたんだぜ!スカウトなんてまだ先だと思ってたのに」
メルヴィンの夢は騎士になることだ。領地の騎士団に憧れの人が居るらしい。それはとても嬉しいことだろう。皆でメルヴィンに拍手した。
「なら尚更、ちゃんと卒業しないとね」
ナディアがからかうようにメルヴィンに言う。メルヴィンが素直にまた勉強会してくれとお願いしてきた。僕たちは笑う。
いつも通り森に入って魔物を倒しながら、今日は少しみんな浮ついていた。
対抗戦の話をもっと沢山したくて、いつもより少し早めに冒険を切り上げてギルドでお茶を飲むことにした。
僕達が会話で盛り上がっていると、突然声をかけられた。
「あ、居た!エリス」
級長のダレル君だった。どうして彼が冒険者ギルドに居るんだろう。
「家に行ったら冒険に行ったって聞いたから、そろそろ帰ってくる頃かと思って探してたんだ!会えて良かったよ」
わざわざ探してくれてたのか、なんの用事だろう。
「実はお願いがあるんだ。シロ達にモデルになって欲しいんだ」
みんなも興味深そうにダレル君の話を聞いている。
モデルって何のモデルだろう。
「今度うちの店で新作を出すんだけど、撮影機で画像を撮ってお店に飾ろうって事になったんだ。シロ達にそのモデルになって欲しいんだ。勿論報酬は出すよ」
撮影機は結構高い。ダレル君の家は大きな商家だもんな。
『モデル……素敵な響きなの!エリス!この依頼受けるの!』
アオがテンション高く僕に訴える。シロはあまり興味が無さそうだ。
『お手伝いすればいいの?いいよ』
それでもいいと言ってくれる。モモは二人に任せることにしたようだ。頷いている。
「みんないいって。何時がいいかな?」
ダレル君は喜んで、次の学校の日の放課後に家に来て欲しいと言った。特にアオはスライムカチューシャの他にリボンや帽子なんかも新作で出るらしく、沢山撮りたいのだという。アオがキラキラした目でこちらを見ていた。
実は学園には少ないけど、スライム自体はテイマーに人気の従魔なんだ。理由は掃除ができるからだ。なんでも食べるからね。特にお店を営業している人には人気だ。アオは回復魔法が使えるから普通のスライムとは違いレア個体だけど、外見は他のスライムと同じだからモデルには丁度いいだろう。
僕はダレル君と約束すると、ダレル君は帰って行った。
「凄いですね!みんな有名人になっちゃいますよ!」
グレイスの言葉にアオが胸を張って言う。
『とうとう皆が私の可愛さにひれ伏す日が来るの!』
僕は笑いながらアオを撫でると、良かったねと言った。アオは満足そうだ。
その後も少し話をして僕達も今日は解散になった。
帰り際もアオはずっと上機嫌だった。
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