50.飛行のスペシャリスト
家に帰ると、なんとデリックおじさんが来ていた。お母さんと兄さんと一緒にお茶を飲みながら寛いでいる。
「よお、エリス!おかえり!」
僕に気づいたおじさんは、僕を抱き上げると膝の上に座らせた。
いつもの事ながら恥ずかしい。
「挨拶がてらお前が帰ってくるの待ってたんだ。対抗戦の打ち合わせはどうだった?」
おじさんは今日がその日だと話したのを覚えてくれていたらしい。僕は今日あったアレコレを話して聞かせた。
「僕の時は一年生に積極的に練習させてくれる先輩は居なかったな。ブラックは個人主義な人が多い分、色々と寛容なのかもしれないね」
ホワイトクラスだった兄さんがブラッククラスをそう評価する。変わり者の集まりと言われているけど、そう悪いクラスじゃなかった。
普通は勝負で勝たなきゃいけない時に、使えない最下級生に指導の時間を割くと不満が出るものだけど、ブラックに関してはそんな事は全くなかった。むしろ可愛がられたぐらいだ。
「そう言えば、去年はホワイトクラスが優勝だったんだよね。去年の雪辱を晴らすって、先輩が張り切ってたよ」
僕がそう言うと、兄さんは去年は接戦だったからなと零す。
「本当に僅差だったんだよ。確かブラックの五年の級長も選手に選ばれてたから、相当悔しかったんじゃないかな?」
おじさんは青春だなと笑っている。
僕はふと思いついて、おじさんに上手く魔法を避けるにはどうすればいいのか聞いてみた。
おじさんは少し考えると言った。
「それは俺より飛行のスペシャリストに聞いてみたらどうだ?」
誰だろう、メリッサさんのことだろうか。でも彼女は忙しいだろう。
「違う違う、この間会っただろう?いつも飛んでる子達に」
あ、妖精のことか。確かに彼女達は飛行のスペシャリストだろう。いつも飛んでいるんだから。
確かに妖精に教えてもらうのはいいかもしれない。娯楽の少ない森の中に住んでいる彼女達なら、遊びがてら楽しく付き合ってくれるだろう。
「メリッサも昔は妖精に飛び方を教えてもらったらしいぞ」
七賢者の一人がそうなら、僕たちも彼女達に教えてもらえば上達するかもしれない。
それに陣取り合戦を妖精に教えてみたら面白いことになりそうだ。彼女たち用に小さい色の変わるキューブでも作ってもらおうかな。魔法陣さえ手に入れば、テディーなら作れるかもしれない。
「へえ妖精の陣取り合戦か、見てみたいな。よし、俺が妖精用のキューブを作ってやるよ」
おじさんは興味津々で僕の話を聞いていたと思ったら、嬉しい提案をしてくれた。
おじさんのジョブは『魔法使い』だ、魔女と同じで魔法に関係する事の全ての才能を持っている、即ち『魔法道具技師』や『まじない師』などの複数のジョブを持っているのと同じなんだ。
だから代々国に仕えさせられてきた。
当然魔法道具を製作する腕も本職の『魔法道具技師』と変わりない。
「やった!おじさんありがとう」
僕は上機嫌で妖精の里に行く計画をたてた。
その日の夕食はおじさんも一緒だった。
お父さんが学園に通っていた頃の話も聞くことが出来てなかなか面白かった。二十年程前はクラス対抗戦は今みたいに多くの人が見に来るものでは無かったらしい。今でこそ優秀な人材を見つけてスカウトするための場になっているが、元はただの授業の一貫だったようだ。
ちなみにお父さんはイエロークラスだった。
おじさんは丁度おばあちゃんが貴族を粛清して革命を起こした時の子供だったので、慌ただしくて学園に通う暇がなかったらしく、羨ましがっていた。必要な勉強は賢者達に教わったようだ。
きっと大変な時代だったんだろうな。
夕食後におじさんを玄関で見送って、僕は部屋に戻った。
クラス対抗戦はおばあちゃんが学園の貴族を締め上げた後から始まった行事らしくて、おじさんが確か発案者の中におばあちゃんが居たはずだと教えてくれた。
僕はベッドに横になりながらおばあちゃんに感謝した。おばあちゃんのお陰で僕は楽しく学園生活を送れているんだ。
クラス対抗戦も花形の競技にはまだ出られないけど、今から楽しみだ。おばあちゃんも見に来られたらいいのにな。
その日の夢は運動会の夢だった。僕は小麦粉に顔を突っ込んで真っ白になっていた。なぜよりによってその競技を選んだのか。前世の僕はひょうきん者だったらしい。
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